第四十二話
二度目のイブ、綾音の悩み、彰の決意



今年もこの日が来てしまった・・・
二度目の・・・

オレは去年の事を思い出しながら、待ち合わせ場所で綾音を待つ。
今までは毎年この日は憂鬱だったが、
綾音のおかげで去年からは幸せな日に変わった。

そう、今日は12月24日。
恋人の日、クリスマスイブだ。
しかも、綾音とは二度目の・・・

一度別れたとはいえ、綾音と二度目のクリスマスを過ごす。
嬉しい、楽しみ、といった感情はある。
だが、オレにはずっと不満だったことがある。
綾音と遊んでいるときからの不満・・・
それはクリスマスという特別な日において、致命的ともいえる。

クリスマスは彼女とどう過ごすか?
冬休みに入る前に、そんな質問が大畑からあった。
オレは、クリスマス一色の街をプラプラしたり、少し良いご飯食べて、
その後は駅前のイルミネーションを見たり・・・
時間があれば、オレの家なり、ホテルなりでエッチを・・・と答えた。
自分の中では、それが普通のカップルの過ごし方だと思ってた。

大畑は、アキさんも彼女さんとラブラブですねぇと言う。
そして大畑は、自分と清水の過ごし方を話し始めた。

街をプラプラして、食事して、イルミネーション見て・・・過ごし方はオレと同じだった。
ただ一点を除いては・・・
大畑は、クリスマスにホテルの予約を取っていた。
ラブホではなく、ちゃんとしたホテルだ。
カップルがホテルに予約を取って、ホテルに泊まる。
そんなこと、大人がやることだと思った。
学生でもやる奴はいるかもしれないが、親と同居していない奴くらいだろと。
だが、清水は一人暮らしというわけでは無い。
なのに、クリスマスに泊まりが可能という・・・

もちろん清水は、自分の親に彼氏と泊まるとは言ってない。
そんなこと言えば、どんな親だって駄目だと言うだろう。
なので、友達の家に泊まる。そう言ったらしい。
友達の家と言えば、クリスマスに限らず泊まることが可能なのだ。
だが綾音はそんな事は出来ない。
例え、本当に友達の家だとはいえ、泊まりは全て禁止なのだ。
綾音の父親は厳しい人ではなく、友達の家だったら泊まっても良いと言う。
綾音の母親は厳しい人で、友達の家すら駄目、門限は18時、もしくは20時と言う。
綾音の家では母親の方が父親より立場が上のため、綾音も父親も母親に従わざるを得ない。
だから綾音は、昔から母親にきつく縛り付けられている。

綾音と清水、どちらの家庭が普通かどうかは分からない。
でもオレは自分と大畑、綾音と清水をどうしても比べてしまい・・・
クリスマスというカップルの日に、大畑と清水は一夜を過ごす事が出来て、
何でオレと綾音は一夜を過ごす事が出来ないのか?
何故、綾音には門限というものがあるのか?
今まで通り、深夜に家に遊びに来て、母親が起きる前の早朝に帰る・・・
それじゃ駄目なんだよ・・・オレは夜寝るときも、朝起きるときも綾音と一緒が良い。
何でオレはそれが出来ない?
大畑達に出来て、何でオレだけ・・・
もうオレ達は未成年なんかじゃない。なのに何で・・・

「ごめん、彰おまたせぇ。
去年も彰待たせたのに、今年も彰待たせちゃったね。」

「ん、そんな待ってないから大丈夫だよ。」

去年のイブはお互い18時からガーデンでバイトだったため、
朝からバイトの時間までを一緒に過ごしていた。
だが今年は、綾音が休みを入れていたのにも関わらず、
一人突然休んだため代わりで朝から昼まで出勤していたのだ。
そのため、本来だったら朝から遊ぶはずが昼からになってしまった。

