第七話 愛情と友情



「じゃあ叶野君、お母さんに見つかるとアレだしここで・・・」

「おう・・・じゃあまたな。」

「うん・・・また家着いて、落ち着いたらでいいからメールしてね?」

「わかった、それじゃ・・・」

桜井の唇の感触が名残惜しいが、そうも言っていられない。
男の子と違って、女の子の家は色々うるさいのだろう。
オレ達は今日のところはこれで別れることした。

まだ実感が湧かないが、オレ達付き合うことになったんだよな・・・
付き合ったからには桜井のあの綺麗な足が触り放題・・・
そんなイヤらしい妄想たっぷりでオレは家路につくことにする。





イヤらしい妄想はまだ続くなか、オレは家の扉を開ける。
開けるとそこには見慣れた靴が・・・
この靴はまさか・・・

オレはリビングへ向かう。
と、そこにはやはり奴がいた!!

「あら彰、今日は少し遅かったのね。」

「おう彰、おかえり。今日のメシはしょうが焼きだぞ?」

やはり圭介だった。

「しょうが焼きだぞ?・・・じゃねぇよ!!
なんでテメェが人の家で当たり前のようにメシ食ってんだよ!!」

「いやいや、オマエの携帯に電話しても出てくれなくてよ。
家に電話したらオマエの母ちゃんが出て、ご飯食べてないんだったら食べていきなって。」

「おかん、あんまこいつを甘やかすな。
家にはそんな金があるわけじゃないんだから。」

「いいじゃない。圭介は一人暮らしなんだし、栄養付けないと。」

「ほんと、いつもごちそうさまです。」

「はぁ・・・」

圭介は一人暮らしのフリーターだ。
やはり男の一人暮らしのため、食事は適当なものばかりである。

いつだったか圭介が家に遊びに来たとき、圭介は栄養失調気味なのか顔が真っ青のときがあった。
そんなことがあったもんだから、オレの母親は心配してよくタダメシを食わせるようになった。
圭介もタダメシにありつけるのを狙っているフシがあるようだが・・・
圭介はダメな男であるが、それ以上にこの母親もダメすぎるだろう・・・

「彰、あんたは食べないの?」

「食べるよ、疲れたからご飯多めで。」

「はいはい。」

そしてオレの前にはしょうが焼きと、ご飯大盛りが置かれる。
大盛りてか特盛りじゃん。

メシの用意が終わった母親は、同じくメシを食い終わった圭介とお喋りを始める。
何故かウチの母親と圭介は仲が良いんだよな。
まさかそういう関係!?・・・な訳ないよ。
圭介が働いているバイト、確かホテルの受付だっけか?
そこにはおばちゃん連中も多い。そのためかおばちゃん系と話が合うのだろう。
マダムキラーか?確かに圭介は年上が好きみたいだけどな。
さすがにおばちゃんは無いと思う。・・・そう信じたい。

「彰、先にオマエの部屋で遊んでるわ。」

オレの母親と会話が終わったのか、圭介はオレの部屋に行く。
まったく、今日はゆっくり桜井とメールで語りたかったのに・・・

圭介はオレのいないときでもよく家に来る。
母親はまったく気にせず家にあげる。
そして奴はオレが帰って来るまで漫画を読んだりテレビを観たり・・・
かなりフリーダムだ。

「ごちそうさま」

オレは食器を流し台まで持って行き、自分の部屋に戻る。
部屋に戻るとまったく予想通り、奴はベッドの上で漫画を読んでいた。

「おぅ食べ終わったか。じゃあまた格ゲーでもすっか。」

「いや、オレは女の子とメールするから。
今日はオマエは一人で遊んでてくれ。」

「おいおい、つれねぇぜブラザー。
まだこの前の女の子とメール続いてるのか?」

そうか、こいつにはオレが告白して一度フラれたこと知らなかったな。
まぁ付き合いが長い訳だし教えてやるか。

「いや実はさ、オレ彼女出来たんだ。」

「ん?今度はどんなゲームにハマったんだ?」

「いや、そっちじゃなくて・・・リアルで。」

「・・・・・」

「・・・・・」

「オマエ、幻覚症状?モテないからってついに末期か?」

「信じられないのは分かるがマジだ。」

「マジか。」

「だからマジだ。」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」

「えーーーーーー!?マジかよ!!」

「ああ。まぁ結構色々あったんだが。」

オレは告白したこと、一度フラれたこと、今日付き合うことになったことを話した。

「かーっ・・・ついにオマエはエロゲー脱出かよ。」

「いや、彼女が出来てもエロゲーはエロゲー、止める気はないけどな。」

「そうか・・・エロゲーは彼女にはバレないようにしろよ。引くぞ。」

「だろうね。大丈夫、隠し通すよ。」

「しかし、オマエがついに彼女か・・・
あの子、名前なんつったけな。チラっとしか見てないから顔覚えてないが、あの子以来だな。」

「・・・そうだな。」

「あのときは色々あって終わってしまったが、今度はうまくやれよ。」

「ああ、うまくやるよ。
だから今日はオマエ、一人で遊んでてくれ。オレは彼女とメールするから。」

「そうやってオマエは友情より愛情を選ぶのね・・・」

「何を今更。では漫画を読むなり、ゲームをするなりどうぞ〜。」

「わかったよ。それじゃオレは一人で遊んでるよ・・・」

圭介は一人で格闘ゲームを始めだした。
よし、これでオレは桜井とのメールに集中出来る。
オレはさっそく桜井へのメールを打ち始める。

・・・何を送ったらいいんだろう?
いきなり付き合うことになったわけだが、今まで通りのメールでいいのだろうか?
どうしたらいいか分からないので、とりあえずいつも通りの内容を打つ。

『家に帰って来て、メシ食い終わった。
桜井もメシ食ったか?』

何かあまりに普通だ・・・
だが何か今日のことをこっちから話題振るのも恥ずかしいし・・・
いいやこれで。・・・よし、送信完了。

メールを送って数分で返事が返って来た。
早いな、もしかして待っててくれたとか?

