第三十二話
ヲタクと知って綾音の気持ちは・・・



「・・・・・」

「どうしたの?」

思い出したくないであろう過去を、綾音はオレに教えてくれた。
だからこそ・・・だからこそだ。
オレはエロゲーが好きであると、ヲタクであると言わなければいけない。
だが・・・

「あの・・・」

部屋のクローゼットにそれ系の物は全部しまってある。
クローゼットの扉を開け、それを見せるだけだ。
見せるのが・・・見せて嫌な顔をされるのが怖い・・・
優はたまたま気にしない子だったから良かったものの、普通の女の子は確実に引くに決まっている・・・
しかしこんなオレでも好きでいれくれるなら・・・
勇気を出せオレ!!

「オレ、綾音に隠していたものがある・・・」

「そう、なの・・・?」

「いや、予め言っておくけど、浮気とかそういうのじゃないから。」

「そうなんだ。でも言いにくいこと?」

「かなり・・・」

「あたしが怒るとか、嫌いになるとか思ってる?」

「そりゃあ、ね・・・」

「最初は驚くかもしれないけど・・・
あたしは嫌いにならないから大丈夫だよ?だから安心して。」

「ホントに?」

「ホントに。」

それでも、綾音をまだ疑ってしまう自分がいる・・・
知る前はこんなことを言っているけど、知ったらどうなるか・・・
それでも、それでもオレは綾音を信じたい・・・

「実はさ、オレ・・・オタクなんだよね・・・」

「そうなの?
えっと・・・オタクって、アニメとか?」

「アニメもそうだし、ゲームとか・・・」

「ゲームなんて、男の子だったら誰でもしてるんじゃないの?
成長するにつれ、ゲームから離れる人もいると思うけど・・・」

「いや、ゲームといってもさ・・・
あの・・・恋愛ゲームって知ってる?」

「聞いたことあるくらいしか・・・」

「恋愛ゲームって言っても、オレがやってるのはエロがある、
言わばエロゲーってやつで・・・」

「エロゲーって・・・」

綾音はどう反応したらいいかわからない顔だ・・・
そりゃそうだろ・・・

「綾音と付き合う前からずっと好きでさ・・・
ここのクローゼットの中に・・・」

オレは禁断の扉を開く・・・

「え・・・これ、って・・・?」

扉を開いた中には、マンガやら、アニメのCDやら・・・
そしてエロゲーがたくさんある。

綾音のような普通の人間からしたら、このクローゼットの空間は異世界だろう。
綾音は何も喋らず、ただクローゼットの中を眺めるだけだった・・・

「ごめん・・・今まで隠してたけど・・・
オレ、こういうのが好きなんだ・・・」

「・・・・・・」

「やっぱ引く・・・?」

引くに決まってる・・・
そしてオレはまたフラれる・・・

嫌だ・・・
せっかくこんな好きになったのに、別れるなんて、嫌われるなんて嫌だ・・・
じゃあ何でオレはこんな物見せたんだよ・・・

いつまでも隠している訳にはいかないから・・・
オレは綾音が好きだから・・・
自分を偽って付き合うのはダメだと思うから・・・

じゃあ新美や、優のことは何故話さない?
それこそ、隠すべきことじゃないだろ?

それは・・・
それこそ、隠すべきことじゃないだろう。
だがそれだけは絶対に言わない方が良い。
エロゲーは言えても、それだけは言えない。
勝手過ぎる、よな・・・

「驚いたけど・・・」

「え?」

「彰がこういうの好きだってのは正直驚いた・・・」

「そっか・・・」

「でも、それで嫌いになったりはしないよ・・・」

「ホントに?」

「うん。
あたしにとって、彰は特別だから・・・
こういうのやってるからって、彰が好きなのは変わらないよ・・・」

「ありがと・・・」

綾音はこんなオレでも好きでいてくれる・・・
普通の女だったら、キモイだの何だの言うだろう。
だが綾音は・・・綾音はそんなこと言わない。
オレを好きでいてくれるんだ・・・

「でもさ、聞きたいことはあるんだけど・・・」

「なに・・・?」

「こういうのって、あんまりよく知らないんだけど、
彼女いない人がやるものじゃないの?」

「どうだろ・・・
綾音には悪いとは思うけど、オレは彼女がいてもやりたい・・・」

「そう、なんだ・・・」

「オレってさ、昔から全然モテなくて、
今まで女の子とロクに話したことも無くてさ・・・」

「そうなの?」

「うん。だから中学生のときに、こういうゲームに出会って・・・
それですごいハマっちゃったんだよ・・・」

「・・・・・・」

「やってく内にさ、こういうゲームやったこと無い人はわかんないだろうけど
ストーリーは泣けるのが多いってのに気付いてさ。下手な小説やドラマなんかよりずっと良い話なんだよ。
だから、感動的な話を見たいがために今はゲームしたいって感じかな・・・」

「そっか・・・」

「だからごめん・・・
オレは綾音と付き合っていても、こういうの続けるけど・・・」

「いいよ、彰がしたいなら・・・
あたしに彰の趣味を否定する権利なんて無いもん。」

「ごめん・・・」

「謝ることじゃないよ。」

あぁ、綾音、オマエも優と同じで優しいんだな・・・
エロゲーをやる男でも構わないだなんて・・・

「でもさ、よくテレビのニュースで・・・
その・・・そういうのやってる人が犯罪起こすとかあるじゃん・・・
彰はそういうの、大丈夫だよね・・・?」

よくある話だ。

たまたま事件を起こすバカの部屋にエロゲーがあったからといって、
それが犯行原因だと面白おかしく報道するマスゴミ・・・
いつだったか、エロゲーをプレイした人間は精神が異常をきたすと
科学的根拠の無い、まったくのデマカセを抜かしていた政治家・・・

アニメ、ゲーム、エロゲーは規制しろだの、マスゴミ等はとにかくヲタクを批判したがる。
事件が起きる度に、ヲタク的な物はスケープゴートにされるように思う。
インターネットで色々情報を得ている人間はまだしも、テレビという媒体が主な情報収集源の人間は、
こういった面白可笑しく事実を脚色され、捻じ曲げられたテレビでの報道で勘違いをするものだ。
今、まさにそういう人間がオレの目の前にいる。
綾音はインターネットなんて家じゃ見れないからな・・・
そう勘違いするのも無理はないのかもしれない・・・

そもそも、何故こんなにもエロゲーや恋愛ゲームが普及するのか?