この時期、みんなガーデン休むからな・・・
更にいきなり休むバカがいれば、人がほとんどいなくなる。
焦った店長はひたすら他の人間に電話を掛けるだろう。今日出勤してくれないかと。
だが、みんなに断られる中、綾音だけは出勤を引き受けてしまった。
綾音は、自分が誰かに必要だと思われるのが嬉しいのか、頼まれたら断らない。
断れないのではなく、断らないのだ。
どうも綾音は無駄に責任感が強いというか・・・
例え風邪を引いていようが、みんなに迷惑を掛けたくないからか絶対に休まない。
過去の綾音がどうかは知らないが、今までもこうやって男に尽くしてきたのか?
オレにはすごく尽くしてくれるし、男にとっては理想的な女の子かもしれないが・・・
それをオレ以外の男だけにはして欲しくない。例え、それがバイト先の店長だろうと。
綾音はオレだけに尽くしてくれればいい・・・

「やっぱり、バイト頼まれたの怒ってる・・・?」

「いや、怒ってないよ。
さすがに夜も頼まれて、引き受けたんだったら怒るけど。」

「さすがに、あたしもそれは断るよぉ。」

「そうだよね。」

「あのさ、もう彰には関係ない話かもだけど。」

「ん?」

「今日さ、イブじゃん?
なのに休憩室に高野さんがいてさ・・・」

「高野、ね・・・そんな時間にいるなんて珍しいな。
天野とイチャついてるもんかと思うけど。」

ガーデンを辞めてしばらく経つが、久々に聞いたな。
いたね、そんな奴も。

「高野さん、休憩室で泣いててさ・・・」

「高野が?なんで?」

「今日天野さんに別れたいって言われたみたいで、
それで別れちゃったみたい・・・」

「そうなんだ。」

「別れた原因は分からないんだけど、
高野さんは天野さんの事すごく好きだったみたいで・・・
だからみんなの前なのに泣いてたよ・・・」

「・・・・・」

「合田さんとか、男の人達に励まされてたけど、
なんかすごく可哀相だった・・・」

はっ。
正直、オレは可哀相だなんて思わない。
ザマァだろ。あんな甲斐性無し。
いつもいつも偉そうにしてやがるし、人を見下すような最低な人間だもんな。
オレがガーデンにいた頃から、既に天野にフラれるのも時間の問題だったようなもんだろ。
イブにフラれ、そしてみんなの前で同情引くように号泣ってか?
情けない。ま、オマエはイブを一人寂しくオナニーでもして過ごしてろっての。
オレは綾音と楽しく過ごすからよ。
ご愁傷様でした。

「よくガーデンでも天野と喧嘩してたじゃんアイツ。
別れるのも当たり前っつうか・・・だよな。」

「彰が辞めてからも、よく喧嘩してたよ。
高野さん、不機嫌になるとよく色んな人に当たってたしね・・・
天野さんも、それが辛かったのかな・・・」

「そんな男だからダメだったんだろ・・・」

オレから言わせりゃ、そんな男を選ぶ女も女だな。
そんなの、付き合う前に把握しておくべきだ。
ちゃんと把握していれば、無駄な時間を過ごす事も無かったのに。

天野はどうか知らんが、高野は今悲しんでいる。
だが、そんな感情は一時的なもので、ああいう人間はすぐまた相手を見付けるだろ。
世間一般的に見て、アイツはカッコイイ方だとは思うしな。
何故自分がフラれたのか、その理由を一切考えず、
相手が自分を分かってくれなかったと、自分は悪くない的な勝手な自己解釈をして・・・
そして、ああいう人間はすぐ自慢する。新しい彼女が出来たと。
前の彼女なんかよりずっと良い女だと。
今の彼女は自分の事を理解してくれる女だと。
別れたのは自分は悪くない、相手が悪いんだと。

これだから軽い男は・・・
綾音の今までの彼氏と同じで、結局ヤリたいだけなんだろアイツ等はさ。
別れたらすぐ次の女・・・ってな。
まぁ、それは女にも言える事だけどな。