『おかえり〜。
あたしもさっき食べ終わった〜。今日はうどんだったよ!!』

向こうから帰って来たメールも案外普通だった。
と思ったら改行してあって気付かなかったが、下にまだ続きがある。

『今日はあたしのわがままに付き合ってくれてありがと・・・
今日から彼氏と彼女だけどうまくやっていこうね!!
・・・突然キスなんかするからビックリしちゃった・・・』

読んでるこっちが照れる・・・
桜井のメールを読んで、改めて付き合ってることを再認識する。

「ニヤニヤしちゃってまぁ・・・」

圭介に言われずとも、今自分がどれだけニヤけているか分かる。

「うらやましいか?」

「別に。」

圭介はつまらなさそうにゲームを続ける。

「ではさっそくメールの返事をするか。」

オレは圭介を気にせずメールを打つ。

『桜井がオレのことを好きって聞いてビックリした。すごく嬉しかったよ。
キスは・・・まぁ急に愛しくなったから・・・突然ですまん。』

『叶野君の真っ直ぐな気持ちにやられちゃいました(笑)
だからあたしの気持ちもちゃんと受け止めてね?
突然でも、すごく嬉しかったよキス!!
あたしと叶野君の初めてのキスだね・・・
これからも一杯チューしてこうね!!
もうすぐクリスマスだよね?二人ともバイトになっちゃったけど、
バイトの時間まで一緒に遊ぶのどうかな?』

あぁぁぁぁぁぁ、桜井可愛いよ・・・
可愛すぎるよ桜井ぃぃぃぃぃぃぃ!!

「何奇声発しながら暴れてるんだオマエは・・・」

「失礼、気にしないでくれ。」

『これから一杯キスするさ!!これからは桜井を独り占め出来るんだしな。
桜井の綺麗な足だって、胸だって色々・・・(笑)
クリスマスは学校ももう冬休みだし、一緒に遊ぶか。
確か二人供、18時出勤だからそれまで遊べるよな。』

ちょっといやらしい内容もあるが構わないだろう。付き合ってるんだし。
それにこれくらいの茶目っ気があったほうが彼氏ぽくないか?
そう思うのはオレだけ?いや、でもほら、桜井の足すごく綺麗だったし・・・

『足、胸て・・・おいおい(苦笑)全然綺麗な足じゃないよ。
あと、そういうヤラしいことは嫌いじゃないけどやっぱりすぐには・・・ね。
クリスマスどこに遊びに行くかはまたゆっくり決めよ。
あたしお風呂入ってくるね〜。』

すぐには無理だけど、ヤラしいことは嫌いじゃない・・・
これは予想外、桜井は案外そういうこと好きなのか!?
オレの脳内にいけない妄想ばかりが広がる。
どれもエロゲーのイベントシーンに桜井を重ねたような妄想ばかり・・・
ダメだ!!そういうマニアックなプレイは嫌いじゃない!!
好き?嫌い?好き?嫌い?
嫌いじゃないけど、いきなりは無理!!
好感度を上げて、H度を上げてからじゃないとぉ!!

「・・・・・」

圭介の冷たい視線で我に返る。
クールに行こうぜ彰・・・

桜井は風呂に入るって言ってるし、このメールの返事を打ったら圭介の相手をしてやるか。

『いってら〜。またお風呂出たら返事くれな。』

よし。オレは携帯を置き、しばらく圭介の相手をすることにする。
と思ったら、圭介はもうゲームの電源を落としてしまった。

「もう止めるのか?」

「ああ、もうこんな時間だしな。
オマエ明日も学校なんだろ?だから帰るよ。」

「そうか。なんだか悪いな。」

「いや、彼女が出来たんだし、そうなる気持ちは分かるさ。
んじゃな。今度は勝手に家に上がったりしないから。
ちゃんと来るときは連絡するよ。」

「ああ・・・」

オレは圭介を見送る。
なんだかホントに罪悪感感じるなぁ・・・






圭介が帰った後、オレも風呂に入る。
そして風呂の中で考えた。

友情より愛情・・・

誰かが言っていたのか、何かで読んだのか、オレはその言葉を思い出した。

確かに友情は大事だと思う。
長い付き合いだと尚更、大切にしなきゃいけない。

だが恋人が出来てしまったら、果たして友情はこのまま続けられるのだろうか?
愛情と友情・・・両方を取ることは可能なのか?
どちらかを犠牲にしなければ、愛情や友情は成り立たないのではないか?

答えはまだオレには分からない・・・
まだオレの恋は始まったばかりだから。

オレは圭介とも、桜井とも、この関係が続けば欲しいと思う。
だが、このまま桜井との関係を続けていけば圭介との仲が疎遠となる可能性もあるだろう。
最悪の場合、圭介との仲がそこで終わる可能性だってある。

もしどちらかしか取れないのだとしたら・・・
いつか決断を迫られるときが来るだろう。
そのときオレはどうする・・・?

答えがまだわからない訳なんて無い。
もう答えは出ているんだ・・・今のオレの中で桜井の存在は大きい。
決まっている、オレは圭介との友情より、桜井を選ぶ。

例え圭介との友情が何年続いていたとしてもオレは桜井のためなら捨てる。
それくらい今のオレは桜井が好きなんだ・・・


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