今の世の中には、年収1000万以上じゃないと結婚しないと寝ぼけたこと抜かす身の程知らずのビッチ供がいる。
そういうビッチがいるからこそ、結婚したがらない男が多い。
女性に積極的でない男を草食系男子とマスゴミは呼んではいるが、
この場合、男が積極的になるならないでは無く、積極的になるに値する女性がいないからだと思う。
確かにどうしてもモテない男はいるけど・・・
こういう女がいるからこそ、エロゲーや恋愛ゲームが普及するのでは無いのか?
一生女に貢がされる人生を送るくらいなら・・・現実の女に絶望したのなら・・・
二次元で過ごした方が良いと思う男がいるのも至極当然の話じゃないか?

男の年収を求めるのは30代、40代の女が多い。
年収以外にも、イケメンだの、身長が高いだの、わがまま放題だ。
まず自分に、それだけの男を求めるだけのスペックがあるのか見つめ直して欲しいね。
それに、もしオレが年収1000万あったとしたら、
30、40代のババアなんかじゃなく、もっと年下の若い子を選ぶけど。
そうやって自分に大したスペックも無いくせに、男を選り好みしてるから無残に売れ残るんだよ。

男を自分の奴隷、金づるとしか考えない女がいる以上、エロゲーや恋愛ゲームは終わらない。
女が変わらない限り、男は変わらない。
エロゲーはマスゴミが批判するような物じゃない。
エロゲーで救われる人間もいる。それでしか救われない人間もいる。
それを否定する権利なんて誰にもある訳が無い。

「あのさ・・・
テレビでよくそういうのが原因って報道してるけどさ、
テレビの報道なんてマスコミが面白可笑しく脚色してるだけだよ・・・」

「そうなの?」

「うん。マスコミはやたらとオタクを目の敵にする傾向があるからね・・・
何でもかんでもオタク系が悪いって報道するんだよ。」

「確かに、容疑者の部屋にはマンガがたくさん・・・
とかばっかだよね・・・」

「本当にそういうのが原因で事件を起こす人はいるかもしれないけどさ・・・
でもそれはホントに稀な人間で、そういう人間はオタク的な物が無くても結局事件を起こすと思うんだけどね。」

「そう、かもね・・・」

「それにさ、綾音の目の前にいるオタクであるオレが、
そういう事件起こすように見える?」

「彰はそんなことないよ!!」

「ありがと・・・だからさ、テレビなんてそんなもんだよ。
オタクだからといって、事件を起こすなんて事は絶対に無いし、
数ある事件の中で、たまたまそういう人間がいたから際立って見えただけ。
だからさ、あんまテレビの報道なんて間に受けない方が良いよ。」

「そうだね。
彰に教えてもらわなければ、ずっと偏見持ったままだったよ・・・」

綾音に理解してもらえて良かった・・・
やっぱ、今の世の中勘違いをしている人は多いからね。
好きな人だけには、オレをヲタクというだけで、犯罪者みたいに見られたく無かったし・・・

でも、もしオレがヲタクだから、エロゲー好きだからという理由で別れを告げられていたら?
オレはどうしていたんだろう・・・

決まっている。

また前のように・・・現実の女など、所詮そんなもんだと、
現実に絶望してエロゲーに戻るだけだ。

ヲタクだからという理由で別れるような女ばかりの世の中なら、
オレは一生二次元の世界で生きることを望む。
彼女といえど、オレのエロゲーを否定する権利は無い。
だったら別れるしかないだろう・・・

でも綾音は違う。
優も綾音も、ヲタクだからといって、オレを偏見の目で見ない。
オレは・・・今までまったくモテなかったが、付き合った女性は本当に良い子だったのかもしれない・・・

優のときは、オレの不甲斐なさで別れることになったけど・・・
今度は、綾音との恋愛は失敗したくない・・・

オレは今の綾音が好きだ。
もう綾音の過去に囚われないようオレは頑張る。
そして綾音もオレを好きだ。
例えオレがヲタクでも気にしない。

お互いに欠点があっても、こんなにも好きでいられる。
だから・・・オレは綾音とずっと一緒にいたい。

「オレはこんなんだけど・・・
これでも綾音は好きだって思ってくれるんだよね・・・」

「うん・・・
あたしだって、昔は男と遊んでばかりだったけど・・・
それでも彰は好きでいてくれるんだよね?」

「もちろん。」

オレと綾音は無言で唇を重ねる。
お互い無意識に、キスをして相手の気持ちを確かめるかのように。
自分でもこの雰囲気は、「それ、何てエロゲ?」って思う。
でもそんなベタな雰囲気が心地良い・・・

オレは綾音を絶対離したりしない・・・
綾音の過去・・・過去の男を越えて・・・
過去の男のように、オレは綾音を悲しませたりしない・・・
オレは綾音を幸せにしてみせる。


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