第二話 学校での叶野



『叶野君家遊びに行っていい?』

『家来ても面白いものなんてないが、そんなんで良ければ構わんよ。』

それが悩んだ末の桜井への返事だった。
相変わらず素っ気無い返事を送ってしまったもんだ・・・

桜井がどんな返事を返してくるか、
家に来るという事はオレに好意があるのか・・・
考えることは桜井のことばかりだった。
気になってしょうがない・・・

メールを送ってから数分後、いつもの着信音が鳴る。
相手は言うまでもない、桜井であった。

「何か返事見るのもドキドキするな・・・」

胸が高鳴り続け、メールリストからなかなか先に進めない。
オレが送ったメールに対する返事を見るだけなんだ・・・
もし桜井に悪い印象与えたとしても、今更どうにか出来るわけでもないのに・・・

オレはそう自分に言い聞かせ、メールを開く。

『もしかしてお風呂入ってた?ごめんね?
男の子の部屋なんて久しぶりだから緊張するかも(笑)
学校終わったら行くね(o^∇^o)
だから5時くらいになるかな?
あ、でも家知らない・・・』

久しぶり・・・?ん〜何か気になるが、別に悪い印象は与えていないみたいだ。
返事が送るのが遅くなったため、風呂に入ってたと勘違いされてるが・・・
ま、いっか。

既に胸の高鳴りは静まり、オレは何事もなく桜井への返事メールを打つ。

『ジャスモてスーパー分かるか?
そこの隣の隣にあるマンションなんだが。
イーグルズマンションてとこの609号室。』

今度は悩む事もなくメールを送る。

「しっかし・・・」

オレはメールを送った後、自分の部屋を見渡す。

「とても女の子が入れるような部屋じゃないよな・・・」

本棚には成年コミック、エロゲー雑誌。
壁にはエロゲー、アニメのポスターがびっしり。
パソコンの壁紙はエロゲー、マウスパッドもエロゲー。
床には声優ソングCD、エロゲーサントラCDが散らばっている・・・

「これはまずい・・・」

そう思い、オレは部屋を片付け始めた。
その間も桜井とメールしながらであるが。

その後のメールは本当に他愛のない、世間話であった。
学校でのこと、バイトを始めたキッカケ、下ネタも少々・・・
何ていう事のない会話であったが、すごく心地よかった。
何せまともに女の子と喋ったのはあのとき以来だからだ。

オレに初めて彼女が出来たあの日・・・

「過去の話だ、今はもう関係ない。」

過去を思い出すのをやめた所で、片付けは終わった。
そしてそれと同時に、メールも終わりが近づく。

『もう遅いし、寝るね〜。
メール楽しかったよ!!それじゃおやすみ〜』

桜井からのメールを見た後、時計を見る。
もうこんな時間か・・・
結構長い時間喋ってたんだな。

『おう、おやすみ。また明日な。』

いつも通りの返事を返し、メールでの会話は終わる。

「オレも風呂入って寝るか・・・」

今日もバイト忙しかったし、明日は桜井が来る。
もし、本当にもしかしたら、そういう事になるかもしれない。
そのためにも、桜井のためにも、今日はゆっくり体を休めよう。

あれ、ゴムってあるっけ?
・・・まぁ突然そんなシチュエーションには有り得ないよな普通。
そういう状況になってもゴム無しでいっか・・・


「オレにも、また彼女が出来るのかな・・・」





次の日、まだオレはいやらしい事を考えながら学校に行く。

「よぉ叶野、昨日のテレビ見たか?
あのアイドル、乳すごくね?」

教室に入るやいなや、2人の男子がオレに話し掛ける。
こいつらは石井、田中。下の名前は知らん。
このクラスでは仲の良い方だ。
いつもアイドルがどうとか、裏AVを貸してやる、等
やらしい事を考えるのはオレだけじゃない。
この年の男子であれば誰も同じなのだ。

