第四十九話
Liar's smile



あれからも、綾音とオレの関係は続いた。
綾音が遊びやエッチに誘ってきたらそれに応え、
でもオレの気分はまったく乗らず・・・
綾音はいつも通り楽しそうに接してくれるが、それが辛い・・・

「また遊ぼうねー。」

遊んだ帰るときに必ずそんな言葉を言われる。
綾音は、まだオレの事を好きなのかもしれない。
だがオレは・・・
オレが好きなのはオマエじゃないんだよ・・・

そんな調子が続き、年が空け、今日はバレンタイン・・・
結局別れられないままズルズルと何ヶ月もオレは・・・
ダメダメのヘタレ男だよ・・・

バレンタインだというのに、今年もオレは風邪を引きました。
何故バレンタインに限ってなんだ・・・

しかも、今日はバレンタインだけじゃない。
今日は・・・綾音と付き合って1年目なんだ・・・

今でも忘れない。
綾音はバレンタインの夜、一度フッた男の家に来たんだ。
チョコを持って・・・そしてオレに告白して・・・
あの時はすごく嬉しかった。

でも今思えば、綾音は勝手すぎるというか何というか・・・
結局、合田にフラれたから、一番手頃なオレの所へ戻って来たような・・・
そんな気がしてきた。

あのときは、あまりの嬉しさでそんな事考えてなかったが・・・
どう考えてもそうだろう。そうに決まっている。
そうじゃなかったら、何で一度フッた男のところに戻るんだっての。

人を一度好きじゃなくなれば、その人の嫌な部分しか見えなくなる。
これが普通か、オレが変わっているのか・・・それは分からないが。
今は本当に綾音の嫌な部分しか見ていない。
今まで良く見えていた部分も、深く考えて悪いように変換してしまう。
本当に綾音はオレを好きなのか、寂しいから誰でも良かったのか・・・

一年記念だからどっか遊びに行こうと言われたが、こんな考えのままじゃとても遊べない。
本気で風邪だからっていうのもあるが・・・
綾音は残念そうで、何か悪い事したかという気分にさせられる。

でも・・・これで良かったんだ。
綾音は本当にオレを好きでいてくれたとしても、オレはもう綾音の事は好きじゃない。
オレから言って別れられないなら、オレが嫌われて、綾音から別れたいって言えばいい。
だから、こういう大事な日に風邪とはいえ遊べないというのも、むしろ効果的だったんじゃ・・・

「・・・・・」

本当に最低な考え方だ・・・
だが、綾音だってオレをフッた事あるし、フッた男の前で他の男とイチャイチャするくらいだ。
同じだよ。相手に不愉快な思いをさせているのはな・・・

いかんな・・・
風邪だからか、こういうマイナスな事ばっかり考えているのか?
考えれば考えるほど疲れる・・・

なんだか人肌が恋しい・・・
悩み事ばかりで疲れているときって、人に甘えたくなる。
だが、オレが本当に甘えたい相手、優は・・・
綾音との関係が完全に切れない限り、オレは優とは会わない事にした。
連絡もよっぽどの事がない限りしない。
それがオレと優のためだから。優に危ない目に合って欲しくないから・・・
でも、こんな状況だし・・・優に甘えたい。

ダメだ・・・そんなのはやっぱりダメだ。
我慢しないと・・・それがオレなりのケジメだから・・・

「・・・・・」

ちょっと眠くなってきたな。
ちょっとだけ・・・寝るか・・・





「彰、起きな!!」

「ん・・・」

毎日聞き慣れたババ声とでもいうのか。母親のオレを呼ぶ声・・・
もう晩飯か?って、あれ?もう外真っ暗だけど今何時・・・?

「ん、何だよ・・・」

「桜井さんが来たんだけど。お見舞いに。」

「え・・・」

マジかよ・・・
お見舞いに、ね・・・なかなか優しいところがあるな。綾音も。

いや、本当に見舞いだけか?
一年記念日という大切な日に風邪だからな。
本当に風邪なのか確かめに来たのかもしれない・・・
包丁を持ち出してくるくらいだからな。十分考えられる。

