第四十一話
自分の気持ちに素直に



「何か、晩御飯奢ってもらっちゃってごめんね?」

「いやいや、今日はオマエの誕生日だろ。
たまには男が奢ってやらないと・・・」

「たまには、って・・・
彰、まだ気にしてるの?」

「何が?」

「ほら・・・男が女に奢らなきゃいけないみたいな・・・」

「少しは・・・」

「そんなの喜ぶのって、男を金づるとしか思ってない女だけだよ・・・
本当に好きだったら、奢らせるのなんて悪いと思っちゃうよ。」

「そういうもん?」

「うん。あたしは奢られるのは嫌。
彰にだけ負担掛けさせたくないもん。」

「そっか・・・でも今日だけは、ね。
オレも誕生日に奢ってもらっちゃったんだし。そのお返し。」

「うん、今日だけだよ・・・
それ以外は、奢られるの絶対嫌だから。」

「わかったよ。」

今まで年上の男と付き合ってきた綾音。
年が離れていて、相手は社会人だ。だから綾音は今まで何回も奢られて来ただろう。
綾音が奢られたくないと言っても、男は年下の女にカッコ付けたいがために見栄を張る。
オレも見栄を張ろうとしていたが、今の彼氏であるオレはタメだ。
今まで何度もオレが奢ろうとしたが、綾音は絶対にそれに甘えようとはしなかった。
オレが年上に対して対抗心があると知りながら、オレに気を遣っているんだろうな・・・
綾音が何も言ってくれなければ、オレは奢り続けて自滅して行きそうだし。
でも、その気遣いが逆に痛く感じるが・・・

でも、奢られるのを当たり前のように考えている女よりはマシか・・・

「今日はあたしの誕生日だからかな。
今日は特別に20時まで彰と遊んでも良いって。」

「そうなの?あのお母さんが、ね・・・」

綾音との付き合いは、綾音の母親公認だ。
だが、一応遊ぶ時間は18時までと決められている。
それでも、今日みたいに気まぐれで20時までという日もあるが。
今日で19歳になる女が門限て、笑わせるよな・・・
あの母親だから、しょうがないと言えばしょうがないが・・・

「ご飯食べたし、どうしよっか。
彰、どこか行きたいとこあるかな?」

「ん・・・どうしよっか。」

ご飯を食べ終わって今の時間は18時半。
プレゼントも渡したいけど、渡すならやっぱりロマンチックな場所か?

「特に無いなら彰の家に行ってもいい?」

「オレの家?せっかくの誕生日なのに?」

「どっか遊びに行くより、あたしは彰の家が好きだよ。」

「そうなの?」

「だって、彰の家だとずっとくっついてられるもん。」

「エッチな事も出来るし?」

「・・・彰はエッチだけなの?」

「違うよ、ホントに・・・冗談だよ。」

「じゃあ絶対エッチな事しない?」

「自信無い・・・」

「ほらぁ・・・」

「じゃあ綾音は嫌?」

「嫌じゃないけど・・・」

「綾音も好きなんだよ、エッチ。」

「そう、かなぁ・・・」

綾音がエッチな女の子ってのは前から知ってる。
しかし、この前綾音をイカせてからは、綾音は変わった。
更にエッチになったというか・・・やっぱり本番でイクという事を覚えたからか?
エッチな女の子は嫌いじゃない。むしろ好きだ。男なら当然だろ。

オレは綾音と身体を重ね続け、何かコツを掴んだのかもしれない。
女の子をイカせるコツを・・・
今思えば、優のときだってオレはまだまだ未熟だったんだ。
相手を気持ち良くさせたい気持ちはあっても、それを可能にする技術が無かった。
技術が無いのだったら、結果はいつも同じだ。オレだけがイってしまうという・・・
でも今のオレなら・・・経験を重ねたオレだったら・・・

「そうだよ。綾音イケるようになったもんね。」

「そうだね・・・彰のおかげ?」

「もちろん、オレのおかげ。」

「ぷ。ありがとね。」

オレの自信満々の態度に、綾音は笑いを堪えて言う。
こうやって女の子と笑い合うって良いな・・・オレは今すごく幸せなんだろう。
ずっとこの綾音をオレだけのモノに・・・
もう誰のモノでもない。オレだけのモノなんだ。
友達がいない?彼女さえいれば・・・
この綾音の笑顔さえあればオレは十分だ。綾音さえいれば・・・

「じゃ、行こっか。」

「うん。」

オレ達は家に向かう。
家に入ると、玄関から見えるリビングに明かりが付いていた。
そりゃ当たり前だ。今日は親父とお袋がいるんだし。

「ご両親、いるの?」

「あ、大丈夫。気にしなくていいよ。」

「そう、なの・・・?」

「綾音の事、知ってるから。
いきなり部屋に来る事は無いよ。」

「あたしの事、知ってるんだ。」

「まぁね。いいよ、入って。」

「お邪魔しまーす。」

綾音は小さい声で、家に上がる。
親には綾音の事は既に言ってある。
もし、綾音とエッチしてる最中に部屋に入られるのも嫌だったし、
綾音が来るときは部屋に入るなとも言ってある。
そりゃ、自分が盛ってる所を親に見られるなんて自殺物だしな。
・・・部屋に入るなと言ってる時点で、エッチしてますって言ってるようなもんだが・・・

「飲み物取って来るね。」

「いい。」

「いらないの?」

「うん。くっつきたい。」

「わかったよ。」

見た目も性格も子供な綾音は、外でも甘えて来る。
しかし、オレの部屋になると更に甘えて来る。
それがまた可愛い・・・
何度甘えられても飽きることが無い。
綾音に甘えられるだけで、オレ達は付き合っている、
自分が綾音の彼氏だという自信が持てるような気がする。

