第三十一話
過去を知ってオレの気持ちは・・・



「昨日はごめんなさい・・・」

「いいよ謝らなくても。綾音だけが悪いわけじゃないんだから。」

綾音の母親がガーデンに乗り込んで来て・・・
オレや綾音が説教食らって・・・
そして優の家に行ってから一日が経った日曜日。

今日はお互いガーデンに18時と少し遅めの出勤のため、
綾音は昼からオレの家に来ていた。

でもあの母親のことだから、
綾音が男の家に行ってるって知ったらまたキレそうだよな・・・
もちろん母親には内緒だし、毎度のようにオレから家に誘う訳じゃなく、綾音から来るんだが・・・

「でもこれからは深夜遊ぶの止めよう。」

「うん・・・」

「あとさ携帯、なるべく見られないようにロックするとか・・・」

「うん、もう見られないようにするよ。」

あの母親は、確かに娘のことを心配はしているとは思う。
そこはちゃんと親らしいといっちゃ、らしいかもしれない。
が、娘の携帯を勝手に見たり、弟ばかり構って綾音には冷たい等、気に入らない部分はある。
しかし当の本人に言えなかったチキンなオレ・・・

今回の件があるので、今後は母親のチェックが厳しくなるかもしれない。
普段綾音とメールをしているが、結構際どいエロ系の会話もする。
そりゃ若い男女だ、そんなのは当たり前だろ。
だが古い人間というのは、そういうのが気に入らない。
綾音の母親みたいに、若いとき何も青春出来ず、寂しい時を過ごしてきたババアなんて特にな。
だから今後一切メールも見られないようにしてもらわないと、また今回のような事件が起きてしまう。
今度もし見つかったらガーデンじゃなく、オレの家に乗り込んで来そうだもんな・・・
もうあんなことは二度とごめんだ。

あの場にいた連中、新美は理解しているから良いとして、
高野や合田、店長にオレ達のことを知られてしまった。
正直、かなりガーデンに居辛くなったな・・・。
今日もバイト行きたくない気持ちで一杯だ。
どうせ、今頃オレ等の噂してるんだろうし・・・

悩んでいても何も変わらないし、どうせ今日出勤なんだけどさ。
なので、そろそろ本題に入ろうと思う。
昨日優に、変に妄想するよりハッキリさせた方が良いと言われた。
丁度綾音は今オレの部屋にいる。時間もある。
今がチャンスなのだ。全てを聞き出す・・・

「綾音。あの、さ・・・」

しかし本当に聞いていいのか。
オレは自分で自分の首を絞めるのか。
綾音の全てを聞くということは、オレも自身のことを話さなきゃいけない。
いつまでもオレも隠すのはどうかと思う。
だからオレも晒す。自分がオタクであると。エロゲーが好きであると。
例えオレがこんな男でも、綾音なら・・・

「なに?」

オレは大きく息を吸う。
まずは聞くんだ。綾音のことを。

「ごめん綾音、オレどうしても聞きたいことがある・・・」

「どうしたの急に。」

まだ迷う・・・
思ったことが口に出せない。
出してしまうことが怖い。
だが本当のことを知ってしまえば、変な妄想で悩むことは無い。
だから聞くんだろオレ!!
なんとか声を出す。それは綾音に告白したときのような震えた声だったかもしれない。

「オレを小さい男だって思うかもしれないけど・・・
でも綾音の・・・過去をハッキリ知りたい。」

言ってしまった・・・
綾音の顔が一気に曇る。
こんな顔を見てしまうと、こんなこと言わなきゃ良かったと思ってしまう・・・

「・・・なんで?
バレンタインの夜に言ったじゃん。」

「もっと詳しく知りたい・・・」

「もういいじゃん・・・
昔の恋愛は昔だよ?今は彰の彼女なんだよ・・・?」

「だから・・・
今綾音はオレの彼女だよ。だから知りたい。
何も知らずに付き合っているなんて、オレ嫌だし・・・」

「だからって・・・昔なんて関係ないじゃん。」

「これっきりにするから・・・
どうしてもハッキリさせたい・・・」

「なんでそんなに気になるの・・・?」

「オマエのお母さんから・・・
ボランティアで知り合った人と付き合ったとか聞いたから・・・」

「そんなこと、聞いたんだ・・・」

「どんな男だったとか、エッチはどうだったとか・・・
自分でもこんなこと聞くなんて、とは思うよ?
でも、このままだとオレ、色々悪い妄想ばっかりして・・・」

今まで綾音の過去でずっと悩んできた。
このまま妄想を広げるようじゃ、オレは絶対ダメになる。
綾音をずっと好きでいられるかわからない。
だから、ここでオレの妄想、綾音の過去に終止符を打つんだ。

