第三話 精一杯の告白



チャイムの音でオレは目が覚めた。
このチャイムは今日の学校の終わりを告げる音であり、
桜井と過ごす時間の始まりを告げる音でもある。

「は〜やっと終わったぜ・・・
叶野、今日帰り本屋行こうぜ〜」

「オマエ分かって言ってるだろ・・・」

「そうだよ石井、これから叶野は彼女と甘い時間を過ごすんだから。
邪魔するのはいかんよ。」

「まだ彼女じゃないってば・・・」

「今日彼女にするんだっ!!マジで応援してるぞ!!」

「石井は女の子を紹介してもらいたいだけだろ・・・
オレも応援してるよ。後でメールでもいいから結果教えてな。」

「おう、それじゃオレは先に帰るよ。じゃあな。」

昨日部屋の掃除はしたが、やはり来る前に最終チェックを済ませておきたい。
エロゲーなんか見られた日には一生目すら合わせてもらえないかもしれないし。

「じゃな!!」

「叶野、また明日な。」

いつもバイトが無い日は三人で本屋へ寄ったり、
ジャンクフードを食べに行ったりもするが、今日ばかりは早く帰らせてもらう。

「いよいよか・・・」

オレの学校は家からそう遠くはないため、自転車通学であった。
雨や雪の日は大変だが、寄り道やいつもと違う道で帰る等、電車よりオレは好きだった。
いつもはそんなことをしていたが、今日はそれどころじゃない。
真っ直ぐ家に向かって急いで自転車を漕ぐ。
急げば家に着くのは10分程であった。いつもの2倍近い。
普段使うエレベーターも一階に止まっていなかったため、階段を使い急いで六階へ上る。

「ただいまって、今日はお袋帰り遅いんだっけか・・・」

オレの家は両親共働きである。
そのためお袋の帰りが遅いことも頻繁にある。
だからこそオレは好き放題エロゲーが出来るのだが・・・

「いないなら好都合だな。」

そう、もし桜井とそういう事になっても回りを気にしなくてもいいからである。
まぁその可能性はかなり少ないが・・・

オレはすぐ自室へ入り、最終チェックを行う。
ゴミ箱にティッシュは入っていないか、本棚に成年コミックは残っていないか等。
隠し場所は押入れだ。さすがに押入れを覗くようなことはないだろう。

「おっと・・・」

オレはベッドの真横にあったティッシュ箱を50cmほど離す。
ベッドの真横にティッシュなんてあると変に勘違いされるもんな。

あとは何か残ってないか辺りを見渡しているとき、彰の携帯が鳴る。
このタイミング、桜井だな。

オレは携帯を開き、メールの着信相手を見る。やっぱり桜井だ。
思わず顔がにやけるが、そのままメールを開く。

『学校終わって今そっちに向かってるよ〜。
家に帰らずそのまま行くから、制服だけどいいよね?』

制服だけどいいよね・・・?何がどういいのかよくわからないが、
オレは制服好きだぞ。確かあいつの学校はセーラー服だったか。

「勘違いし過ぎだオレは・・・」

オレは邪な考えは捨て、真面目にメールを返信する。

『別に構わんぞ。もし迷ったらまたメールしてくれ。』

『わかった〜。じゃ、ちょっと待っててね〜。』

オレが返信した後、すぐ桜井のメールが送られてきた。
いよいよだ・・・オレの部屋についに桜井が・・・!!
思えばこの部屋に女の子なんて久しぶりだった。
今までこの部屋に来た女の子はアイツだけだった・・・







