第八話 終業式、彼女と初めて遊ぶ日



「で、冬休みは事故に気を付けろよ。
大学行く奴はもうラストスパートだ、頑張れよ!!」

今日は二学期最後の日だ。
もういつのまにか高校三年生の二学期も終わりか・・・
やはり三年生ということもあり、担任の挨拶は受験生を応援するものとなった。

まぁオレはこの高校の姉妹校である、コンピューターの学校に行くことが決まってるし気楽なものだ。

それに、今年のオレには桜井という彼女がいる!!
この冬休みは桜井と遊ぶぞ!!彼女と供に年を越すなんてのも良いなぁ・・・

「よし、解散!!
くどいようだが、くれぐれも事故には気を付けるように!!」

担任の解散の声と供に生徒は一斉に席を立つ。
仲の良い者同士集まりこれから遊びに行く者、さっさと帰る者、未だに席で勉強する者、様々だ。
オレはというと・・・

「叶野!!この後予定あるか?
せっかくだしよ、三人でカラオケにでも行こうぜ!!」

「オレ達学校以外で遊んだことないからね。どう?」

石井と田中はオレの席に集まり、オレをカラオケに誘う。
だが今日オレは・・・

「わりぃ・・・今日はちょっと予定が・・・」

「この前出来た彼女かよ〜!!
くっそ〜羨ましいなぁ彼女持ちはよぉ!!」

「ほんとに悪いな、せっかく誘ってもらって・・・」

「ははは、しょうがいよ。
そりゃ出来たばっかの彼女さんの方が大事に決まってるだろ。
叶野、気にせず彼女さんと遊びなよ。」

「悪い。また何かあったら誘ってくれ、じゃあな!!」

「ああ、良いお年を〜。」

「そのうちオマエの彼女の友達紹介してくれよぉ!!」

オレは石井と田中に挨拶をした後、すぐさま教室を出る。
少し冷たかったか?いや、桜井の方が大事だしな。
それに、ここでの友達なんて高校が終わったらそれまでの関係だろ・・・
自分にそう言い聞かせ帰路を急ぐことにする。

そう、今日オレは学校が終わった後、桜井と遊ぶ約束をしている。
付き合ってから一週間ちょっと経つが、ちゃんと遊ぶのは今日が初めてだ。
付き合ってからというものの、お互いのバイトのシフトの関係上、遊べる日が無かったのだ。
そのため、寂しいことに今までメールだけだった・・・
だが今日はお互いバイトが休みであり、学校も午前だけである。
たくさん遊ぶ時間はあるのだ。
オレは家に着くなり、すぐ着替える。

「またキス、したいなぁ・・・」

と思いつつ、桜井にメールをする。

『こっちはもう学校終わったよ。桜井も終わった?』

よし、メールの返事が来る前に昼飯終わらせておくか。
オレは昼飯を適当に済ませ、メールを待つ。

だがなかなかメールが返って来ない。
桜井も今日終業式のはずだよな・・・?

考えてもどうしようもない。
テレビでも付けてみる。

今の時間は12:30。
あぁ、このバラエティ番組、観るのってこういう日しかないよなぁ・・・
そういえば最近オープニングで歌を歌わなくなったらしい。
ま、どうでもいいけど・・・

「・・・・・」

バラエティ番組も終わり、時計は13:00を指す。
一体どうなってるのさ?

ブブブブブブ

「電話?」

それは携帯が震える音。
家に帰って来てからマナーモード解除してなかったんだった。
一体誰だ?このタイミング、桜井・・・?

「はい、もしもし・・・」

連絡がまったく無いせいか、オレの第一声は不機嫌気味だった。

「叶野君?遅くなってごめん・・・
友達とずっとお話してて・・・やっぱ怒ってる?」

「・・・全然怒ってないよ?」

んな訳ない。正直怒っている。
だがここで文句を言っても仕方ないし、付き合ったばっかなのに些細なことで喧嘩もしたくないし・・・
そんなことを考えながら怒りを何とか静める。