前の彼氏のことを聞いて、その話の中で少しでもオレが勝っている部分があれば・・・
そんな幼稚な考え・・・それでも、それによって自分に自信が持てるかもしれない。
だが前の彼氏の方がオレより優れてる部分があったら?
例えばエッチがうまくて、本番で綾音をイカせられたとか・・・
綾音から、今まで本番ではイッたこと無いって聞いたが、そんなのオレに気を遣っているだけかもしれない。
それも含めて知りたいんだ。

過去の彼氏に対して対抗心を持っても、どうにもならないのは分かってる・・・
でも、それでも・・・

「わかったよ・・・そのかわり、もうこれっきりにして。
あたしも思い出したくないし・・・」

「これっきりにする・・・」

「じゃあ、まず何から知りたいの?」

「前聞いたときは、初めての彼氏は中学のときって聞いたけど・・・
確か20代の男だったよね・・・その人もボランティアの人?」

「そうだよ・・・
あたしの彼氏はほとんどボランティアの人・・・
あとは友達の紹介とか。」

「そうなんだ・・・
みんな年上ばっかなの?」

「そう。みんな年上。」

やっぱボランティアの人間ばっかか・・・
中学生、または高校生だった綾音と付き合う年上の男供・・・
そしてまだ幼い身体で年上とばかり付き合ってきた綾音・・・
これじゃ男も女も何のためにボランティアやってるのかわかんないな。
ホントただの出会いの場化してんじゃん・・・

「綾音はさ・・・なんでボランティアなんてやったのさ・・・
これじゃ、ただ年上の男と知り合うためとしか思えないよ・・・」

「そんなんじゃないよ!!
ただ友達に誘われて・・・ホントに男が目当てとかじゃない・・・」

「そっか・・・」

って言われてもね・・・説得力も何も無い。
今の綾音はそんな軽い女じゃないって分かってるさ。
昔の綾音を責めたって何も変わらないってのも分かってる。
でも悔しいんだよ、すごく・・・

「それで、カッコイイ男を好きになったから告白したって?」

「そう・・・」

「それで中学生の綾音に告白された男はOKしたんだ?」

「そう・・・」

「遊びに行くときは相手の車?」

「そうだよ・・・」

「車ってことは、ラブホとかも行ったんだよね。」

「そう、だね・・・」

車があるんだし、行くに決まってるわな。
大人が車で中学生とラブホ・・・

「やっぱ、付き合ってすぐエッチ・・・したの?」

「三ヶ月・・・くらいだと思う・・・」

「初めてはラブホなの?」

「ラブホだね・・・」

中学生がラブホで処女喪失・・・
なんだソレ・・・

「初めてはさ、やっぱ痛かったの?」

「痛かったよ、すごく・・・」

「気持ち良く無かったの?」

「痛くて、それどころじゃない・・・」

その男は、中学生だった綾音の初めてを奪ったんだ。
一生に一度だけの綾音の処女を、オレにはもう得られないものを・・・

「その初めての彼氏とはすぐ別れたの?」

「うん・・・
エッチしたいってしつこかったから・・・」

「それからの彼氏もそんな人ばっかだったんじゃないの?」

「そうだね・・・」

「おっさんが中学生、高校生とタダでやれるんだもんな。
そりゃもっとヤラせろってなるよな。」

「それ、前に聞いた・・・」

「そうだね・・・」

今の世の中は、こんなビッチの中学生、高校生の女で溢れ返っているんだな・・・
そして未成年と余裕でエッチをするおっさん供・・・

死ねばいいのに・・・
そんなクズ死ねばいいのに・・・
未成年と付き合う男、簡単に身体を許す女、死ねばいいのに。

オレはなんでこんな女と付き合っているんだろう?
そんなふうに考えてしまう。
今は前とは違っても・・・昔がビッチだったんじゃ・・・

でもオレも男だし、その男の立場だったら同じことをしているかもしれない。
自分はエッチをして、他の男にはエッチをするなって、矛盾している。
分かってるってば、オレの考えが極端過ぎるってのはさ・・・