「やっぱり、こうやってくっついてるのが好き。」

「そう?」

オレが座り、そしてオレの前に綾音が座る。
オレが綾音を後ろから抱いているような体勢。
これが綾音のお気に入りの体勢だ。

「彰も好き?」

「好きだよ。」

この体勢は、オレの手が綾音の胸に当たる・・・
まだまだ健康的な男であるオレは、その胸の柔らかさだけですぐ勃ってしまう。
若いとは言え、困ったものだ・・・

て、今は勃ててる場合じゃない。
今こそ、誕生日プレゼントを渡すときだろ。

「綾音、渡したい物がある。
取りたいから、ちょっとどいてもらっていい?」

「あ、うん。」

オレは上着の中からそれを取り出す。
いつもの事なのだが、オレはまた緊張している。
サイズが合ってなかったらどうしよう・・・
それ以前に、気にいられなかったらどうしよう・・・
渡す前からそんな不安で一杯だ。
でもここまで来たら渡すだけだ。やるんだよオレ!!。

「綾音、誕生日おめでと。
これ、一応オレからのプレゼントなんだけど・・・」

「くれるの?」

「誕生日だもん。プレゼント無いと思ってた?」

「少し・・・かな。ごめん。
でも、すごく嬉しいよ・・・ねぇ、開けていい?」

「いいよ。」

綾音はラッピングを剥がす。
そして剥がした先の物を見て・・・

「ほんとに・・・嬉しいよ・・・
こんなのもらえるなんて・・・」

「サイズ、合うかわかんないけど・・・」

綾音は指輪を右手の薬指にはめる。

「うん・・・ピッタリだから・・・」

「良かった。サイズが合うかずっと心配だったから。」

「ほんとにありがとぉ・・・」

綾音の目が潤む。
おいおい、誕生日プレゼント貰って泣くなよ・・・
てか、オレも綾音からライター貰って泣いたけどな・・・

「ほら、泣くなよ・・・」

「だって・・・何かすごく嬉しくて・・・
ほんとに嬉しくて・・・」

オレは綾音の頭を撫でてやる。
正直、こんなにも喜んでもらえるなんて思ってなかった。
こんなに喜んでもらえると、オレもプレゼントした甲斐があったってもんだ。

「ほら、涙拭いてやるから。」

オレはティッシュで涙を拭いてやる。

「ありがと・・・」

「もう泣き止んだ?」

「うん、もう大丈夫・・・」

綾音が泣き止むと、オレ達はまた元の体勢に戻る。

「あたしね・・・
指輪は誕生日プレゼント以外にも貰った事は何度もあった・・・」

「だろうね。女の子にプレゼントといったら指輪だろうし。」

「でも、彰のが今までで一番嬉しくて・・・
今までの人なんか全然比べようのないくらい・・・」

「綾音が今までの彼氏をどれだけ好きだったかオレは知らないけど・・・
綾音がオレを一番好きでいてくれるなら・・・」

今まで、心の中では何度も思ってきた言葉・・・
それを初めて綾音に伝える。

「オレは綾音が好きだから・・・
今までの彼氏なんかより、オレはオマエを大切にするし、好きだから・・・
だから綾音は、もうオレから離れないでよ・・・」

無意識に、綾音を抱く手が強くなる。
綾音はオレの手を握り、

「当たり前だよ・・・
あたしも彰が一番好きだから。だから離れないよ・・・」

これじゃ立場が逆だな・・・
いつも綾音がオレに甘える。さっきまでもそうだった。
でも今はオレが綾音に甘えている・・・

「だから彰もあたしから離れないでね?」

「当たり前だ・・・
ごめん、ちょっとだけ・・・体勢変えていい?」

「え?うん、いいよ。」

オレは綾音の前に回り、綾音の胸に顔を埋める。
何故そうしたのか、オレは甘えたかったからだ。
綾音も、そんなオレを優しく抱き締めてくれる。

オレは・・・こうやって女の子に甘える事をずっと望んでいたんだろうか?
女の子に甘えられるのは嫌いじゃない。男として頼られているような気分になって心地良い。
でも甘えるのも悪くない・・・むしろ、甘える方が好きかもしれない・・・
女の子って不思議だよな。こうやって胸に顔を埋めて、優しく抱き締められるだけですごく安らぐ・・・

「なんか・・・今日綾音の誕生日なのにな。
オレだけ甘えてるかも・・・?」

「いいよ、いつもあたしばかりだから・・・
彰に甘えられるの、あたしは嬉しいよ。
ほら、彰って何か絶対女の子に甘えるように見えないじゃん?
だから何か嬉しい・・・」

「うん・・・」

年は同じでも、自分は背が高くて、綾音は背が小さい。
背が高い男が、背の小さい子に甘えるなんて情けないかもしれない。
と思っていた。だけどそんなことはない・・・
こうやってお互い自然が良いんだ・・・
男だから、のような下らないプライドで自分の心を押し殺す必要なんて無いだろ・・・
男だって甘えたいんだよ・・・
だから、オレは綾音の前ではカッコ付けずに自然になる。

「彰、今日は・・・する?」

「今日はこのままがいい・・・」

「ん、わかった。」

家に来るときは、綾音が生理じゃない限りエッチしている。
でも、たまにはこういう日があってもいいだろ・・・
この安らぎが、綾音の門限までの僅かな時間しか無いのが寂しいが・・・
それまでは存分に甘えさせてもらおう・・・


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