第十九話
懐かしい優しさ



それは、ガーデン近くの公園で桜井から伝えられた・・・
予想通りの結末・・・

全部が全部オレが原因という訳ではないと思うが。
でも、これはオレが招いた結果かもしれない・・・

「叶野君があたしのこと
好きでいてくれるってのは分かるよ・・・」

「うん・・・」

「でもね、あたし・・・
やっぱり合田さんが好きだっていう気持ちもある・・・」

結局・・・

「こんな中途半端な気持ちじゃ、
叶野君と続けていくことは無理だから・・・」

オレのこの捻じ曲がった性格が原因なのか・・・

「だから、終わりに・・・」

合田が好きだからっていう理由も表向きの理由なんだろう。

「こんなあたしのこと、
好きだって言ってくれたの、すごく嬉しかったよ・・・」

本当はオレに幻滅したんだろう?
処女とか、過去に拘る男に・・・

「じゃあ・・ね。」

「オレが原因・・・?」

「え?」

「オレの性格とか、そういうのに幻滅したからじゃないの?」

「確かにそれもあるけど・・・」

「それを改善すれば、どうにかなる?」

正直、自分で自分がカッコ悪い、情けないと思う。
相手は別れる気満々なのに、何でオレは引き止めるような事言ってんだろ・・・
でも、そんな簡単に諦められるわけないじゃないか・・・

「それだけじゃないの・・・」

「そう、か・・・」

しかも断られてるし・・・
何だオレ・・・

「じゃあ・・普通にメールとか、ガーデンでも話したりとか。
友達みたいな、そんな関係は?」

一体オレは何を言ってるんだ。
このまま終わったら、もう二度と桜井と接することも無いだろう。
桜井は好きじゃなくても、オレはまだ桜井が好きなんだよ・・・
それを一方的に別れようだなんて・・・勝手過ぎる・・・
このまま桜井と接することが無くなるなんて嫌だ・・・
付き合っていなくても、桜井と話したい、メールしたい。
未練がましい、情けない男かもしれない。
そして、そこから何かを期待している自分がいる・・・

「いいけど・・・
でも、すぐには無理かもだよ・・・?」

分かってる・・・
どうせそんなこと無理だろうって・・・

「それでもいいよ・・・
普通に接してくれれば・・・」

「分かった・・・」

沈黙・・・
もう別れると決まった以上、これ以上話すことは何も無い・・・

「じゃあ、お母さんに怒られるから行くね?」

「うん・・・」

「それじゃ・・・」

オレは無言で桜井を見送る。



終わった・・・
短い恋だった・・・

はい、終了〜
オレってば終了〜
せっかく付き合った彼女なのに、こんなに早く終了〜

短い間でしたが、応援ありがとうございました。
叶野先生の次回作にご期待下さい。

「・・・・・」

ダメダメだなオレ・・・

やっぱり・・・
所詮オレにはリアルで恋愛なんて無理だったんだよ・・・





「ボクはあの頃から何も変わっていない、
泣き虫の色(しき)のままで・・・」

「色・・・」

「でもボクはお兄ちゃんがずっと好きだった・・・」

初めてやったときは、あれだけ興奮したゲーム、Neitive2をやっても何とも萌えない・・・
双子の妹キャラである千都瀬、色。オレが愛した二次元の妹達・・・
それも今じゃ余計空しくなる・・・

フラれたから、また二次元に戻るだけだと思い、
お気に入りのゲームをプレイしたが、まったく癒されず・・・
嫌なことがあったら、ゲームかオナニーすれば大抵スッキリするのにな。
オナニーもする気にならねぇよ・・・

本当に短い間だったけど、桜井と過ごしたクリスマスイブとか本当に楽しかった。
でもオレは桜井が処女じゃないとか、前の彼氏とか、気にしてしまって・・・
フラれてから後悔・・・

なんでオレはあんなことをメールで言ってしまったのか・・・
もしかしたら、もっと別の結末があったんじゃないか?
自分でその可能性を潰してしまったんじゃないか?
告白して一度はフラれたが、桜井はオレを選んでくれた。
オレの器がもっと大きければ・・・

いや、桜井が男とホイホイ付き合わなければ良かったんだろ。
もっと処女を大切にしないから・・・

そんな過去が無ければオレ達はうまくいったのか?

・・・・・
大好きなゲームをやっても頭は桜井ばかり・・・
本当に桜井が好きなら、処女かどうかなんて些細な問題じゃないか?

いや、違う。
例え、その場はそれで収まっても、付き合いが長くなればなるほど、
必ず非処女という十字架は重くなるだろう。
だったらこれで良かったのだろうか?
これがオレと桜井、お互いのためだったのだろうか?

どれだけ考えてもそんなのわかんねぇよ・・・

なんだろうな・・・
すごく悲しいはずなのに、なんていうか・・・
やる気が無いっていうか、何にも考えたくないっていうか・・・
悲しいっていう感情を、無意識の内に考えないようにしているだけか?
でも、なんか油断したら涙が出そうで・・・
失恋なんてものは時間が癒してくれるとよく言うが、どうなのか?
そりゃ何年もすりゃ癒されるというか忘れるだろうが・・・
オレの傷を癒す方法なんてものは、昔から決まっている。

何かゲームがPCに残ってないか、Windowsメニューのすべてのプログラムを見る。
要領少ねぇから、優先順位付けてお気に度が低いゲームはアンインストールしてるんだよな・・・
たまには違うゲームをやってみようかと思ったが。
昔はイマイチでも、今やれば違った楽しさや萌え、感動があるかもだし。
でも特に無いなぁ・・・

