第二十六話
高校生としての最後の日



「ふ〜ん。叶野っち達はヨリ戻ったんだね。」

「ああ。」

いつものように、新美を家まで送り届ける途中にある、
公園のベンチでお互いのことを話していた。

「オマエも結局、山神さんと仲直りしたんだな。」

「うん。叶野っちの言う通り、ちゃんと話して仲直りしたよ。」

「そうか。お互い、良い結果になったんだな。」

「そうだね。てかさ、風邪もう大丈夫なの?
バレンタインの日のときのやつ。治った?」

「ん?ああ、治ったよ。
やっぱあの夜、身体を動かしたのが良かったのかも・・・」

「うわ、下ネタかよ!!
叶野っち、キモ〜イ・・・」

「男は誰だってスケベだ!!」

「はいはい。叶野っちも綾と仲良くなって良かったね。
でも、だから少し気になるんだよね。」

「ん?」

「綾とまた付き合うことになったのに、
あたしと一緒に帰ったりして大丈夫なの・・・?」

「あ〜・・・」

正直、少し罪悪感はある。
オレは桜井、じゃなく綾音とちゃんと付き合うことになったわけだが、未だに新美を家まで送っている。

「バレなきゃ・・・大丈夫。」

「ヤバそうだったら、構わないからね?」

「おう。」

新美には恩を感じてるわけだし、これくらいしてやりたいとは思う。
綾音にフラれ、落ち込んでいたオレを励ましてくれたんだしね。

「そいや、そろそろ叶野っち達高校生は卒業なんだね。」

「ああ。オレと綾音は明日卒業式だよ。
正直高校なんてつまらないって思ってたけど、
終わりが近づくと名残惜しいもんだね。」

「学校では楽しい青春生活エンジョイした?」

「いや、全然。
モテないし、学校で女の子と喋った記憶が無いしなぁ・・・」

「モテなかったんだ。
寂しい青春時代だったんだねぇ・・・」

「笑うなよ・・・
やっぱモテるにはそれなりの顔が無いといけないわけさ。」

「叶野っちはもっと積極的になればいけるんじゃない?」

「そうかぁ?
でもさ、もう高校生活は終わるけど、
他の連中見て羨ましいなぁって思うものがあるわけよ。」

「なになに?」

「オレの彼女はバイト同じだけど、学校は違うわけじゃん?」

「だね。」

「同じ学校同士で付き合うと、一緒に登下校したり、
帰り道で買い物とか、何か食べたりとか出来るじゃん?
それが羨ましいと思うわけさ。今更だけど。」

「あ〜。それわかるかな、それ。
あたしの中学時代の彼氏は同中だったけど、楽しいよね。」

「そういうのが出来なかったのが心残りといっちゃ心残りだね。」

「でも叶野っちと綾、専門学校に行くとき一緒の電車で行くんでしょ?」

「電車が途中まで一緒だからね。
駅で待ち合わせして一緒に行くことになったよ。」

「あたしは中卒だし、なんか羨ましいなぁ・・・」

「オマエはどうするのさ?
このままガーデンでバイト続けるの?」

「う〜ん・・・
正直悩んでる。いつまでもフリーターじゃいけないかなって。」

「今は不景気みたいだし、なかなか中卒じゃ厳しいんじゃないか?」

「そうだね・・・
色々探してるけど、まだしばらくはガーデンかな。」

新美は中卒でフリーターだが、考え方はしっかりしているようで・・・
同じフリーターの高野とは偉い違いだ。
バイトで稼いだ金で車やブランド物買って、
彼女の天野と遊んでばっかの能天気なバカだしな、あいつは。
ホント同じフリーターでも、ここまで違うのも驚きだよ。

「オマエはちゃんと考えてるし、たぶん何とかなるだろ。」

「ありがと。
さ、寒くなってきたしそろそろ帰ろっか。」

「ああ。オレも明日は高校最後の日だからな。
寝坊しないようにしないと。」

オレは例え平日でも、ほとんど朝までエロゲーをやることもあり、
よく朝起きれず学校を休むこともたまぁにある。
今日はさすがに朝までエロゲーやるつもりはないが、なるべく早く寝ようと思う。
最後の日に寝坊して休むのもね・・・
最後くらいはちゃんとしないとな。

「送ってくれてありがとね。」

「いいよ、気にするな。」

「それじゃあね、ばいば〜い。」

「あいよ、じゃあな。」

・・・・・

あ、綾音にメールしなきゃな。
オレと綾音は毎晩メールをしているが、メールが遅くなると変に疑われるときがある。
オレのこのツラで浮気なんか有り得ねぇっつうの。
新美を家まで送って行くのは浮気じゃない。たぶん・・・
綾音はたぶん、結構嫉妬する性格なのだろうか?
オレも嫉妬する方だが、お互い様か。

むしろ嫉妬されることに対して、幸せを感じる自分がいる。
新美の彼氏のように、まったく嫉妬されないのはやっぱり嫌だね。
恋人というのは、相手を信じているから嫉妬しないというのはおかしい。
例え信じていても、好きだからこそ嫉妬はするものだと、オレは思う。