「やっぱさ、オレみたいなガキより、エッチうまかったんじゃないの?」

「・・・・・・」

「綾音、今まで本番じゃイッたこと無いって言ってたけど、ホント?」

「ホントだよ・・・」

「そうなんだ。で、相手はうまかったの?」

「よくわからないけど・・・だって彰より年上なんだよ?
一杯経験しているだろうし、うまくても当然だよ・・・」

「・・・・・・」

ほら、やっぱオレなんかよりうまいんじゃないか・・・
早漏でヘタクソなオレなんかより・・・

「でも、うまいと、気持ち良いは別だよ・・・?」

「なんでさ・・・」

「うまく言えないけど・・・
前の彼氏と、彰への好きって大きさが違うからかな・・・
彰とのほうが気持ち良いっていうか、楽しいっていうか・・・」

「よくわからない・・・
うまいに越したことはないでしょ?」

「・・・あたしは今の彰で満足だよ・・・」

「綾音より早くイッちゃうのに?
綾音が満足してるなんてわかんないよ・・・
イッてないのに満足するなんて有り得ない・・・」

「あたしだってイキたいって気持ちはあるよ?
でも彰が気持ち良くなってくれるなら、今でもあたしは満足だよ、ホントに・・・
嘘は言ってないから・・・」

「く、っ・・・」

オレはイラついていた。
話を聞いて、オレの予想と何も違わない。
予想通りの過去だったからだ。
オレなんかより年上が良かったくせに、オレが良いと言うのもイライラさせられる。
オレが良いわけなんてない。

顔が良いわけでもない。
お金だって持ってない。
車だって持ってない。
エッチがうまいわけでもない・・・
こんな欠点だらけの男を好きだって?
そんなバカなこと・・・

「ごめん・・・色々変なこと聞いて・・・」

「うん・・・」

オレが過去のことをしつこく聞いたからか、綾音の顔は曇ったままだ。
空気が重すぎる・・・
これでオレのことを嫌いになったのだろうか?
もう別れたくなったのだろうか?

「オレのこと、嫌い・・・?」

「嫌いじゃない・・・
でももう二度と聞いて欲しくない・・・」

「そうだね・・・」

「前はホントに、今思えば軽い気持ちだったんだよ・・・
でも彰だけは違うって言える。初めてあたしを好きだって告白してくれたときや、
バレンタインの夜だって本当に嬉しかったんだから・・・
彰だけは本気で好きなんだから・・・」

綾音の目が潤んでいる・・・

おい。
もう満足したかオレ?
オマエは、こんなオレを好きでいれくれる目の前の女の子を傷付けているんだぞ?
傷付けている・・・過去のことをしつこく責めれば、こうなることなんて分かってただろ。
でも、それでも、綾音はオマエを好きでいれくれてるんだぞ?
もう過去に拘るのは止めにしないか?
もう良いじゃないか、過去は過去、今は今・・・
過去はどうであれ、今はまじめなんだよ。
そして、こんな世界でオマエただ一人だけを好きでいてくれるんだぞ?

こんな幸せはあるか?

そんなことは・・・

分かってるよ・・・

分かっていたんだオレは・・・

「ホントにごめん、綾音・・・」

「いいよ、もう・・・」

これで終わりじゃない。
今日は綾音の過去だけを聞いて終わりじゃない。

「あの、オレからもオマエに言わなくちゃいけないことがある・・・」

「え?・・・なに?」

オレがエロゲーを好きなこと・・・
それを言わなくちゃいけない。
綾音も過去を教えてくれたんだ、オレの過去も教えるべきか。
でも新美と一緒に帰っているとか、優の家に行ったとかはさすがに内緒の方が・・・
そこはまだ言わなくても良いだろ・・・
余計話がこじれるだけだし・・・
罪悪感を感じるけど、今はまだ言わないほうが良い・・・

「実はさ、オレ・・・」

オレは綾音の過去を聞いても・・・
オレの気持ちは変わらない・・・綾音が好きだってことには。

だから今度はオレのことを話して、
それでも綾音がオレを好きでいれくれるかどうか・・・


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