「ホントにごめんね・・・?
それでさ、今日友達とカラオケ行くことになっちゃって、遊ぶの夕方で良いかな?」

こんだけ待たせといてそれかよ!!
連絡が遅い、遊ぶのが遅れる、のダブルパンチ!!
だがオレは男だ、何とか我慢を・・・

「あ、そうなんだ・・・
いいよ、終わったら教えてよ。」

「ホントにごめん・・・
終わったら連絡するね?そんなに遅くはならないと思うから・・・」

「いいよいいよ、こっちは気にしないで。」

「うん・・・それじゃあまた後でね。」

「うん、ばいばい。」

・・・・・・・

オレは携帯をベッドの上に投げる。

せっかく今日は終業式で、遊ぶ時間一杯あったのに・・・
オレは桜井のために石井と田中の誘いも断ったんだぞ?
なのに桜井は友達と遊ぶって・・・

ダメだ、イライラするな・・・
オレなんかに彼女が出来るなんて、もう今後こんなチャンスは訪れないだろう。
やっと出来た彼女、ここで失うのは勿体ない・・・

「すぅぅ・・・」

とりあえず深呼吸。

「ふぅぅぅぅぅ・・・」

こんなことになるんだったら、石井と田中と遊ぶんだったな・・・
今更考えても遅い。そんな傷ついたオレが今やるべきこと、それは・・・

「エロゲーでもやるか・・・」

エロゲーであった。
いつもNative2だから、たまには別のにしようか・・・
よし、"Pureキャロットへようこそ!!"にしよう!!
このPureキャロは、オレがファミレスでバイトを始めるキッカケだったな、そういえば・・・
そんなことを思い出しつつ、オレはPureキャロを始めからプレイするのだった。





『ごめん、ごめんね・・・
あなたのこと、嫌いじゃない・・・だけど!!』

PCのスピーカーから、女の子の必死の声が流れる。
今、メインのヒロインとの良いシーンなのだ。

泣けるなぁ・・・
お互いの気持ちは知っているはずなのに、お互い素直になれずなかなか前に進めない・・・
このヒロインとのEDは既に見たことあるので結果は知っているのだが、何度見ても感動するよ。
オレもこんなドラマチックな恋愛、桜井と出来るのかな・・・

『気にしなくていいんだよ・・・?』

「!!」

『彰は頑張ったよ、私は大丈夫だから。
だから気にしないで、ね・・・?』

「・・・・・」

そうだった、現実はそんなドラマチックにはいかない。
オレは過去に一度経験しているじゃないか。
ゲームのように都合が良いことばかりじゃない・・・

ブブブブブ

オレは携帯のバイブ音で現実に戻された。
いかんな・・・オレは桜井と付き合った以上、過去のことを思い出すなんて・・・
彼女が出来てもエロゲーをやっている男が言えることじゃないけどね。

「もしもし」

『叶野君ごめんね・・・今終わったよ。
遅くなっちゃったけど、どうしよっか・・・』

時計を見ると、もうじき18時をまわるところだ。
いくらなんでも遅すぎだろ・・・
18時からは見たいアニメもあるし・・・

「どうするって・・・もう時間ないじゃん・・・」

さすがに我慢が出来なくなり、オレは続ける。

「せっかく今日はお互い学校早く終わるし、遊ぶ時間が一杯あるって思ったのに・・・」

『ごめん・・・』

「オレだって友達に誘われたけど断ったぞ?
それなのに桜井は何だよ・・・友達と長い時間遊んでさぁ・・・」

『ほんとにごめん・・・』

「もういいよ・・・
今日は遅いし、遊ぶのは今度にしよ。」

桜井には言えないが、
もうここまで来たら遊ぶ気分にもならないし、毎週観ているアニメもやるし・・・

『今から叶野君の家に行ってもいい・・・?
直接謝りたいよ・・・』

「いいよ別に・・・
もう外暗いし、早く家帰りなよ。」

『行くから。だから待っててね?』

ツーツー・・・

「切れちゃったよ・・・」

強引な子だな・・・
桜井てこんな子だったっけ?
オレの中での桜井の印象は、いつも元気で明るくて
誰とでもすぐ打ち解けられる女の子である。

オレは、そんな桜井に引かれたのか?
いやどうだろう・・・

正直、いきなり家に遊びに来ることになり、それで一人で勘違いしていた。
だから初めから桜井が好きとかじゃなく、ただノリというか、勢いだったのだ。
だが告白を断られて、自分が勝手に先走ったことに気が付いた。

