第二十二話
失恋・新美の場合



「あ〜、だりぃ・・・」

オレは布団の中に入りながら、エロゲーをプレイしている。
わざわざ机の上のPCをベッドすぐ横に移動させてだ。
桜井との件が吹っ切れた今はエロゲーが楽しく感じる。
これも新美のおかげなのだが・・・

「げほっ、げほぅ!!」

あれ以来、新美と一緒に帰ることが多くなり、
毎度のように冷える夜の公園での愚痴り合い。
そりゃ風邪も引きますがな・・・

『ほらチョコよ!!どうせ誰からも貰えないだろうから、あげるわよ!!』

「おおっと、こりゃ香織ルート確定か!?」

風邪引いててもエロゲーをやるオレもオレだよな。
だって新作買ったばっかだし、風邪引いたからってやらない訳にはいかんよ。

『か、勘違いしないでよね!!
あなたのことなんて何とも思っていないんだから!!』

ツンデレな女の子も萌えだよな・・・
ツンツンしてても主人公を一途に思うところが・・・
最近のオレのツボだっ!!

・・・てか、そういや今日て2月14日、バレンタインだったんだな。
風邪引いてしまったので学校は休んだ。幸いバイトは元々休みだけど。
まぁバレンタインだっていっても、誰からも貰えるわけじゃないし。
こんなゲームのように可愛い子から貰えたら、どんなに幸せなことか・・・
技術が進歩して、いつかゲームの中に入れるようなことが出来るならどれだけ幸せなことか・・・
誰かそういうこと研究しろよ。世のモテない男のためにさ・・・

「ふー」

やはり風邪だしな、布団の中に入ってるとはいえ、
さすがにゲームは疲れる・・・少し休むか。

オレはパソコンそのままの状態で、仰向けになる。
しかし、よく考えてみれば、オレ新美と一緒にいすぎだろ。
この前も二人で回転寿司食べに行ったし。
桜井の件で励ましてもらった礼にと思って、誘ってみたんだが・・・
メールや電話もよくするよな。
桜井と別れてから鳴らなかった携帯が、新美のおかげで頻繁に鳴るようになった。

しかしこれだけ新見と一緒に行動しても、彼氏の山神は何も言わないらしい。
普通ならキレそうなもんだと思うが・・・

新美もやはり、嫉妬しない彼氏に不満があるみたいだ。
だからなのか?オレとよく一緒に行動するのは?
山神に嫉妬させたいとか、そういう考えなのか?
山神は、オレなら新美に好かれることは無いと安心しているのか?
でも嫉妬するだろ、普通・・・

オレもアレだな。
女の子とこれだけ接してるのにもかかわらず、
新美には恋愛感情なんて沸かないのが不思議だ。
いや、確かに可愛いといえば可愛い方かもしれないし、
元不良で今は更正したっていうのもオレ的なツボかもしれない。
でもなぁ、なんでだろ。不思議だ・・・
彼氏がいるから?処女じゃないから?妹みたいな感じだから?

二次元では妹萌えでも、
リアルの妹には欲情しないっていうのはこんな感じなのだろうか?
本当に不思議なもんだな・・・

熱が上がったのかな、眠気が・・・
身体を仰向きから横向きにすると、ある物が目に入った。

「うはっ」

桜井から借りた小説だった。
やっば、返すの完全に忘れてた・・・
今の桜井との状態じゃ、かなり返し辛い・・・
果たしてどうするべきか・・・

「・・・・・」

そうだ!!
新美から返してもらおう。
うん、それが一番だ。
なんで新美が持ってる?みたいな話になるかもだが、
オレから頼まれたって言ってもらえばいいし。
オレと新美が仲良くしてても、桜井には関係ないしな。
よし、そうしよう。解決!!