「寒っ・・・」

三月上旬とはいえ、まだまだ寒いな・・・
また風邪を引く前にさっさと帰るか。





「卒業生の皆さん。ご卒業、おめでとうございます。」

て、それだけで良いんだよ、校長の話なんてよ。
卒業式くらい短く喋れないのかよ・・・
嫌だねぇ年寄りは。自分の話を押し付けるのがお好きなようで・・・

卒業式は体育館で行うのが相場だ。
3月といえ、まだ寒い。
なのにこの寒い中、とにかく校長の話というのは長くて辛い。
周りを見ると、結構みんな寒がっているじゃん・・・
夏場なんて、炎天下の中運動場で長い話だもんな。
拷問だろ、これ。ったく、空気嫁。
ま、年寄りの長い話を聞くのも今日が最後だけどね。

体育館での卒業式が終わると、あとは各自教室で担任と最後のホームルームがある。
卒業式で泣く奴なんてあんまりいなかったけど、担任のときは泣く奴は結構いた。
オレは泣かなかったけどね。

でも、これでこの学校や、クラスの連中とはお別れなんだな・・・
オレみたいな人間は、結局最後までクラスに馴染めなかったけど、多少は寂しい気持ちはある。
てか、田中と石井以外、まともに喋ったことないけどねオレ・・・
女子に至っては喋った記憶無いし。

女に制服のボタンをねだられる男もいれば、
オレみたいに誰からもボタンをねだられない男もいる。
あの男なんて、袖のボタンまでかよ・・・
そうたいして顔が良い訳でもなにのにな。いや、オレが言えたことじゃないけどさ・・・
でも、せめてオレにも誰かが来て欲しいもんだな。
ボタンALL生存した状態で家に帰還するのも寂しいもんだぜ・・・

「よぉ、叶野。
ついに卒業するわけだが、オマエは専門行くんだよな。」

「ああ。
オマエと田中は大学だったよな。」

「だな。
これで高校生活が終わったとなると、寂しいもんだよな。」

「オマエ、結局高校卒業するまで童貞だったよな。」

「うるせぇよ。
ったく、オマエも田中も良いよな。彼女がいてよ。」

「石井も大学で頑張りなよ。
叶野も出来たんだから、出来るよ。たぶん・・・」

「オマエ等、もしかしてオレをバカにしてる?」

「おい田中、今のはオレもバカにしただろ・・・」

「ははは。なんだかんだあったけどさ、やっぱ楽しかったよ。
オレ等バラバラになるけどさ、ちゃんと連絡し合おうな。
ちゃんと連絡しろよ?叶野も石井も。」

「ああ。オレはまだ叶野に女の子紹介してもらっていないしな。」

「まだ諦めてなかったんだな、オマエは・・・」

「当たり前だ!!オマエ等ばかり幸せになりやがってよぉ・・・」

例え、オレみたいな人間でも、
学校で女と喋ることが無くても、こいつらのおかげで楽しかった。
こんなにこいつ等と仲良くやっていたのに、専門学校行ったらもう一緒じゃないんだな・・・
次はちゃんと仲良くなれる奴がいるだろうか?
色々不安はあるが、今はこいつらとの会話を楽しもう。
二度と会うことは無いって訳じゃないと思うが、これが高校生活最後の日なんだし。

「じゃあね、叶野、石井。
叶野は彼女と仲良くね。石井は・・・頑張って。」

「うぉい!!ったく・・・
じゃあな、オマエ等も元気でやれよ。」

「おう。じゃあな。」

オレ達三人は別々の学校へ・・・
でもまた会える。
結局最後まで学校以外で遊ぶことは無かったけど、
いつかは遊んだりしたいかな。

ま、いいや。
今日綾音も卒業式だし、向こうも終わる頃だろう。
今日はお互いバイト休みだし、二人で遊びに行く予定だ。
お互い制服を着たままで。
お互い制服着てのデートだなんて、いかにも高校生カップルって感じで良くないか?
今までそんなこと無かったし、高校最後の日くらい、そういうのを経験してみたかったし。

「あ、彰・・・卒業おめでとう!!」

「ああ、綾音も卒業おめでと。」

「今日でお互い高校生終わっちゃったね・・・」

「だから今日は最後の高校生としてのデートだよ。」

「うん。なんか寂しいけどね。」

「じゃ、行こっか。」

「うん!!」

思い返せば、高校三年間色々あった。
高校一年生の春、初めて女性と付き合い、
初めてエッチをし、でもエロゲーやAVのようにうまく出来なくて失敗ばかりで自分が嫌になった・・・
そして初めての別れ・・・

ガーデンで綾音との出会い・・・

本当に色々あった・・・

三年間、嫌なこともあった。
でも良いこともあった。
ほんの少しだけだが青春もあった。

まるでエロゲーのような恋愛・・・
一度別れ、そしてもう一度付き合う・・・
そう、PureキャロットのようなED・・・
リアルで自分がこんなEDを迎えるとは思ってもみなかった。

いや・・・
ゲームはEDが来ればそれでお仕舞いだ。
だがオレはまだ自分のEDを迎えていない。
これからなんだよ、オレと綾音は。

オレはこんなにも綾音が好きだし、綾音もオレを好きでいてくれる。
オレは今すごく幸せなんだ。

これからも色々辛いこともあると思う。
綾音が処女じゃないことを、たぶんこれからも悩み続けるかもしれない。
でもいつかはそれを乗り越えて・・・
専門学校を卒業して、就職して、稼げるようになったら・・・
って、これはいくらなんでも気が早すぎだな。

今日はお互い最後の高校生としてのデート、
目一杯楽しもう。


次へ

前へ

戻る