第二十七話
再会



「はよ〜。」

「はよ〜・・・じゃないよ!!彰来るの遅すぎっ!!
あと5分で来る電車に乗り遅れたら間に合わないよ!!」

「あ〜・・・ごめんごめん。
綾音の電話が無けりゃ、そのまま寝てたよ。」

「あたしは目覚ましじゃない!!
って、早く行こ!!電車来ちゃう!!」

「はいはい。」

あれだけ綺麗に咲いていた桜が散った今は5月。
オレはコンピューターの専門学校へ、綾音は保育の専門学校へと通っている。
電車が途中まで同じなので、オレ達は毎朝駅で待ち合わせしているのだが・・・

「早く!!もう来てるよ!!」

「寝起きでダッシュはキツイて・・・」

オレはいつもの日課で、深夜遅くまでエロゲーをしているため、朝起きれない場合が多い。
そのため、毎朝綾音が電話で起こしてくれるわけだ。
彼女の声で目が覚めるって、かなり贅沢な目覚ましじゃない?

「はぁぁぁぁ・・・間に合った・・・」

「いや、いつも悪いね、オレのせいで。」

「悪いって思うなら、ちゃんと起きてよ・・・
あたしまで遅刻するの嫌だよ。」

「すまん・・・」

と言いつつも、深夜のエロゲーをやめるつもりは無いけど。
だって深夜こそ、やる気が出るしね。
てか、普段は学校とバイトでなかなかやる時間が無い。
高校を卒業したため、オレは22時以降もバイトをやることが多くなった。
やっぱり22時以降の方が時給も良い。
だから結局エロゲーをやる時間は深夜になるんだよね。

「あ、綾だ。おっはよぉ。」

「あ〜望ちゃん、恵子もおはよ〜。」

「彼氏さんも、おはよ。」

「おはよぅ。」

毎朝こんな可愛い子達に挨拶してもらえるなんて・・・
女性に対する免疫がまったく無いオレは正直恥ずかしい・・・
こうやって電車の中で綾音の同級生に会うのはしょっちゅうなのだが、
未だに目を合わせて挨拶をすることが出来ない。

しかし、高校を卒業してすぐ女の子はこうも色っぽくなるんだな。
綾音は綾音で子供っぽい可愛さがあるんだが、
この望、恵子って子達を見てるとちょっと見劣りするかなと思う。
大人っぽい服や大人っぽいメイク、そのどれもが魅力的に見え、
あんまりメイクをしない綾音は・・・
てかこいつは、この身長だし中学生に見えるしなぁ・・・
ロリ系が好きな男にはモテそうだけど。
実際に、ガーデン内でも綾音が可愛いとか言ってる男はいた。
オレの身長は高いほうで、綾音とかなり背の差があるし、ロリコンに見られていないか心配だ・・・

オレの通う専門学校にももちろん女の子はいるが・・・
やっぱり、こんな可愛い子はそうそういない。
コンピューター系は男がダントツで多いってのもあるけど。
だが綾音の通う保育の学校は女の子が多い。
男は1学年に10人いるかいないかという圧倒的な男女の差である。
一見、女だらけでハーレムだと思うかもしれないが、
オレみたいな男にとっちゃ、そんな学校は拷問に近い・・・
しかもこんな可愛い子達に囲まれてだなんて・・・
勉強に集中出来んだろ。

「あ、オレここで降りるから。」

「うん。じゃ、またガーデンでね〜。ばいば〜い。」

学校までの距離はオレの方が近い。
なので綾音が降りる駅より、一つ前の駅で降りる。
そして、ここから歩いて10分くらいなのだが・・・

「アキさん、おはよぉす。」

「はよぅ。」

歩いて学校に向かう間に、同じ学校の子達と会うことが多い。
この男は大畑和也、専門学校で一番仲の良い子・・・かな。

「アキさん、今週末に新作が一杯出るけど、何か買う?」

「あ〜・・・どうだろ。
今回は特に興味引かれるもの無かったし、見送りかな。」

「そうなの?
オレはとりあえず天然少女3はチェックかな。」

「あれ、結構PCのスペック要求するでしょ?
良いなぁとは思うけど、オレのマシンじゃなぁ・・・」

さすがコンピューター系の学校。
オレみたいなエロゲー好きはもちろんいる。
高校では隠してた趣味も、この学校じゃ堂々と話せる。
しかも、わりと彼とは趣味が合う。
エロゲーの話をするのなんて、今まで海道とバカマダくらいしかいなかったしなぁ・・・
やっぱり趣味の合う人間がたくさんいると良いよね。

「叶野君、大畑君おはよー」

「おはよ、清水さん。」

この少し変わった服装の女の子は清水瑞希、同じ学校の女の子だ。
彼女はロックが好きなのか、服装がいつもロックだ。
チェーンがたくさん付いていたり、黒系の服ばかりだったり・・・
いつもロック系の服装した変わった子だけど、顔は結構良い。
可愛いっていうよりは、綺麗系かな。

しかし、高校じゃ女の子から挨拶すらしてもらえなかったオレが、
この学校じゃちゃんと挨拶、声を掛けてもらえる・・・
専門学校最高だね。
やっぱあの高校の女供がおかしいんだよ。
だって高校と専門学校じゃ、こんなにも差があるんだしね。