よく、付き合った人数だの、経験人数が多いだの自慢する人間がいるが、
そんなのは何の自慢にもならない。大きな勘違いだ。
付き合った人数が多いということは、付き合ってすぐ別れての軽い関係という事であり、
自分に何かしらの致命的な欠点がある、または相手を見る目が無い、という事になる。
相手をちゃんと見極め、そして自分を相手に見極めてもらう。
それをやらずに、一時的な感情なんかで相手を知らないまま付き合うから、こういう事になるんだ。

男も女もヤリたい、この人だったら心を許せる、なんて錯覚。
それは最近の小中高の連中を見れば、まさにだろ。
そんなガキに、相手を見極める事なんて出来る訳がなく、錯覚で付き合ってしまう。
そして付き合って気付く。錯覚だったと。
だがそれを悪い事だとは気付かず、良い経験だったと思い込む。
そんな勘違いに歯止めが利かないのが最近のガキであり、
だからエッチを経験する年齢が低くなってるんだろ。今時小学生でエッチなんて当たり前らしいしな。
小学生で援交もよくあるみたいだし、そんなビッチは死ねば良いのに。
オレだったら、そんな援交するような汚い女は御免だね。
その汚い身体で、せいぜい頑張って金持ちイケメンでも探して下さいって感じだな。

綾音は援交はしていないが、今までその錯覚で多くの男と付き合ってきた女の子だ。
自分が間違っていたって気付くには時間が掛かったけど、
オレとの付き合いは今までの男とは違うんだろう・・・たぶん。

「ま、高野はご愁傷様だけど・・・オレ等には関係ないし。
とりあえず行こうよ、綾音。」

「うん・・・そうだね。じゃ、行こっか。」
またプリクラも撮ろぉね。」

オレの嫌いな高野は彼女にフラれ、一人寂しくクリスマスを過ごす。
圭介も今頃は彼女と過ごしているんだろう。
もう連絡が取れない新美も、今頃は山神と過ごしているんだろうか。
オレはオレで綾音と幸せなクリスマスを過ごす。

そして優も・・・
前聞いたときは彼氏はいないと言っていたが、今はどうかはわからない。話す事も無いし。
でも、前の彼女が他の男と付き合っているのは想像したくないな・・・
それを言ったら、オレが付き合っているのを優は一体どんな気持ちで見ているんだろうか・・・
そんな状況に合った事が無いので分からないが、すごく複雑な気持ちじゃないか?
なのに、そんなオレを励ましてくれる優・・・

いや、綾音といるのに、優の事を考えてどうするんだオレ・・・
もういい加減にしろってオレ・・・
気持ちを切り替えろ。
優の事より、オレは綾音だけを見ないと・・・

ずっと優の事が頭に残りながらも、オレ達は一年に一度のイブを楽しく過ごす。
色々な場所を見て回ったり、下らない事で笑い合ったり・・・そんな何て事のない時間・・・
そんな何て事のない時間がこれほど幸せに感じるのは、やっぱり綾音だから・・・

「楽しかったね、今日。
またプリクラも撮れて嬉しいよぉ。」

「去年プリクラ撮ったときはカップル少なかったのに、
今日はカップル多いんだな。」

「そうだねぇ。店によって違うんじゃないかな?
新機種とか、駅の近くだからとか。」

プリクラも撮り、ご飯も食べ終り、オレ達は駅前に向かう。
プリクラの混みようを見て思ったのが、
プリクラなんてもうずいぶん前に登場した物だってのに、これだけ長続きするのもスゴイ事だよな。
オレなんて、綾音と付き合うまでプリクラなんて撮った事が無かった。
だから、昔と今とでプリクラがどう進化してるかなんて分からない。
画質とか色々進化してるんだろうけど・・・

