第二十一話
吹っ切れて



「ふぅん、あたしが知らない間にそんなことがあったんだね。」

オレと桜井の事情は、話せばそれなりに長くなる。
新美を家に送るまでの時間じゃ話尽くせなかった。
そのため、オレ達は新美宅近くの公園のベンチで話すことにした。

「さすがにオレもショックなのさ・・・」

「分かるよそれは。
あたしだって前の彼氏にフラれたときとかヘコんだし。
てかアレだよね。」

「ん?」

「綾も綾で、元彼の目の前で
他の男と仲良くするのも酷いと思うよ?」

「そりゃそうだろ。ありゃないよ、マジで。」

新美は不思議なもんで、
オレの今の心情に共感してくれるし、親身になって相談に乗ってくれる。

「叶野っちもさ、そんな子じゃなく、もっと良い子捜しなよ。
いつまでも引きずってちゃいけないよ。」

「もっと良い子、ね・・・
なんかこんな失恋したら、もう彼女はいいかなって思うかな。」

三次元の女は、ってことだけどね。
二次元は全然OKだけど、新美にそれを話したら引くよな。さすがに。
一応バイト先ではオタクっての内緒だし。

「やっぱ、しばらくはそうだよね・・・
あたしも前の彼氏と別れて、雄介と付き合うまではそうだったし。」

「あの、さ。
気になってたんだけど、やっぱ女は年上が良いもんなの?」

「え?」

「いや、桜井も昔は年上とばっか付き合ってたっていうし。
オマエの彼氏も年上じゃん。」

「んー、どうだろ・・・
綾は知らないけど、あたしは別に・・かな。」

「そうなの?」

「うん。
今までの彼氏と全然違うタイプだったし、
何よりすごく優しい人だったから・・・かな。」

「優しい、ね。」

「そう。たまたまその人が年上だったってだけだよ。」

「・・・・・」

たまたま年上、か。
いや、むしろ相手が年上だからこそ、その人の中身に惹かれたんだろう?
女は年上に憧れる生き物だし。

だってそうだろ?
男は外見じゃなく中身が大事、と言う女はいるが、そんなのは嘘っぱちだ。
ある程度の外見があってこそ、中身に興味を持つものだ。
中身が最高級でも、外見が最低ランクの男は問題外だろう。
最低ランクの外見から、中身に興味を持つことは不可能に等しい。
人の第一印象なんて、結局外見なのだから・・・
だから同じように、年上だからこそ中身に興味を持ったんじゃないか?

「そんな優しいの?山神・・・さんは。」

「すごく、ね。
でも張り合いが無いっていうのかな?
今までの彼氏は喧嘩とかしてたんだけどね。今の彼はまったく・・・」

「喧嘩をしたいの?」

「そういうわけじゃないけど・・・
でもたまには喧嘩も必要だと思うよ?」

「えー・・・そういうもんなのか?」

「お互いの不満を言い合うことって、すごく必要だと思う。
相手の不満を聞いて、自分を見つめ直して、関係が深まることってあるよ。」

「なんか・・・大人の発言だな。」

意外だ・・・
オレより年下の新美が大人に見える・・・
これが恋愛経験の差なのか?

「てか、新美の今までの彼氏ってどんなよ?
山神さんと違うタイプって何?」

「・・・叶野っち、袴田からあたしのこと何か聞いてない?」

「いんや、何も聞いてないけど。何かあるの?」

「んー・・・」

新美は何か言い辛そうだが・・・
何かあるのか?

「あたしって、中学時代ちょっとヤンチャしてて・・・」

「そうなんだ。」

まぁ、どことなく元ヤン的な雰囲気はあったけどね。
いつかバカマダが言いかけたのはこれか。
二人は同じ中学だって言ってたしな。
バカマダはガーデン内で唯一、中学時代の新美を知ってるわけだ。

「だから彼氏もやっぱりそういう系の人ばっかりだったんだよ。」

「あー・・・じゃあ今の彼氏と全然タイプ違うね。
てか、もうそういう不良系は卒業したってこと?新美は。」

「ああいうバカはもう卒業したよ。
あたしお兄ちゃんいてさ・・・三つ上の。」

「まさかお兄ちゃんもそっち系だったとか?」

「うん・・・
お兄ちゃんも当時は結構色々悪しててね、
あたしもそれがカッコよく思えて、中学に入ったら真似してた。」

中学に入ると、デビューする奴多いしな。
そのくらいの年って不良系に憧れるんだよ、男も女も。
何故か不良系の男ってモテるしな。将来性無いのに。
それも若さ故か・・・

「でね、あたしが中学三年の夏頃かな。
お兄ちゃん家を出てったの。」

「家出?」

「よくわからない・・・でもその頃のお兄ちゃん、
ソッチ系の人達と一緒だったとこよく見たから・・・」

「ソッチ系に行ったってこと?」

「たぶん・・・
でね、お母さんすごいショックだったみたいで・・・
それが原因でよくお父さんと喧嘩してた。それからすぐ離婚して・・・」

「・・・・・」

「そんな状態のお母さんを放っておけなくて、あたしはお母さんと一緒に暮らすことにしたんだ。
だからお兄ちゃんみたいにお母さんを心配させちゃいけないなって。
今までやってたようなバカは卒業して、少しでも安心させてあげたらなって思ったの。
バイトで稼いだ金もほとんど家の生活費に出してるし。」

ドラマのようなゲームのような、新美は色々あったんだな・・・
親を心配させないため、不良系は卒業し、お金を家に入れているなんて・・・
この世代の女の子って遊びたい盛りじゃないか。
なのに自分の考えをしっかり持っていて・・・すごい良い子だ。

