第一話 新しい出会い



「いらっしゃいませぇ!!」

「ハンバーグセットお二つ、以上でよろしかったでしょうか?」

「叶野君、ドリアまだなの?」

「あ〜・・・はい、もうすぐ出ます。」

「ちょっとそれ急ぎだから、早くしてね?」

「はぁ、すんません。
 袴田君〜ドリアあとどんくらいで出来る〜?」

「もうあと2、3分で出来ます〜」

「了解、ふぅ・・・」

オレの名は叶野 彰(かのうあきら)。
来年卒業する予定の普通な高校三年生だ。

いやちょっと普通じゃないかもしれないな。
バイト先や学校では内緒だが、自分はヲタクである。
それも現実にまったく未練がない程のニ次元ヲタク。

好きな物はエロゲー、ギャルゲー。
女性(キャラ)の好きなタイプはお姉ちゃん系と妹系。
好きなキャラは鳩山 千都瀬、鳩山 色の二人だ。

一応これでも女性経験は高校一年のときに一度だけある。
すぐ終わった恋だったが、一応童貞ではない訳で・・・

それ以来まったく彼女が出来ず、青春も堪能しないまま
高校生活はあと約三ヵ月ちょっとを残すところだ。
まぁオレの青春はPCのディスプレイの中だけだし、
青春を堪能していないてのは嘘だな。

「叶野君、ドリア出来た?」

「あ〜、はい、今出ますよ。」

もうあと二週間程でクリスマスだっていうのに、
バイト一色だなオレ・・・

まぁ12月は一杯欲しいエロゲーあるし、
ここで頑張って稼がなきゃな。

第一、現実の女なんかより二次元の女のが良いしね。
て言ってもただモテないだけなんだが・・・

ここのファミレスでバイトしてるのだって、
あるエロゲーで影響受けたからなんだが、
現実はそうゲームのような出会いは一切無く・・・

今年もクリスマスは一人で過ごすことになるのか・・・
いや、オレにはちゃんと彼女がいるさ。ディスプレイごしだが。

「叶野君、もう10時だしあがっていいよ〜」

「うぃっす、お疲れさました〜」

時計の針が10時を過ぎたので
オレ達、厨房高校生組みは帰ることにした。
基本的に高校生は10時までなので、
深夜組の中年の方達と入れ替わりになる。

「今日も働いたな・・・
 平日は学校、土日はバイト、結構辛い・・・」

そう呟きながら休憩室に入ると、
そこには既にあがったはずの高校生や大学生のフロアメンバーがいた。

「でさぁ、そのときねぇアイツさぁ」

「マジでぇ?そらないわぁ!!」

終わったんならさっさと帰れよ。
うざってぇ、休憩室でイチャイチャしやがって・・・
と、そうは思っても羨ましい気持ちも多々ある。

「おう、叶野お疲れ!!」

「お疲れ様す」

休憩室に入ってすぐオレに声を掛けたのは
フロアリーダーの高野 孝治(たかのこうじ)、高校を卒業しフリーターの男だ。

正直オレはこいつがいけ好かない。
同じバイト先に彼女がいるからといってイチャイチャ。
その他の大学生の男女も仲良く喋り合ってたり・・・
うざい事この上ない。

オレは適当に返事を済ませ休憩室内にある更衣室に入る。
休憩室内に更衣室があるせいで、着替えるときも高野や、その彼女の笑い声が聞こえる。

不快だ・・・
さっさと家帰ってエロゲしよ・・・

着替えを終わらせ、さっさと休憩室から出る。

休憩室から出て帰るか、というときだった。
マナーモードにし忘れたのか、オレの携帯から着信音が鳴る。
もちろん着信音はオレの大好きなNative2-TWIN-というエロゲの主題歌だ。
まぁ、どうせこいつらには着信音聞かれても
何の曲か分からないだろうし、構わないんだが。