「ん?」

オレはそこで懐かしいものを見つけた。
カタストロフィー・オンライン
オレが高校一年生のときにハマっていたネットゲーだ。
結構昔からあるゲームだが、未だに人気があるらしい。

オレはそれを起動する。
起動すると、長いアップデートが始まる。
そりゃずっとやってなかったからな・・・

時間掛けて育てたキャラが消えるのも勿体無いので、
有料ゲームにも関わらず、未だに料金を払い続けている。
といっても、親のクレジットカードからだけど。
いつでもやれるために、アンインストールしてなかったんだったな・・・
結局やらなかったけどね。

あれだけはまっていたカタストロフィー・・・
にも関わらず、あるキッカケで辞めてしまった。

タイトル画面が表示され、サーバーを選択し、キャラを選択し・・・
あぁ、懐かしいグラフィックとサウンドだ・・・
オレのMyキャラ、八雲、レベル78!!
よくここまでやったもんだよな。

フレンドリストを開く。
うは、全員真っ赤!!誰もINしてねぇし!!
ゲームは続いていても、当時の知り合いはプレイしていないわな・・・
サブでやってて、オレがアド知らないだけかもしれんが。

以前カタストロフィをやっていたときの癖で、
オレは無意識のうちにリスト内にあるユーリというキャラにカーソルを当てていた。

ゲーム内で初めて会話をし、フレンド登録し、一緒にパーティを組み・・・
そして初めて付き合った彼女・・・
ユーリというキャラはあいつの・・・優のキャラだ。

あいつはオレがエロゲーをやっていても軽蔑なんてしなかった。
よく相談にも乗ってくれて、本当に優しかったんだ・・・
だからオレはゲームにも関わらず、ユーリに惹かれつつあった。
リアルの女性に興味は無かったが、ネットゲーというゲームとリアルの中間のような世界・・・
そんな曖昧な世界で出会った女性・・・
年齢もオレの二つ上という近い年齢、住んでる場所も近い。
オレはゲームだけでなく、リアルで彼女に会いたいと思った。

「今度、リアルで会わない?」

オレは勇気を振り絞って、ユーリに聞いた。
いきなりな誘いに断られるかもしれない。
だが意外にもユーリはOKしてくれたのだ。

誘ったはいいが、オレは正直怖かった。
もし本当はネカマだったら?
おばさんだったら?
まったく可愛くなかったら?

ゲームキャラの可愛さ、ゲーム内での優しさ・・・
オレの勝手な理想像・・・
それが壊れるかもしれない。それが怖かった・・・
逆に向こうもリアルのオレを見て幻滅するかもしれない。

ユーリが幻滅しないように、オレはオレなりに
生まれて初めてのオシャレをして頑張ってみた。
一度も行ったことのない今時風の服の店・・・
店内でオレだけ浮いていて、レジに並ぶのも恥ずかしかったな。

普段着るようなしょぼい服の何倍もの値段の服を着、
ロクに整えたことのない髪を自分なりに整え、オレはユーリのリアルと会った。

「えっと・・・八雲、さん?」

「もしかして、ユーリ・・・?」

待ち合わせ場所は決めてあったし、
お互いの服装も予め伝えてあったのですぐ分かった。

「はじめまして・・・でいいよね、こういう場合。
八雲さん、背が高いからすぐ分かったよ。」

「無駄に背デカイからね。」

「そういう人、良いと思うよ。」

ユーリのリアル、咲崎 優。
第一印象は、服装もそうだけど、年齢のわりには地味目だと思った。
でも顔はすごく綺麗だし、こういうの隠れ美人っていうんだっけ?
今時の子のような服装やメイク、髪型にすれば男が寄って来そうな感じだ。

性格はというと、ユーリとまったく変わらなかった。
ネットゲームだと、やっぱりリアルとの違いが出る。
だが優はそんなことはない。初対面のはずなのに、優はユーリと変わりなく接してくれる。
女性とほとんど喋ったことのないオレでも、ユーリと話すような感覚ですんなりと会話出来た。
というか、オレより年上、落ち着いた性格もあり、なんだかオレがリードされているような感じだった。

その日は喫茶店で、普段ゲーム内で話しているような世間話。
でも普段ゲーム内で話しているより全然楽しい・・・
オレは会話中もずっと、ユーリではなく、優という女性に見惚れるだけだった。

それからはしばらくゲームとリアルで優と遊ぶ日が続いた。
5回目の遊ぶ日、オレはついに決心した。

「優、オレとさ・・・付き合うとか、ダメかな?」

ロクに目を合わせられず、かなり弱気な生まれて初めての告白。

「彰とだったら、いいよ。」

意外とあっさりと返事が返って来た。
そしてそのときの微妙に照れているような、すごく眩しくて・・・
優しく優は微笑んでいた・・・

こうしてオレに初彼女が出来た訳だ。

付き合ってしばらくして、お互い初めてのエッチ・・・
何回も失敗するオレ・・・
だけど、優しく気にしないと言う優・・・
いつも心地良い優の優しさが残酷に思えた・・・
オレにはどうしてもそれが耐えられなかった。
だからオレから別れを告げる・・・

本当はずっと一緒にいたかった。
でもこのままじゃ絶対に優と続けていくことは出来ない。
別れるという結末がお互いのためかと思った。
桜井と同じ、勝手な考えだよな・・・

優のことを思い出したら、余計悲しくなってきた・・・
今になって桜井にフラれた悲しみが・・・

今のオレは誰かに優しくされたい、慰められたい、そんな気持ちで一杯だ。
あの優の優しさが懐かしい・・・

桜井との楽しかった時間、優の優しさ・・・
思い出すと、オレの目から大粒の涙がこぼれた・・・


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