第四十七話
終わりを告げた先に



綾音のメールに返事を返せないまま、時間は過ぎていく・・・
着信も何件も掛かって来ているが、それも出ることもなく・・・

返事を返したり、電話で話すのが怖くて・・・
何で怖いのか自分でもよくわからない。
このまま自然消滅してくれたら、どれだけ楽か・・・

そういう訳にもいかないだろオレ・・・
分かってるけど、それでも怖いんだからしょうがないだろ。
だったら・・・どうしたら良いんだよオレ・・・

「彰ー!!」

リビングからオレを呼ぶ母親の声が聞こえた。
何だよ、こんなときに・・・

「どうした?」

「女の子からあんたに電話なんだけど。」

「女の子?」

「桜井って子なんだけど、この子が彼女だっけ?」

「あ・・・そう、だね。」

まだ別れてないし。
かといって別れる予定だなんて言える訳もなく、そうとしか言えない。

「・・・・・」

いや、待て。
そんな事は問題じゃない。
なんかおかしいだろ常識的に考えてさ・・・

「何やってんの。早く出てやりなさいよ。」

「あ、ああ。」

こうなったら出ざるをえないじゃないか・・・
くそ・・・

「もしもし?」

『彰?』

「うん・・・」

『あの・・・』

「ごめん、携帯に電話して・・・」

『あ、うん。わかった・・・』

さすがに親の目の前で別れ話をするのもね・・・
家の電話はコードレスじゃないし。

「携帯じゃなくて、それで話せばいいじゃん。」

「嫌に決まってるだろ・・・」

何言ってるんだ、この親は。
ラブラブな会話をするにしても、別れ話をするにしても、
何故に親の前で彼女と電話しなきゃいかんのよ。

オレが部屋に戻ると、丁度オレの携帯が鳴る。
いつもの綾音専用の着メロで・・・

「もしもし・・・」

『やっと出てくれた・・・
今日彰から来たメールなんだけど・・・』

「待って・・・一つ教えてよ。」

『何?』

オレはずっと疑問に思っていた事を聞く。
だって気になるじゃないか。明らかにおかしいし。

「何で・・・何でオレの家の家電知ってるんだよ。
オレは教えた覚えはないんだが・・・」

『ガーデンの・・・店長室にある連絡簿に乗ってたから・・・』

おいおい・・・勘弁してくれよ・・・
家の電話番号を勝手に調べるだなんて・・・

あの子は癇癪持ちで、よく暴走もするから苦労するかもしれないけれど・・・
いつかの母親の話を思い出す。
綾音と喧嘩した事だって何回かあったさ。
でも、こういうのはさ・・・正直、かなり気味が悪いよ・・・

というか、そういう個人情報がバイトが簡単に見れるってのもおかしいだろ。
辞めた人間の個人情報は廃棄しておけよ・・・
何だよ、管理がずさんすぎだろ、ガーデン。

「そうか・・・あんまりそういうのしない方が良いぞ。」

『うん、ごめん・・・』

本当はもっと文句を言ってやりたいが・・・
別にいいだろ、今より更にめんどくさい事になるもの嫌だし。

「で・・・今日送ったメールだよね・・・」

『うん・・・
ちゃんと謝りたいし、今日会いたい・・・』

「今日か・・・」

『うん。夜もバイトあるから、深夜に・・・』

ここでハッキリ言えばいいのに、オレは・・・
結局相手の流されるままで・・・

「深夜・・・」

『それじゃ、もう休憩終わるから。』

「・・・・・」

電話が切れた。一方的だ・・・
だから、何か言えってオレ!!何で何も言わないんだよ!!
ズルズルズルズル・・・ダメダメだろ、オレ・・・
このまま綾音といても、お互いのためにならないって自分の中で答えが出てるんだから。
ハッキリしないと・・・





「こんばんわ。」

「ああ・・・」

本当に深夜家来るし・・・
しかも何も無かったような振る舞いで・・・

「あの・・・」

「とりあえず部屋入って。」

「あ、うん。」

家に来ちゃったものは仕方ない。
だったら、直接言うしかない・・・

「彰・・・あの、ごめん・・・」

「昨日の?」

「うん・・・
あんなとこで二人きりで話してて、ごめん・・・」

「・・・・・」

「でも、本当に何もないから・・・」

ごめん、何もないから・・・そんな綾音の言葉が痛い。
自分は前付き合っていた彼女とあんな関係になってしまったから・・・
オレがそんなんだから、綾音も西村と何かあっても不思議とは思わない。