「げ」

携帯を開き、そこに写っている電話番号、名前を見て
思わず声に出してしまった。
大体の用は分かってるがとりあえず電話に出る。

「はい」

「いよぉ、今からオマエん家遊びに行くわ〜」

「あ〜分かった分かった。」

それだけ言ってオレは電話を切った。

電話の相手は奴だった。
奴とはオレの中学生の頃から付き合いのある友人、
海道 圭介(かいどうけいすけ)である。

こいつもオレもお互い他に友人がいなく、
更にお互い共通の趣味(エロゲー)を持っているため付き合いが長い。

「まったく、遊ぶ相手は男だけて寂しいよな・・・」

そう呟きながら店の外に置いてある自転車に乗る。

「あ、叶野君。」

「ん?ああ〜桜井か。」

オレに声を掛けたのは同じ高校三年生の
桜井 綾音(さくらい あやね)だった。

桜井はフロアの制服姿であり、
これから休憩室に向かうところのようだった。

「オマエ遅いなぁ、オレなんかもう着替えて帰るところだぞ。」

「あはは〜
 あたしてトロいからね〜。でも着替えたらすぐ帰るよ。」

「そうだな、結構バイト中ミスしてるみたいだし。」

「ひっど!!
 あたしだって結構真剣にやってるのにぃ!!」

桜井は見た目はそんなに良い方ではないが、
誰でも気軽に話し掛けられるような人懐っこい子だ。
背も小さく、高校三年にしては幼く見える。
だからなのか、年上の連中に隠れファンはいるようである。

オレもこいつには気軽に話し掛けられるが、
どうしてこんなのが良いのかよくわからない。
それはオレが現実の女に興味が無いからなのか、
こいつを女として見ていないからなのか分からないが。

「そうだ、叶野君て進路て決まってるの?
 ほら、あたしたちもうあと少しで卒業じゃん?」

「オレは決まってるよ。
 今の高校の姉妹校でコンピューター系。」

「そうなんだ!!なんかコンピューター系てカッコイイね!!
 あたしもちゃんと決まってるよ、保育系なの。」

「保育系て・・・先生にでもなるつもりか?」

「そう!!あたし子供好きだからね。  昔からそういう仕事に就きたいて思ってたんだぁ。」

「オマエが見た目子供なのに務まんのかよ。」

「うわ、ひどっ!!
 見た目関係ないし!!」

「悪かった悪かった。
 まぁ頑張ろうな、お互い。」

「そうだね・・・
 あ、そうだ。」

そう言い、桜井はポケットから携帯電話を取り出す。
すげぇ・・・携帯に何か色んなのがたくさん付いてる・・・

「叶野君、電話番号教えてよ。」

「ん?ああ、別に構わんよ。」

女と電話番号交換なんて、高校一年以来だな・・・

「今日夜メールするよ!!
 それじゃあね〜。」

「うぃ〜す」

正直、別に興味が無い子からでも嬉しいと思った。
告白されたわけでもないのに、ただ番号を交換しただけなのに、
こんなにも胸が高鳴るのは久しぶりかもしれない・・・
そんなオレのテンションは帰宅した後も上がりぱなしであった。