「昨日バイトで見てねぇよ。
相変わらず盛ってるなぁ。」

「彼女がいねぇんだからしょうがねぇだろ。
まったくオマエは女に興味ないのかよ!!」

そう、オレは現実の女には興味が無い。
興味があるのはディスプレイの女のみ。

だがそんなことは学校では内緒なので誰も知らない。
例え仲の良い同級生にもだ。
オレが一度だけ付き合った事があるのももちろんである。

だがオレは桜井の件があり、こいつらに自慢したくなった。
そうすることで、オレ自身が優越感を感じ、今日の自分に自信がつく。

「悪いが、オレには彼女が出来るかもしれんぞ?」

その言葉を聞いた二人は・・・

「またまた、オマエに彼女?ありえねぇ〜。
こんな女に興味がない奴を好きになるなんて・・・
そんな女がいたら、それは男を見る目がないってこった。」

「それは言いすぎだぞ石井。
人には好みというものが存在し、叶野が好きという物好きもいるかもだろ?」

「テメェ等殺すぞマジで・・・」

オレは昨日のメール、一部だけ見せ付ける。

「この女の子が今日オマエん家行くって、マジか・・・?」

「マジだ。家来るってことは・・・
もう何でもしていいということだよな?」

「かーーーーーーーーっ!!オマエって奴はぁぁぁぁ!!」

「・・・叶野。無理矢理はやめなよ?本当に。」

盛り上がる石井とは別に、田中は冷静であった。

「まだ彼女じゃないんだろ。ならちゃんと、な?」

「分かってるよ、無理矢理なんてそんな最低な事出来るか。」

そんなことを話しているとチャイムが鳴る。

「叶野!!あとで詳しく聞かせろよ?」

「オレも今の彼女と付き合い長いからさ、
色々アドバイスしてやれるからな。」

そう言い二人は席につく。
あ〜、そういや田中には彼女がいたんだっけか。
彼女がいないのは石井とオレだけだったな。

オレはこういう話が出来る連中がいながら、オレから話掛ける事はない。
それはめんどくさい、それだけだった。

オレ自身がこういう性格だからだろう、
オレには友達なんかいやしない、近づく奴もいない。

その中でもあの二人だけは何故かオレに近づいて来た。
オレなんかより、もっと付き合いが楽しい連中がいるのに物好きな奴等だよ。

学校ではこのように喋る奴はあの二人しかいない。
もちろん女子と喋ることなんかありゃしない。
現実には興味がない・・・と言っても少しくらいは女子と接したい気持ちはある。
だが、ある程度学校生活が進んでしまうと、
オレという人間は暗い、近寄り難い、そういうレッテルを貼られてしまう。
それ等のレッテルを一度貼られた以上、もうこの学校生活では出会いというイベントは絶望的。

ではオレはどうしたのか?

オレの大好きなエロゲーの一つ、"Pureキャロットへようこそ!!"である。
そのゲームというのは高校生の主人公がファミレスでバイトし、
最終的には女の子と結ばれるというやつだ。

オレはそのゲームの影響で高校一年の夏から家の近くの
"ガーデン"というファミレスでバイトをすることにした。
バイトもエロゲーの影響だ。考える事、行動、全てエロゲーである。

だが現実はエロゲーや恋愛ゲームのように簡単にフラグが立つ訳ではない。
ゲームのように清純なヒロインがいる訳でもない、一緒に帰宅するイベントがある訳でもない。
ガーデンで付き合っているカップルといえば、高野等のチャラチャラした男が、
同じようにチャラチャラしたバカそうな女と付き合っているくらいだ。

自分が勝手に思い描けた夢が壊れてからは、ただ金稼ぎのために働くだけであった。
結局オレは学校、バイト、どちらもレッテルを貼られているのである。

そんなオレでも今回やっと出会いが訪れた。
高校生活は残り僅かであり、少々遅い出会いであったが、やっと訪れた出会い・・・
そりゃPureキャロのようなロマンチックな出会いじゃないが、この際何でもいいと思った。

「早く終わんねぇかな、授業・・・」

早く桜井に会いたい、時間が経つにつれそう想いが高まる。
だが焦っても時間が進む訳ではない。
ならばどうするか?時間が経つのを短く感じればいいのだ。

オレは鞄の中からipodを取り出す。
オレがいつも学校で時間を潰す手段は三つ。
音楽を聴き寝る、漫画を読む、携帯ゲームをやる、だ。
その中でオレは音楽を聴き寝ることを選んだ。
ipodの中は言うまでもなく、ヲタ系ソングオンリーである。

「桜井おやすみ・・・」

桜井の顔を思い浮かべ、オレは深い眠りにつく・・・





「おい叶野!!起きろよ!!」

やかましい石井の声でオレは目覚めた。

「ん・・・?もう一時間目終わったか?」

「叶野・・・もう午前の授業終わって今昼休みだよ・・・」

田中は弁当が乗った自分の机を、オレの机にくっつける。

「結構寝てたなオレ・・・」

「寝すぎだアホ!!」

石井は購買で買った焼きそばパンを頬張りながら怒鳴る。

「汚ぇ・・・麺飛ばすなよ・・・」

顔についた麺を拭き取り、鞄から自分の弁当を取り出す。

「で、今日オマエん家に女の子が来るって訳だが、
なんでいきなりそういう展開なんだ?」

「いきなり向こうから来るて言い出したんだよ。」

「いきなりの携帯番号交換、そして今日家に来る・・・
叶野、これはもしかしたら向こうもかなりオマエに気があるのかもね。」

「やっぱり田中はそう思うか。」

「かーーっ!!マジかよ!!
納得いかねぇ!!オマエ付き合う事になったら、その子の友達でも紹介しろよ!?」

「分かった分かった。
もし付き合うことになったらだぞ?」

いつも昼休みはグラビアがどうのという話ばかりであったが、
今日だけはオレの話オンリーであった。

しかし、ここまで来てしまっては失敗は許されない。

「叶野、石井はこんな感じだがオレは応援してるよ。頑張れな。」

「おうよ、そしてオレに紹介しろよ!!
オレのためにも頑張れ!!」

「ははは・・・ありがとな。」

いつもより長く喋っていたからか、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまった。

「まずっ!!次古典だろ?安藤が来る前に早く食べるぞ!!」

「だから!!口の中の麺をオレに飛ばすなっつうに!!」


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