でもオレから返して、それをキッカケに・・・

いやいや、もう桜井とは何も進展しようがない。
オレは諦めたんだ。もう桜井はオレを好きじゃない。
だから桜井とはあれっきりなんだ。

まぁ多少未練はあるけどね・・・

借りた小説は解決したことだし、寝るか・・・

「・・・・・」

ブー、ブー、ブー・・・

「・・・何よ。」

マナーモードにしていた携帯が震える。
バイブが短いからメールが来たのか・・・
圭介か?今日は風邪だから遊べんぞ。

しかしメールを見ると、送信者は新美だった。
今の時間は17時ちょい。この時間帯は珍しいな。
彼氏と遊んでいるか、バイトのはずだが?

オレはメールを開く。

『今、叶野っちの家の近くの○○公園にいるから来て。』

・・・

なんか様子が変か?
いやいや、オレ風邪だから無理よ・・・
こんな寒い日に外出たら、余計悪化するっつうの。
しかも”叶野っち”じゃなくて”お兄ちゃん”だろ、そこは!!
よく考えてみれば、お兄ちゃんなんてあれ以来呼んでもらってないけど・・・

そんなこと考えてる場合じゃなくて、メールを返すか。

『今日オレ風邪引いてて、ちょっと外出るのは無理ぽいす。』

メールを送信してすぐに返事が来る。

『待ってるから。』

・・・・・

「うぉい!!」

風邪だって送ったじゃん・・・
何か様子が変だから、行ってあげたい気持ちはあるけど・・・
いや、でもここは行ってあげた方がいいのか・・・
女の子からこんな内容の返事が来たら、行かざるを得ないだろ。
女ってずるい・・・

くしゃくしゃになっている髪を最低限整え、着替える。
なるべく暖かい格好していこ・・・
ゲームだと、この状況はフラグ成立しているんだろうけど、
相手は新美だし、オレ風邪だし・・・
新美とのフラグなんてある訳が無い。

なるべく用を早く済ませ休みたいため、公園へ急ぐ。
急ぐって行っても、○○公園は家から歩いて5分もしない場所にある。
それでも風邪のオレにはキツイことに変わりはないが・・・

公園に着き、辺りを見渡すと・・・
いた、新美が。

「あっ・・・」

いつもの元気はなく、
何故か大きな黄色の熊のぬいぐるみを抱えていた。
ま、まったく状況が読めん・・・

「一体どうしたんだ。」

「・・・・・」

オレの鼻声の問いに答えず俯く。
おいおい、これは新美もまさかまさかなのか?

「黙ってちゃわからんよ。何かあったのか?」

しばしの沈黙の後、

「彼氏と別れちゃった・・・」

「は?」

やはりそういうことなのか。
じゃあこの黄色い熊のぬいぐるみは何だ?

「何でまた・・・
それなりに仲良かったじゃん。オマエ等って。」

「今日バレンタインだったじゃん・・・」

「え?あ、うん。」

「だから二人で車で遠くへドライブしたんだけど・・・」

出たよ、車。
山神や高野は、親から買ってもらった車で女をよく連れまわしている。
親の金での車でドライブって・・・
情けない、カッコワル過ぎだろ。
所詮、女が選ぶ男のステータスってのは顔、車、金だしな。
新美も桜井もそういう部類だってのは前々から知ってたけど。
それでも新美には恩があるし、とりあえず話を聞いてあげないとな。
てか山神て大学生だろ。デートで学校サボったてことか?
まったくいいご身分だことですね。