「あたし、やっぱり彰ともっとプリクラとか写真とか撮りたいな。」

「撮りたいものなの?」

「やっぱり残して置きたいじゃん?
その時その時の思い出とかを残る形でさ。」

「そうかぁ・・・」

綾音はそう言うが、オレ自身プリクラ・・・いや、写真そのものが好きじゃない。
何せ、世間一般的に見て、自分の顔が良い方じゃないからだ。
だから自分の写真を撮るのも嫌、その写真を見るのも嫌。
自分から進んで写真を撮る奴なんて、自分の顔に自信がある奴だけじゃないか?
まぁ、こうやって二人の思い出のためにというなら話は別だが・・・

「彰、あんまり撮りたがらないもん。」

「自分に自信が無いから・・・かな。」

「彰は十分カッコイイよ・・・
あたしにとっては一番だから。」

「そんな・・・聞いてるオレが恥ずかしいわ。」

「あはは。言ってるあたしも恥ずかしいよ。」

「でも、ありがと。綾音にそう言ってもらえて嬉しいよ。」

オレは綾音の頭を撫でてやる。
最近何かある度、オレは綾音の頭を撫でている。癖になってるんだろうな。
綾音も頭を撫でられるのが好きなので、それを喜ぶ。
自分から頭をオレに向け、撫でてと言うくらいだ。

「あたしも、撫でてくれてありがと。
でも・・・ごめんね・・・」

「え?何が?」

「ほら、今日イブなのに・・・
他のカップルとかは夜遅くまで遊んだりとか出来るのに・・・」

「・・・・・」

「あたしの家は・・・お母さんがあんなんだから、
門限が決められていて・・・」

綾音も・・・
やっぱり綾音も気にしているんだ。自分は他の女の子より親に縛り付けられている事を・・・

「こういう特別な日くらい、もっとずっと彰と一緒にいたいのに・・・
あたしの学校の友達はお泊りとか出来るのに、あたしはそれが出来なくて・・・
なんで自分はこんなにも厳しくされるんだろうって・・・」

「・・・・・」

「自分が昔、たくさん夜遊びしたから・・・
だから厳しくされてるって分かってるんだけど・・・
けど、それでも・・・」

「綾音、もういいから。」

「辛い、辛いよぉ・・・
毎日毎日、彰と過ごす時間が短くて・・・
家の中もずっと息苦しくて、一人ぼっちで・・・
彰はもうガーデンにいないから、ガーデンでも寂しくて・・・」

「しょうが・・ないよ・・・
だから卒業したら・・・オレと一緒に暮らせばいい・・・」

「同棲・・・?」

「いきなり同棲しても、生活が苦しいかもしれないけど・・・
でもずっと二人でいれるから・・・」

「うん・・・」

「学校卒業して就職すれば、もうお母さんも何も言わないだろ。
もし何か言われてもほっとけばいい。オマエはオレだけの言う事だけを聞けばいいんだ・・・」

「うん・・・ありがと。
あたしも彰と一緒がいい・・・」

綾音は家でも一人ぼっちだ。
それをオレは救いたい。でも今のオレにはそんな力は無くて・・・
オレがその力を得るまで・・・得たらすぐオレがオマエを助けるから・・・
ずっと守っていくから・・・

「だから、卒業までの辛抱だから・・・
それまで頑張ろうな。」

「うん!!彰、本当に優しいね・・・」

「そんなことない・・・」

オレは優しいって言われる程、人間出来ちゃいない・・・
綾音に隠し事だって一杯ある・・・優の事だって・・・
それなのに、綾音は・・・

「あ〜。なんかすっきりしたよ・・・ごめんね。」

「いや、大丈夫だよ・・・」

オレはそんな罪悪感を感じながら、いつまでも綾音と続けられるのか・・・?
綾音の好意を真っ直ぐ向けられる度に、胸が痛む・・・

「あ、イルミネーションすごい・・・」

「ほんとだ。」

「きれい・・・」

イルミネーションはすごく綺麗で、カップルが集まる理由も分かる。
でも・・・オレみたいなのが、こんな綺麗な物を見る資格があるのか・・・?
綾音と一緒に見る資格が・・・


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