でもその後、桜井はオレを好きだと言ってくれた。
オレのことを好きだと言ってくれて、そのときオレも桜井のことを本気で好きになったんだ。

この気持ちは勢いなんかじゃない・・・と思いたい。
だから桜井が来たら、もう怒ってないよ、と言ってあげなきゃな・・・

さっきまでは桜井に対して怒りの感情が沸いていたが、
桜井が好きだと言ってくれたこと、それを思い出したら不思議と怒りの感情は消えた。

「単純だよな、オレも・・・」

桜井が来る前にアニメは録画予約しておこう・・・
念のためにね。

ピンポーン

しばらくしてインターホンが鳴った。
桜井が来たのだ。

「叶野君・・・」

扉を開けた先には、少し元気が無さげな制服姿の桜井がいた。

「今日はごめん・・・」

「もう怒ってないから、いいよ。」

「うん・・・」

せっかく来てもらったし、このまま帰らすのもアレだな・・・

「外、寒かっただろ?
暖かい飲み物出してやるから、上がってよ。」

「いいの?」

「いいよ、気にするな。」

「じゃあ上がらせてもらうね・・・おじゃましまぁす。」

「今、親いないからそんなこと言わなくてもいいぞ。」

「・・そうなの?」

ん?なんかオレさりげなく誤解されそうなこと言ってない?
誰もいないだなんて・・・決してやましい気持ちで家に上がってもらう訳じゃないぞ!?

「いやいやいやいや!!勘違いするなよ!
そういう意味で言ったわけじゃないからな!?」

なんで必死なんだオレ・・・

「ぷっ、あははははは。」

あ、でもやっと笑ってくれた。
やっぱり桜井は笑顔が可愛い・・・

桜井を部屋に入れたあと、オレは暖かい飲み物を入れに行く。
もちろんインスタントコーヒーだけどな。

「おまたせ。」

「ありがと〜。」

良かった。もうすっかりいつもの桜井だ。

「砂糖、いる?」

「あたし、砂糖四個とミルクたっぷりじゃないとコーヒー飲めない・・・」

お子様だ。
桜井は見た目も性格も幼い。
だがそれが桜井の魅力でもある。
コーヒーは甘くないと飲めないだなんて、可愛いじゃないか。

「お子様だなぁ。」

「どうせあたしはお子様だよ!!」

「ははははは」

付き合ってからこうやって直接喋るの初めてだったな。
でも不思議と緊張しない。なんか和む。
ん?そいや、なんか違和感がある。
あ、髪型が・・・

「髪形、いつもと違うんだ?」

桜井の髪の長さは肩まであり、普段は下ろしている状態だ。
たまに前髪をピンで止めたりしていたっけ。
だが今日は後ろで束ねてアップにしている。
束ねているおかげでうなじが見え、それが妙に色っぽいというか・・・

「やっと気が付いた?
・・・今日は叶野君と遊ぶつもりだったから、変えてみたんだけど・・・」

「ああ、いいよいいよ、もうそれは気にしなくて!!
でもいつものも可愛いけど、今日のも似合ってて可愛いよ。」

うっわ、言った後気が付いた。
オレ結構恥ずかしいこと言ってる・・・

「ありがと・・・」

桜井は可愛いと言われて照れている。
そんな姿を見てしまい、オレも照れる・・・

さっきまでまったく緊張していなかったが、急に心臓の鼓動が早くなる。
お互い何も喋らずしばらく沈黙が続く。
そんな沈黙を先に破ったのは桜井だった。

「久しぶりにキス、したいな・・・」

それは桜井からの誘い・・・
小さい声であったがオレは聞き逃さなかった。

「・・・オレも。」

桜井は目を瞑り、顔を近づける・・・
それにオレは応える。
オレも目を瞑り、この前より優しく、唇を重ね・・・

「ん・・・」

この前は気付かなかったが、こうやって近づくと甘い香りがする・・・
なんていうんだろう、女の子の匂いなのかな。
それは香水とかそういうんじゃなく、自然な、桜井自身の匂い。

目を開けると、そこには桜井の顔が、
そして制服が少しズレて肩、鎖骨が見える・・・
こんなの見てしまったら・・・

オレは舌で桜井の唇を押し広げ、そのまま桜井の口に侵入させていく・・・

「ん・・・」

不思議と、桜井は拒むことは無かった・・・
むしろ桜井からも積極的に舌を絡ませてくる。
オレもそれに負けず舌を絡ませる。

そしてしばらくディープキスを堪能し唇を離した後、

「いいよ・・・」

!!
これはまさか!?

「え・・・?」

「そういうこと・・・いいよ。」

オレは桜井の思わぬ発言にしばらく固まった。
桜井と・・・そういうことが出来る。
嬉しさもあれば・・・オレにとっては不安の方が大きかった・・・
果たしてオレに、桜井の誘いに応えてやれるだろうか。
うまく・・・出来るのか?


次へ

前へ

戻る