何があったか無いかなんて、オレには何もわからないんだよ。
もうオレはガーデンのバイトじゃないんだから。
だから、綾音が何もないなんて言っても・・・信用出来ない。

というか、もうオレは綾音より優な訳で・・・
綾音がオレの知らない所で何をやっていたかなんて、もう今更だよ。
それをオレが今知ったからって、別れるという結果が変わる訳じゃないんだから。
どうせ、オレみたいなガキより、年上が良いんだろうさ。
だったら丁度良いだろ。年上の西村と仲良くしてくれよ・・・

「分かった。ごめん、でも・・・」

綾音の顔を見て言えない。
なんとなく、どんな顔をしているか想像が付くから・・・

「綾音、オレはもう別れたい・・・」

「・・・・・」

綾音は何も話さない。ずっと黙ったまま・・・
オレは相変わらず綾音の顔を見れず、視線は常に動かない壁のままだ。
だから時間が止まったような錯覚・・・
早く・・・何か喋ってよ・・・
これは、オレが何か言わなきゃいけない空気なのか?

「なんで?」

先に口を開いたのは綾音だった。
しかも、なんで?なんでって、理由なんかわかるだろ・・・
オレに隠れてあんな事してたんだし。

「綾音は・・・やっぱり年上の男が良いと思ってるから。
オレみたいなガキはもう無理だと思ったから・・・」

「そんなことないよ!!
本当にあの人とは何もないし・・・あたしは彰が良いのに・・・」

「もう無理・・・ホントにごめん・・・」

「そんなの酷い・・・」

「ごめん・・・」

顔を見なくても声でわかる。
泣いてる、綾音は・・・

本当に女は汚い・・・
綾音がオレを振るときは、オレが何を言ってもダメだったくせに。
なのに、自分がその立場になると泣き出すだなんて・・・
でも泣かれても、もうオレには無理だから・・・
綾音の過去の男、近付く男に嫉妬して、こんなの耐えられない。
オレだけしか知らない、オレだけの優が良いんだ、オレは。
自分がどれだけ最低か分かってる。
どんなに口では綾音が全部悪いように言っても、オレだって綾音と似たような事をしているんだ。
いや、むしろ綾音より酷いかもしれない。

それでも、オレは・・・

「こういうのがあるからダメなの?」

綾音はクローゼットの中から、オレのエロゲーを取り出す。

「そういうのは・・・関係ない。」

「嘘ばっかり!!」

綾音はエロゲーを床に叩きつける。
それも思い切り・・・オレの親が寝ているのにも構わず。

「おいっ!!」

「こんなのがあるから、あたしじゃダメだって事なんでしょ!?」

「違うって・・・」

「ずっと・・・こんなの気持ち悪いって思ってた。
こんなのやって、彰はずっと夢見てるだけじゃん!!」

「・・・・・」

否定はしないさ。
確かに、そういうゲームで女の子に対して夢を持っていた。
だがな、それの何が悪い?
異性に対して夢を持つのは女だってそうだろ。
少女コミックやドラマ、アイドル・・・
媒体が違うだけで、同じだろ。夢を持つのは。
媒体がエロゲーっていうだけで、気持ち悪いって言われるのは気に食わない。

「オマエは何も知らないくせに・・・
オマエにそんな事を言われる筋合は無い。」

「何それ・・・」

オマエは一体こういうゲームの何を知っている?
マスゴミの報道に影響を真に受け、ただ気持ち悪いって思っているだけだろ。
気持ち悪いって言われても、当時のオレはゲームでどれだけ救われたか。
何も知らないくせに・・・ふざけるなよ。
何でそれをオマエのような女に否定されなきゃいけないんだ。
あのとき、綾音に初めて打ち明けたときは、気にしないって言ってたのに・・・
なのに、今は本性が出たな。ハッキリ気持ち悪いってさ。

「気持ち悪いってんなら、もういいだろオレなんかさ・・・」

「わかったよ、もういい・・・」

綾音はそう言い残し、部屋を出、そして家から出て行った。
オレは追わない。これで良いんだよ。

「・・・・・」

本当にこれで・・・良いんだよな・・・?

意外に呆気なかった。
あれだけ綾音の事が好きで、喧嘩もたくさんしたけど楽しかった・・・
なのに、こんなにも呆気ないなんて・・・

綾音は、家庭の事とかで色々悩みもある。
付き合っていた頃は、オレが何とかしてやりたいって思っていた。
あのヒステリックな母親から救ってやりたい。学校を卒業したら一緒に住もうとも言った。
でもオレなんかじゃまったくダメで・・・
だからアイツの好きな年上とまた付き合えば良いだろと思った。
そしてオレは、オレの事をよくわかってくれる優と付き合えばいいと・・・

それなのに・・・
もう綾音の事は好きじゃないって思ったのに・・・
辛かった事、楽しかった事、色々な思い出がありすぎて・・・
何だかすごく悲しくて、すごく辛いよ・・・

こんな酷い別れ方なんて・・・


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