「ここが彰の部屋・・・。
話には聞いていたけど、変わったものが一杯あるね。」

そいつはパソコンの隣に置いてあったエロゲーの箱を手に取り、

「ふーん・・・こういうの、好きなんだ?」

「悪いかよ・・・」

「私は構わないよ。ただ・・・」

「何だよ」

「彰ってまだ未成年。それってあんまりよくないかな。」

「いいんだよ別に。未成年が買って気付かない店員が悪い。」

「人のせいにしないの。」

そいつは箱をパソコンの横に戻し、一息ついて、

「それじゃそろそろ始めよっか・・・」

「・・・うん・・・」







昔の話だ、もうオレには関係ない。
あのときのオレは恋愛とかそういうのが未熟だった。
そして何より臆病だったんだ・・・

でも今は違う。再び来たチャンス、今度こそは・・・

ピンポーーーーン

「来た!!」

オレは走って玄関まで行き、ドアを開けた。
ドアを開けた先には制服を着た桜井がいた。
制服姿は初めて見たが、今時の子ぽくスカートが短く、
普段見る桜井とはまた違った可愛さがあった。

「どうも〜。今日もすっごい寒いね〜。」

「そんな短いスカートならそら寒いわ。」

「そんなに短くないよ〜。短い子はもっと短いもん」

「オマエも十分短いよ。まぁ入れよ、寒いし。」

いかん、目がどうしても桜井の生足に行ってしまう。
スカートから見える健康的な足・・・それだけで興奮してしまう自分が悲しい・・・

「おじゃましま〜す」

オレは桜井を部屋までに案内する。

「お〜、叶野君の部屋、結構広い。」

「そうか?こんなもんだろ。」

心臓がバクバクする・・・
この家に桜井と二人きり・・・どうしても意識してしまう。
いても立ってもいられなくなり、オレはリビングに飲み物を取りに行くことにした。

「飲み物持って来るからそこらへんに座っててくれ。
あ〜テレビも付けてもらって構わないから。」

「うん、ありがと〜」

オレは部屋の扉を閉め、リビングへと向かう。
だめだ、もう頭の中は桜井のことしか考えられない・・・
震えた手で冷蔵庫からジュース、食器棚から普段は使わない洒落たコップを二つ取り出す。
このまま部屋に戻るのは辛い・・・
コップにジュースを注ぎ、それを一気飲みする。

「・・!!ごふっ、がふっ・・」

寒いときに冷たいものを一気飲みしたからか、思い切りむせてしまった。
でもこれで少しは落ち着いた・・・かな?

「よし、いくか」

オレはおぼんにジュースとコップ二つを乗せ部屋に向かう。
ドアを開けた先には、床に女座りの桜井がいた。
そんな座り方したら・・・スカートの中が・・・

「オレンジジュースだぁ!!あたし好きだよ〜」

「オレもオレンジが一番好きだ。しかも100%な。
これは100%じゃない安物だが。」

「全然構わないよ、そんくらいが好き。」

そんな会話を交わし、コップにジュースを注ぐ。

「はいよ」

「ありがと!!」

桜井はコップに入ったオレンジジュースを半分ほど飲む。
ジュースに喜ぶ顔、コップを持つ小さい手、コップに付けた唇・・・
それはガーデンではまったく見ることの出来なかった仕草だった。
今まで何とも思ってなかった桜井が、今日は本当に最高に可愛く見える。

しかしいつまでも眺めているわけにもいかず、オレもとりあえずジュースを飲む。
飲みながら何をしようか悩んだ。遊びに来たといったって一体何をやるんだろう。
この部屋に誰か来るといったら圭介くらいだ。
圭介の場合はゲーム、エロゲーの話、それくらいしかない。
アイツが来たとき、オレ等何やってたんだっけ?
そんなことを考えていたものだからオレは中々コップから口を離さずでいた。

「お〜一気飲み!!」

いつのまにか全部飲んでしまった・・・

「喉が渇いていたんだよ。」

さて、何を話したものか・・・
いや会話をするのか?こういうとき一体何をするのが普通なんだ?
ゲーム?マンガ?テレビ?・・・どれも違うだろ・・・

「これ、あたし今でも観てる〜」

桜井がテレビを見ながらオレに声を掛ける。
そのテレビの内容とは、夕方やっている教育番組だ。
毎度珍妙な生物と、お姉さんやお兄さんが一緒に歌ったり、工作したり、そんなような番組だ。