「それでね、こっちに帰って来る途中に喧嘩して別れちゃった・・・」

また突然だな。
まぁオレもそうだったし、別れなんていつでも突然だよな。

「一体何が原因で?」

「原因は彼の態度っていうか・・・
ほら、あたし最近叶野っちとよく一緒に帰ったりするじゃん?」

「だね。」

あぁ、もう察しが付いたぞ。

「彼それ知ってるくせに、一切何にも触れないから・・・
だからあたしから聞いてみたんだよ。何で妬かないの?って。」

「・・・そしたら?」

「オレはオマエを信用してるから、って・・・
何かそれって違うと思って・・・」

「・・・・・」

「だからあたしは、妬かないってことは好きじゃないってことじゃん!!
って怒っちゃって・・・それでも向こうは怒らず、何で怒るの?って・・・」

「彼があたしのこと好きか分からなくて・・・
好きじゃないなら別れるって言って、車から出ちゃった。
バレンタインのチョコだってまだ渡してないのに・・・」

なんか・・・

こう言っちゃダメなんだろうけど、アホくさ・・・
メルヘンもメルヘン過ぎだろ。
妬いてもらいたい気持ちは分かるけど、正直別れるほどのことでも・・・
そんなん、ちょっと言って喧嘩して、仲直りして、それでお終いじゃないの?

「ちょっと一方的すぎるぞ。
オマエはまだ彼が好きなんだろ?」

「うん・・・」

「山神、さんだっていきなりすぎる出来事だと思うし、
オマエのことを好きじゃないなんてことは無いと思うよ。
ヘタに嫉妬して文句言ったら新美に嫌われるかもしれない、って思ってるかもだし。
だからちゃんと話してみなよ。いきなりキレるんじゃなくて。
話して二人で変わっていこうな雰囲気になって、うまくいくかもしれないじゃん。」

「そうかもしれない・・・」

口ではオレはまともっぽいこと言ってるかもしれないが、
内心では、下らない失恋話をさっさと終わらして帰りたいと思っている。
だって風邪だし、クソ寒いし・・・
新美には悪いけど、ちょっとあまりにも、ね・・・

「・・・なんか叶野っちに相談して、楽になったよ。
やっぱり、もう一度ちゃんと彼と話してみる。」

「そうだな。それがいいよ。
オマエはオレと違って、まだやり直せるから。」

「そうだね・・・あたし頑張るよ!!」

ま、とりあえず少しは元気出た・・・のかな?
さっさと帰りたい気持ちはあるんだが、さっきから気になっていることを聞いてみようか。
ここで帰ってしまったら、気になり過ぎて寝れん・・・

「さっきから気になってたんだけど、そのぬいぐるみ何?」

「あ、これは向こうに行ったときに彼に買ってもらっちゃった。」

「今持ってるってことは、
別れるって言って車から出るとき、持って出ちゃったんだな。」

「車から出てしばらく歩いてから気付いたよ、それ〜。
なんかあたしの事見てくる人多いな〜って。」

新美は笑いながら言う。
そんなぬいぐるみを抱いてここまで来たのか・・・
目立ちまくりだろ、そりゃ。

「変なの・・・面白いけど。
さ、もう大丈夫そうだよな。」

「うん。風邪なのに、ホントごめんね?」

「いいよ、気にするな。」

最初は風邪なんだから呼ぶなよと思ったけど、
あのままオレが断ったらと思うと・・・
内容はともかく、失恋は失恋だしな。
オレのおかげで元気が出たなら良かったよ。
なんだかんだ言って、女の子を元気にさせるのは気分が良いな。
とにかくこれで解決したし、やっと家に帰れる・・・

「あ・・・
ごめん、最後のお願いがあるんだけど良いかな?」

「え、なに?」

「ずっと公園にいて寒くてさ・・・
おしっこしたくなっちゃった。」

「は?」

「だから叶野っちの家のトイレ貸してよ。」

「いやいや、そこにトイレあるがな。」

「だって公園のトイレって汚いじゃん?
ごめんお願い!!ほんともう限界かも・・・」

彼氏でない男の前でおしっこって・・・
恥じらいというものが無いのかね、この子は。
しかもトイレ貸して、か。
オレが男として見られてないってことか?
桜井といい、新美といい、好きでもない男の家に一人で行くだなんて・・・

「別にいいけど。」

「ありがと!!じゃあ早く行こ。」

OKするオレもオレだな・・・
まぁ相手は新美だし、こいつとは間違いなんて絶対無いけどね。
あ、でも小説返すの頼めるし、丁度良いかな。


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