その様子を見て最初に気が付いたのは圭介であった。

「オマエどうしたんだよ、なんかニヤニヤしちゃって。」

圭介が遊びに来たときは、決まって格闘ゲームをやる。
好きなエロゲーをお互い語りながら延々と対戦し合うのだ。

いつもはオレが延々とNative2について語りだすはずが、
ニヤニヤしながら無言でコントローラーを動かすだけであった。

「ん?何でもないよ?マジで。」

「いや、どんだけ付き合い長いか分かってるか?
 前もこんな事があったぞ、確かクラスの好きな子と両思いだったときとか。」

「オマエもそんな事よく覚えてるな。
 別に好きて訳じゃないが、バイト先の子と番号交換しただけだよ。」

「・・・・・オレ達にはエロゲーというものがあるじゃないか!!
 マァァァイブラザァァァ!!あのとき誓った事を忘れたのか!?」

「うるせぇよ、別に好きな女て訳じゃないて言うてるがな。
 第一『マイブラザー』て叫ぶネタ古すぎだ。」

「悲しい!!悲しいぞオレは・・・
 て、携帯鳴ってるぞ?オマエの。」

圭介はオレの携帯、Native2の主題歌が鳴っている携帯を指差す。
あぁ、相変わらず良い歌だ・・・鳴り止むまで聴いていたい・・・

「取らねぇのかよ・・・たく、Nativeバカが。
 ならオレが見てやるよ。」

「おい待てよ!!まだサビが・・!!」

圭介はお構いなしにオレの携帯を開き、着信メールを声に出して読み出す。

「え〜なになに・・・
 着信相手は桜井 綾音・・・てマジで女かよ!?」

「なに!?貸せヴォケ!!」

オレは無理やり圭介から携帯を取り返す。
そしてメールをざっと読み、顔が更ににやけてしまう。

「オ〜マエ、顔に出しすぎだろ・・・」

「いやいや、だってこんなの来たぜ?マイブラザー。」

「ん、どれどれ・・・」

『今日は日曜だけあって、やっぱり忙しかったね〜。
 明日学校だけどかなりへとへと・・・
 そいや、叶野君て近くで見るとやっぱ背高いよね。
 背が高い男の子は結構カッコイイよ〜』

「むっふぁぁぁぁぁ。」

「彰、オマエ、キモすぎ・・・」

「これはオレに気があると見ていいのかい?マイブラザー。」

「まだ何とも言えんが、好印象ではあるんじゃね?」

「ふぅむ。昔からよく言うよな。
 興味ない女の子でも、自分に好意があると分かったら、
 急に可愛く見えるてな。」

「あ〜はいはい、ノロケはええよ。
 お邪魔みたいだし、オレは帰るべ。」

「おうそうか、悪いな。」

「テメェ、携帯眺めてねぇで見送れよ!!」

「あ〜悪い悪い、はいはい。」

「オレも明日はバイト早いしな、元々早く帰るつもりだったよ。」

「さすがフリーターは大変だな。
 まだ高校生のオレには分からんが。」

「高校ていう縛られるものが無いというのも楽だぞ?
 試験も何にもない。」

「どっかで聞いたフレーズだな・・・
 まぁいいや、じゃあな。」

「ああ、じゃあな。また来るわ。」

オレは圭介を見送った後、すぐ桜井に返事を返すことにした。

「ふぅむ、何と送ったらいいものか・・・
 まぁいきなり変なメールはアレだし、普通に送っておくか。」

『背が高いだけじゃモテはしないが・・・
 オマエは結構隠れファンいるらしいし、オマエがモテてるんじゃねぇの?
 明日はバイト休みだし、オレはゆっくり休む。学校はあるが。』

「ふむぅ・・・こんなもんか?
 少し硬い?いや、こんなもんか・・・」

ただ好きでもない女なのに、返事を送るだけでドキドキしてしまう。
オレはなかなか送信ボタンを押せず、ただ画面を見つめるばかりだった。

「何をそんなビクついてるんだよ・・・」

バカらし・・と呟き、オレは力強く送信ボタンを押した。

「好きでもないんだから、そんなドキドキしなくても・・・な」

特にやることがある訳でもないのでTVをつけてみる。
チャンネルを適当に変えるが、特に面白いものがやってる訳でもない。

何かしていないと落ち着かない・・・
今頃桜井はメールを読んで返事を書いてるのか?

「お?」

そう思った矢先、携帯が鳴り出す。
ん〜、やはり良いメロディだ・・・

「・・・さて、聴き終わった所でメール見るか・・・」

『あたしにファンて・・・(笑)  おっさんばっかでしょ、どうせ。
 叶野君、明日休みなんだね。あたしも休みなんだぁ。
 なら暇だし叶野君家遊びに行っていい?
 何か用事があるならやめておくけど・・・』

オレは固まった。
これは・・・え?冗談?・・・マジすか?

「そんなバカな・・・
 いきなり!?いきなり家!?」

あまりにも突然過ぎて、さすがのオレも固まった。
結局返事を返したのは、そのメールから一時間後であった。


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