「どうする?風邪酷そうなら・・・」

「いや・・・いいよ。部屋に入ってもらって。」

「わかった。桜井さん、いいよー。あがってって。」

「あ、はい。お邪魔しまーす。」

いつもと変わらない。あの日の事なんて、まるで無かったかのような。
そんないつもの綾音がオレの部屋に入る。そのいつもと変わらない姿や振る舞いが怖いんだよ・・・

「彰、体調大丈夫?」

「ん・・・大丈夫だよ。熱はまだちょっとあるけど。」

「そっか・・・良かった。」

「ああ・・・心配してくれてありがとな。」

「心配するよ、そりゃ・・・」

オレの風邪が心配だっていうのは本当みたいだ。
嬉しいよ、その気持ちは・・・
だけど・・・そんなに心配されても、オレの気持ちが変わる事はないんだ。
綾音は、その事に気付いているのか?
このまま、ずっとこんな関係を続けていったって、お互いのためにはならないんだよ・・・

「あ、彰。」

「ん?」

「今日は一年記念日だし、バレンタインだって覚えてる?」

「覚えてるよ、ちゃんと。」

「そっか。じゃあはいコレ。バレンタインチョコ!!」

「あ、ありがと・・・」

「体調良くなってからでいいから、食べてね。
去年よりはうまく出来てると思うから・・・じっくり味わって。」

綾音は冗談まじりで言う。
手作り・・・去年も今年も手作りチョコだ。
それだけの事をしてくれていたのに、もうオレの気持ちは・・・

「あはは・・・もちろん。味わって食べるよ。」

もう好きじゃないと言っても、やっぱり女の子からチョコを貰えるっていうのは嬉しい。
今までそんな事なかったから・・・まったくモテない男だったし。

「あの・・・彰。」

「ん?」

「去年の、覚えてる?」

「覚えてるよ・・・」

忘れるわけないだろ、そんなの・・・
オレ達がちゃんと付き合いを始めた日なんだから。

「あたしのわがままで、彰にはたくさん迷惑掛けた・・・」

「・・・・・」

何を今更・・・

「でも・・・こんなあたしでも・・・
彰は受け入れてくれて・・・ホントに嬉しかった。」

一体どうしたって言うんだよ。
いきなりこんな話・・・

「なのに、今でも彰にはたくさん迷惑を掛けてる・・・」

「そう、だな・・・」

「彰がもうあたしの事を好きじゃないっていうのも・・・
あんな事があったし、もう無理だっていうのも分かってる・・・」

「・・・・・」

「だから・・・」

あぁ・・・綾音も綾音なりに色々考えたんだな・・・
だから・・・その先の答えはもう分かってる。

「だから、終わりに・・・しよっか・・・」

「ああ・・・」

泣きそうな声で綾音は終わりを告げる。
泣きそう?いや、違う。これは・・・既に泣いている・・・
俯いていて涙は見えないが、声が既に・・・

「あ〜・・・ごめん・・・
あんまり暗いのは嫌だから、泣かないようにしてたのに・・・」

「・・・・・」

「あたしの事は心配しなくても平気だからね?
新しい好きな人だって、もういるんだし。」

「そうか・・・」

新しい好きな人・・・それが本当かどうかなんてオレには分からない。
もうオレ達は別れるんだ。だから・・・綾音の好きな人の事なんて気にしちゃいけない。
もうお互い他人なんだから・・・これから綾音がどうしようとオレには関係無い事なんだ・・・

「今までありがとね・・・」

「いや、オレの方こそ・・・」

関係無い・・・
本当に・・・オレは・・・そう思っているのか?

「色々初めての経験ばっかりで、すごく楽しかった・・・
こんなに人を好きになったの初めてで・・・ホントにありがと!!」

綾音の目からは涙が溢れている。
それなのに、最初から最後までずっと笑顔で・・・
オレは笑顔なんて出来ないのに、綾音はずっと・・・

「じゃあ、あたし行くね・・・」

「あ、見送るよ・・・」

「うん。ありがと・・・」

一緒に部屋を出て、そして玄関へ。
これで本当にオレと綾音は終わりなんだな・・・

本当に・・・
本当にオレはこれで良かったのか?
これが、オレが望んだ結末なのか?

「じゃあ行くね。」

「気を付けて・・・」

「うん。じゃ・・・彰、バイバイ!!」

綾音は玄関の扉を開き、そして笑顔で手を振る。
綾音が行ってしまう・・・もう会えなくなる・・・

オレは・・・
何でオレは最後までこんなんなんだよ・・・

綾音が最後まで笑顔だっていうのに・・・
何でオレはこんな顔なんだ・・・
何でオレも笑顔で別れられないんだ・・・
綾音はあんなに頑張ってるのに、何でオレは・・・!!