「アキさん、清水さんって結構可愛いと思うけど。
アキさんはどう思う?」

「え?いやぁ、可愛いとは思うけど・・・
ちょっと変わってるよね、服装とか・・・」

「それがまた良いっていうか・・・」

「え、何?もしかして清水さん狙ってるの?」

「ちょっと・・・良いかなぁって・・・」

大畑は見た目は普通・・・かな。
でも、あくまでもヲタク系にしてはって意味でだけど。
清水は背が高い。確か170って言ってたっけか?
大畑の身長は170あるかないか・・・清水と同じくらいだ。
あの子ヒールとか、厚底履くから、大畑のが小さく見えるじゃん。
ちょっと似合わないかなぁ・・・ロック系とヲタのカップルだなんて。

「まぁ・・・頑張れよ。」

「アキさんはあんな可愛い彼女いて羨ましいよ。」

「あれ?見たことあんの?」

「電車でイチャついてるとこ、見たことあるよ。」

「イチャついてはいないけど・・・可愛いかなぁ、あれ。」

「モテない男からしたら、何でもイチャついているように見えるよ。
しかもあんな子と付き合っておいて、可愛いと思ってない?」

「いやぁ、どうだろ・・・
まぁ普通かなぁとは思うけど。」

「いやいや!!可愛いって!!
あんな純真無垢そうな、何も知らない可愛い女の子にアキさんは色々教えてるんですね!?」

「ははは・・・」

大畑は普段は田中のような落ち着いた感じのある子だが、
テンションが高くなると海道みたいだな・・・
こういうタイプは疲れる・・・

しかし綾音が純真無垢、ねぇ・・・
見た目が幼いし、そういう風に見えるのかもしれんが・・・
あいつはそんな子じゃない。
中学生の頃から年上の男と犯っているような女だぞ?
まぁそんなことを大畑に教えるつもりはないが。
なんか綾音を純真無垢と言われたことに対して心が痛んだ。
純真無垢で、何も知らない女だったらどれだけ幸せか・・・

今更気にしても・・・と言われるかもしれないが、
やっぱりオレは未だに気にしていたんだ。

いつかは気にしなくなるとは思っていはいたんだが、
やっぱり・・・

でもなるべく気にしないようにして、綾音と接している。
綾音は気付いているだろうか?
未だに拘るこのオレを・・・
こんな男だと知ったらどう思うのだろう・・・





「叶野君、今日1時間だけフロアやってくれない?」

「は?いやいや、オレ接客なんかやったことないすよ?」

「お願い!!今日一人遅れて来るらしく、フロア誰もいないのよ・・・
キッチンは何とか大丈夫そうだし、お願い!!」

「そんな・・・」

「大丈夫、僕がサポートするし、キミは注文だけ取ってくれればいいから。」

「はぁ。わかりました・・・」

今日は土曜日。
今日は午前11時出勤のキッチンのはずだったのだが・・・

「制服もなんとか着れるね。よし、行こうか。」

出勤した途端、オレはいきなり店長にフロアを頼まれてしまった。
結局断れ切れず、オレは1時間だけ店長とフロアをやることになったのだ。

「叶野さん、なかなか似合ってるんじゃないすかぁ?」

袴田がオレを見ながらニヤニヤする。

「そうか?正直接客なんて自信無いんだけどな・・・」

「フロアをやると容姿が上がるんですよね?」

「そらゲームの中だけだ・・・
オレがいない間、潰れたりするなよ?」

「まだこの時間だったら大丈夫ですって。
でもピークになったらちゃんとキッチンに戻るんですよね?」

「1時間だけだからな。ピークになったら戻るよ。
んじゃオレ行くから。」

「あい。頑張って下さい〜。」

はぁ、憂鬱だ・・・

「そんな緊張しなくていいよ。
お客さんの注文を、このハンディで入力するだけだから。」

「はぁ・・・」

ピンポーン

「あ、25番のお客さんがお呼びだよ。
僕はレジやるからお願い。」

「うぃっす・・・」

25番って言ったてなぁ・・・
テーブルの横に張ってある番号を確認しながら25番を探す。

「ったく、あの部長なんとかならないのかねぇ。
ちょっと遅刻したくらいでうるさいしさぁ。」

「それは美香が悪いよ。怒られるのも無理ないかな。」

「優はあたしの味方じゃないのね・・・
前日合コンがあってさぁ、飲みすぎちゃってたのよ。
頭がすごい痛くて朝起きれなくてね・・・」

「仕事がある前日は止めたほうがいいよ、飲むのは・・・」

「そうなんだけどさぁ・・・」

あぁ、オレの苦手な女かよ・・・
しかも二人も・・・
嫌だなぁ、せめて男ならこんな緊張しないと思うんだけどなぁ・・・
でも仕事はちゃんとやらないといけないしなぁ・・・

「えっと・・・
ご注文はお決まりでしょうか?」

「あ、あたしはこれね。
本日のランチ。優は?」

「あ、うん。あたしも同じ・・・?」

「はい、ランチがお二つ、っと・・・あ!?」

まさかこんなことが・・・
なんでこいつがここに・・・

「彰・・・?」

「あ・・・ゆ、う?」

「え?なに?
優、この店員さん知り合い?」

「あ、うん。後輩・・・かな?」

「へ〜そうなんだ。」

「ひさしぶり・・・だね、彰。」

「あ・・・うん。ひさしぶり・・・」

「2年ぶり、かな?」

「そう・・・だね、たぶん。」

気まずい雰囲気・・・
早く、早く抜け出したい・・・早く・・・

「ご注文はランチお二つでよろしかったでしょうか?」

「いいよ〜。
優もいいよねランチで。」

「うん。いいよ。」

「それでは・・・」

オレはそそくさとその場を後にする。

なんで・・・
なんで今更あいつと、こんなとこで会うんだよ・・・


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