「なんか新美も色々あったんだな・・・
悪いね、昔のこと聞いちゃって。」

「そんなことないよ。
叶野っちだって、相談してくれたじゃん?
あたしだって愚痴りたいことだってあるのよ〜。」

新美はポケットから何かを取りだす。

「ま、マジメにやってるとはいえ、
これだけはなかなか止められないけどね。」

笑いながら口に咥えたそれは・・・

「煙草じゃん。」

「うん。
昔はカッコいいからって吸い始めたんだけどね。」

火を付け、煙を吸って吐き出す。
煙い・・・

「吸い慣れていくうちに、ニコ中になっちゃったのかな。
叶野っちも吸ってみる?」

新美は自分が吸った煙草をオレに差し出す。

「これオマエが吸ったやつじゃん。
間接キッスだぞ。」

「あたしは気にしないけど、叶野っちは気にする?」

「いんや、別に・・・」

「えー、こんな可愛い子と間接キス出来るのに気にしないのかよ〜」

「どこにそんな子が?」

「ひっど!!」

正直言うと、ちょっと気にしてしまいます。
まぁせっかく勧められたんだし、吸ってみるか。
オレが口付けても新美は気にしないって言うし。

口に咥えて、吸って〜・・・

「〜〜〜〜、・・・っ!!
っごへ、っごほっげほ!!」

むせました・・・

「あはは、初めてだし、やっぱむせるかぁ。
あたしのは結構強いやつだし。」

「よくこんなの吸えるな、オマエ・・・」

「慣れだよ、慣れ。
ご飯の後の煙草は格別だよ。
もし吸うことになるんだったら覚えといた方がいいよ。」

「気が向いたらね。」

オレは煙草を返す。
ホントに新美はオレが口付けた煙草を気にせず咥えた。
てか新美はこんな強い煙草をいつも吸ってるのね・・・

「でもさ、吸うならせめて、もうちょっと弱いのにしたら?
やっぱ身体のこともあるだろ。彼氏も心配するだろうし。」

「あたしの彼氏は何も言わないよ。
だからあたしも遠慮なく吸うけど。
ほんとは彼氏がそういうこと言ってくるべきなんだよね。」

「え?まぁそうなんじゃない?」

「あたしに対して気を遣っているっていうのか、
あたしがワガママ言ったら何でも聞いてくれるのが・・・ね。
今日叶野っちと一緒に帰ること言っても絶対怒らないだろうし。」

「オマエも恋愛で悩んでるのな。」

「それなりに。ほんと張り合いないんだもん。」

今気付いたが、新美、ちょっと身体震えてる?
長い時間公園という場所にいるのは身体が冷えるもんな。
オレも寒いし、新美も寒そうなのでそろそろ帰るかな。
ベンチ近くにある時計を見ると・・・おぉう、もう23時半じゃねぇか!!

「そろそろ帰るか。
オマエの親も心配するだろしな。」

「そうだね、寒くなってきちゃったし。
叶野っちの相談聞くって言ったのに、後半あたしの愚痴でごめんね。」

「全然構わないよ。またそのうちオレの愚痴でも聞いてくれや。
オマエも愚痴りたくなったら、またオレに愚痴ってもいいから。」

「ふふ、なんか叶野っち、ホントのお兄ちゃんみたいだね。」

「へ?」

「こんな悩み聞いてくれるのって、お兄ちゃんぽくない?
あたしのお兄ちゃんは自分勝手だったし。」

「じゃあお兄ちゃんって呼んでみてよ。」

無意識で言ってしまったが、オレはなんてバカ発言してるんだ!!
こんなこと言って、かなりキモくねぇかオレ・・・
しかし新美は・・・

「えー・・・変なの。ま、いいけど。
・・・お兄ちゃん。はい、呼んだよ。」

ぶっほぅあぁ!!

お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん・・・

な、なんて良い響きなんだ・・・
これがオタクが夢見る「お兄ちゃん」という魔法の呪文か!!
・・・まぁ多少グレた妹ではあるが、お兄ちゃんと呼ばれることは悪くはない。
むしろ最高だ!!オレ(*^ー゚)b グッジョブ!!

「何ニヤニヤしてんの?」

「い、いや・・・」

い、言えない・・・
オレがこいつに少しでも萌えを感じてしまっただなんて・・・
まぁよく考えてみたら、妹萌えな世界ってのは一般人知らないしな。
だからオレがあんな発言したのも別におかしくないってことか。
オタク系の人間が見たら、オレすごくキモイんだろうけど・・・

「こんな可愛い妹が出来て嬉しいのかぁ!!
嬉しいんだろー。」

「そんなことないって。」

「じゃあ何でニヤニヤしてんのさ。」

「これは思い出し笑いだ。」

「な訳ないでしょー。
そんな嬉しいなら、これからお兄ちゃんって呼んだげよっかー?」

「む・・・」

そんな夢のような話が・・・

「よし、全力で許可する。」

こんな身近なところにありました。

「ますます面白いね、叶野っ・・・
じゃなくてお兄ちゃんか。」

「おし、じゃあ帰るぞ、出来の悪い妹よ。」

「ひっど!!」

なんか今まで桜井のことでウジウジ悩んでたけど、
新美に愚痴ってスッキリした。
なんか清々しい気分だ・・・

「また、彼氏がいないとき、家まで送ってもらうの頼んでいい?」

「ああ、いいよ。」

本当にありがとう新美・・・
オマエのおかげオレは吹っ切れたよ・・・
家送ってくぐらいで少しでも恩返し出来るならいくらでも。
まぁそんな恥ずかしいこと、口では言えないけどね。

でも本当に感謝してるから・・・
新美、ありがとう・・・


次へ

前へ

戻る