「っ、綾・・・!!」

ガチャン・・・

オレの声は扉の音にかき消され・・・
結局オレは一度も笑顔になれず、何も言えず、綾音と別れてしまった。

本当にダメな男だ、オレは・・・
何で・・・こんなダメなんだよオレ・・・
何でオレは・・・

オレは布団の中に戻り、色々思い返す。 綾音の事を・・・

綾音は、ずっと寂しかったんだ。
いつも一人で・・・だから男を作って、それで癒されようとして・・・
オレはあんなに頼りにされていたのに・・・
でも、それに答えられなくて・・・

オレが、もう少し大人だったら・・・
オレの心がもっと広ければ・・・
あいつをちゃんと受け入れられたのかもしれないのに。
そして、ずっと笑顔で一緒で・・・

もう・・・どうしようもないんだ。
こんな最後だったけど、綾音とはもう本当に終わったんだから・・・

「チョコ・・・」

そうだ。チョコを食べよう・・・
せっかく貰ったんだから・・・今食べたい気分だ。

綾音から貰ったチョコは綺麗にラッピングされていて・・・
チョコも手作りなのに、こんな所も凝ってるよな。

「あれ・・・これ、は?」

ラッピング用紙を剥がしていくと、チョコの他に何か・・・

「手紙・・・?」

大好きな彰へ。

この手紙を見ているって事は、
もう私と彰は別れて、私が家に帰った後だと思います。

たぶん彰の前で泣いちゃって、
うまく気持ちを伝えられなかったかもしれません。
だから手紙に書いておくね。
出来れば最後まで読んで欲しいかな・・・

私は、やっぱり昔からずっと寂しがり屋で、
優しさを求めて、色んな人と付き合ってきました。
昔は誰でも良いやって考えてたからね・・・
そんな軽い考えで付き合った人の前じゃ、本当の自分を出せなくて・・・
浮気されたり、すぐ別れたり、彰にも話した通り酷い恋愛ばかりだったけど(笑)

でも彰の前では、私は本当の自分を出せて、
お互い何でも話せたり、エッチもすごく気持ちよかったり・・・
たくさん喧嘩もしちゃったけど、本当に良い恋愛だったよ。

彰と付き合って、これが本当の恋愛なんだと思った。
人をこんなに好きになったのも初めてで、
人にこれだけ気にしてもらったのも初めてで・・・
これだけヤキモチ妬いたのも初めてかも。
会えない日は寂しかったけど、会ったらすごく甘えさせてくれて、
抱きつくといつも優しく頭を撫でてくれて嬉しかった。
一年ってあっという間だったけど、ホント毎日がすごく充実してて楽しかったよ。

そんな日をずっと続けたくて、私はずっと彰といたかった・・・
でも、これ以上彰に辛い思いさせたくなかったから、今日彰に会いました。
彰、風邪だったから、彰の家でこれを渡す事になっちゃったけど。

あんな事があったから、彰はもう私の事を好きじゃないと思うけど、
私は今でも彰の事が大好きです。彰の事は絶対に忘れません。
これだけ良い恋愛したんだし、しばらくは恋愛はしないかな(笑)
彰だったら、私なんかより良い子がすぐ見付かると思います。
今度は彰、良い恋愛してね!!
私もいつか良い人見付けるから!!お互いがんばろ!!

長い文章で、しかも読み辛かったり、意味がわかんないとこあったらごめんね(笑)
でも、最後に伝えたいこと・・・

「っあ、や・・・」

彰、今まで本当にありがとう。
そして、今まで本当に辛い思いばかりさせて、ごめんなさい・・・

綾音より。

あ、一つ書き忘れた!!
こんな隅っこに書くけど、ごめんね。
風邪お大事に!!

「う・・・っ、あぁっ・・・」

手紙の一つ一つの言葉が・・・
涙が止まらなくて・・・
何で・・・何でこんなに胸が苦しいんだよ・・・

綾音・・・何でオマエはこんなオレなんか・・・
オレはオマエを最後まで信じられなくて、最後まで最低な男だったのに・・・
オレなんか、人に好かれるような男じゃないのに・・・

オマエの本当の気持ちに何も気付いていなくて・・・、
オレはオマエのために何もしてやれなくて・・・

「ぅ、くっ・・・ぁあっ!!」

謝るのはオレの方なんだよ!!
なのに、もうオマエに謝る事も出来なくて・・・
今更後悔したって遅いのに・・・

オレはこうやって、泣く事しか出来ないなんて・・・


最終話

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