「これ、まだやってたんだ。」

オレも子供の頃は母親と一緒に観てたもんだ。
今でもやっているということは、10年くらいも続いているのか。
よく見てみると内容は同じようだが、出演者が全然違う。

「桜井てこういうの好きなのか。まだまだ子供だなぁ」

「また子供扱いした!!
保育系に進むからには、こういう子供の番組観るのも必要なの!!」

オレ達はしばらくテレビを見ながら色々話した。
学校でのこと、ガーデンのこと、愚痴やら楽しかったこと色々だ。
やっぱりメールで話すより、実際に話すほうが何倍も楽しい。
なんだ、オレってば女の子と普通に会話出来てるじゃないか。

しばらく会話してて気が付かなかったが、
いつのまにかテレビが教育番組からニュースに変わっていた。
それもそのはず、時計を見てみるともう7時半を過ぎていた。

「桜井、もう時間も遅いけどオマエ大丈夫なのか?」

「あ、ほんとだ。ウチのお母さんうるさいから、もう帰らないと・・・」

「悪かったな、こんな時間まで喋っちゃって。」

「いいよ、叶野君と話するの楽しかったし。」

ドクン、オレの心臓が高鳴る。
このままでは桜井は帰ってしまう。
いいのか、これで?
もしかしたら桜井はオレに気があるかもしれない。
でも意外にウブかもしれない桜井はなかなか勇気を出せず・・・
だったら男であるオレから行くべきじゃないのか?
そんな勝手な妄想が思い浮かぶ。

だが、今オレはハッキリ言えることがある。
オレは桜井が好きだ。桜井と付き合いたい。
だから今日オレは桜井に・・・告白する。

「桜井・・・」

「ん?なに?」

「オレは・・・」

心臓がバクバクしてうまく喋れない・・・
頑張れオレ!!何も恥ずかしいことじゃないんだ。
ただオレの気持ちを素直に伝えるだけなんだ。

「オレはオマエが好きだ。
オレと付き合ってほしい。」

本当に基本的すぎる、普通な告白であった。
だが下手な洒落た告白より、普通の方が良いと思った。
このオレにそんな洒落た真似は出来ないという理由もあるが・・・

オレの気持ちは素直に伝えた。
もう後戻りは出来ない。

桜井は驚きの表情でオレを見、その後視線が下に行く。
桜井が答えを出すまでの間が長い。
実際はオレの告白を受けて桜井が答えを出すまで10秒も無かっただろう。
しかし緊張したオレにとってはとてつもなく長く感じた。
桜井と話しているときは時間が短く感じたのに・・・

「あの・・・ごめん・・・」

この結果は大体予想出来た。
自分の都合の良い妄想で、現実から目を背けていただけだ。
桜井が、女の子がオレを好きになるなんて有り得ないんだ。
勘違いしていた自分が恥ずかしく思えた。

「いや、オレの方こそごめんな。突然過ぎて。」

「ごめん・・・叶野君が嫌いな訳じゃないんだよ?
今あたしにはガーデンに好きな人がいて・・・」

「そうか・・・」

好きな人がいた、しかもよりによってガーデンか。

「合田さんて知ってるかな?あたしあの人が好きで・・・」

合田、確か高野の友人で最近フロアに入った奴だっけか?
よくは知らないが、どうせ高野同様チャラチャラした奴なのだろう。
所詮現実の女はああいうのが好きなんだ。
分かってたさ、どうせオレには二次元の世界しかないということも・・・

「もう外暗いし、家まで送るよ。」

たとえフラれたとはいっても、最後まで男らしくいたい。
そんな拘りは一応オレにもある。
なのでお互い気まずいが、暗い中女の子を一人で帰す訳にはいかない。
オレは桜井を家まで送ることにする。

「うん・・・叶野君、ごめんね・・・」


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