第十七話
桜井の過去



オレは今、ベッドの上で桜井から借りた小説を読んでいる。

借りた小説というのは、中高生の女に人気がある一時期ブームになった恋愛小説である。
何でこんなのを借りてまで読んでいたかというと、
巷じゃ結構酷い内容だと言われていたってのもあるし、
何より桜井が読んでいたからってのもあったので興味があった。
しかし、レビュー通りの酷い内容だな、こりゃ・・・
ある程度読んだが、正直胸糞悪くなるし、つまらん。

中高生の女が好む小説って何でこんなのなんだろうな。
不良、セックス、援交、妊娠、中絶、レイプ、病死、事故死・・・
大抵この要素がいくつか入っていれば女は飛びつく。
オレが借りた小説の内容もそんな感じだ。
悲劇のヒロインのお涙頂戴物語・・・
大体こんなの読むから、中高生のバカな女は影響を受け、
早くセックスを経験したいとか焦るんじゃないのか?
まさにビッチになる原因だろ、こんなの。

エロゲー規制うんぬんの前に、こういうものを規制するべきだろと。
エロゲーはちゃんと年齢制限あるっていうのに、
過激な内容の少女漫画や、こういう小説は年齢制限無いしな。
小中学生、高校生がこんな過激なのをお手軽に買えるってのがおかしい。
いや、まぁオレが言うのも何なんだけどね・・・

まったく・・・オレには合わねぇな、こりゃ。
エロゲーの方が何倍もシナリオ良いし感動するよ。
エロゲーの感動も作品によってだけどな。
期待させといて、いざやってみると地雷ってのも今まで結構あったし。
まぁ小説やゲームにしろ、人それぞれってことなんだろうな。
男と女じゃ感じ方も違うだろうし。

てか、呑気に小説読んでる場合じゃないだろ、オレ・・・

今日はバイト後、桜井を早めに家に帰した。
昨日あんな母親に怒られているところを見てしまったしね。
オレは帰宅後、借りた小説を読んでるって訳だ。
だが今日はこんなことしてる場合じゃなくて・・・

オレは携帯を取る。

そう、今日オレは桜井の過去を聞きだすことにした。
これから桜井と付き合っていくんだし、もっと桜井のことを知りたい。
知って、聞かなきゃよかったと後悔するかもしれない。
でも・・・それでも聞きたい。

小説を読んでいる間も、桜井とはメールはしていた。
丁度会話のキリがいいし、聞くなら今だな。
さて、なんて切り出そうか・・・

『あのさ、すごい聞き辛いんだけど、桜井に聞きたいことがある。』

出だしはこんなもんか。
オレは桜井にメールを送信する。

返事はすぐに来た。

『ん、何かな?』

どうやって聞くか・・・
変に遠まわしに聞くっていうのも面倒くさいし。
かといってストレートに聞くのも・・・

「・・・・・」

やっぱりストレートに聞こう。
オレは何となくそれが良いと思った。

『桜井ってさ、今まで何人と付き合ったことあるの?』

ストレートすぎる・・・
この親指に少し力を込めれば、このメールが桜井に送信される。
果たしてこのメールを送って大丈夫か迷った。
もしこれで桜井の過去が想像以上だったら?
この関係が崩れる?
崩れはしないと思うが、オレの桜井に対する気持ちが変わるかもしれない・・・
さっきまでは知りたいと思っていたが、いざメールを送ろうとすると躊躇してしまう。

悩んでもしょうがないだろ、オレ・・・
オレは大きく息を吸い込み、吐き出すと同時に送信ボタンを押す。

「送ってしまった・・・」

送ってしまってから、凄まじい後悔感が・・・
桜井からの返事が来るまで、オレは心臓をバクバクさせながら携帯を見つめる。
返事が来ない・・・時間が凄まじく長く感じる・・・
嫌な間だ・・・

今頃、桜井はオレのことを小さい男だと思っているのだろうか?
彼女の過去を気にする男はダメなのか?
好きだからこそ、相手の過去が気になるのではないのか?
これはオレだけか?
いや、表には出さなくても、誰しもが気になるはずだ。
だが中には聞けない人もいるだろう。
それは、ここまで続けてきた関係を壊したくないという気持ちがあるからだ。
過去を知って関係が終わるなら、所詮それまでの仲。本気じゃ無かったってことだ。
自分では本気だと思っていても、心の根底ではわからない。
過去を知って自分が本気じゃないと気付けたなら、それはそれで良いだろう。
相手と無駄な時間を過ごす前に気付けたのだから・・・

オレの携帯が鳴る。
桜井からの返事が来たんだ。

携帯を開くと『桜井様から着信メールです』という画面が表示された。
ここで決定ボタンを押すと、新着メール内容が表示される。
だがオレは決定ボタンをなかなか押せなかった。
メールを見るのが怖い・・・
かといって、見ないわけにはいかんだろ。
あ〜、なんでオレこんなこと聞いたんだろ・・・
送って後悔、返事が来て後悔、後悔してばっかじゃねぇかオレ・・・

ふぅぅぅぅぅぅ・・・

・・・よし、見るぞ!!
桜井がちゃんと返事してくれたんだ。

オレは決定ボタンを押す。
だが、一目見た感じ、予想と違いメールの文は短かった。
なんでこんなに短いのかと思い、しっかりメールを読んでみる。

『何でそんなこと聞くの?』

あれ、質問に質問で返してきたのか・・・
しかも何で聞くのってか?
『そりゃオレが桜井の彼氏だから。
気になるに決まってんじゃん。』

オレは返事を送信する。

あれだけ緊張して質問したのに、
まったく検討違いの答えが返ってきたものだから、拍子抜けしてしまった。
なのでこのオレの返信は何のためらいもなく送信出来た。
次はちゃんと答えてくれるんだろ?桜井・・・

桜井からの返事は割と早く来た。
いや、緊張していない今、早く感じるだけか?
オレは何のためらいもなく受信メールを開く。

今思えば、今までの桜井の態度でそれっぽいのは感じていたさ。
だからある程度の覚悟はしていた・・・つもりだった。
だけど、ここまでのものなのか?
これじゃあまりにも・・・

『10人・・・』

ただ短い、それだけのメールだ。
短い文なのに、それはオレに凄まじいショックを与えるのに十分だった。

「は・・・?」

桜井はオレと同じ高校三年生、しかも来年の春には卒業する。
オレの付き合った人数は桜井を含め2人・・・
桜井はその5倍の10人。オレと桜井のこの差は一体何だ?
今時の女はそういうものなのか?
一体いつ彼氏が出来て、処女を喪失したんだよ!!

『初めて付き合ったのはいつなのさ?』

オレはメールを送る。
ここからオレと桜井のメールのペースが上がる。

『せっかくのクリスマスなんだよ・・・
何でそんなこと聞くの?』

『いいから!今の彼氏として気になるんだよ!』

『中学二年生・・・』

『初めての彼氏の歳は?
そのときにエッチを経』

メールを打つ指を止める。
ここで処女を喪失したかどうか・・・それを聞くか迷った。
ここまで来たら、聞きだせることは全て聞きたい。
だからオレはメールを打つのを再開する。

『初めての彼氏の歳は?
そのときにエッチを経験したの?』

そのメールを送って、返事が来たのは30分後だった・・・

『22歳・・・そのときに経験したよ。
てか、何でそんな昔のことが気になるの!?
今あたしは叶野君の彼女だし、昔なんて関係ないじゃん!!』

22歳、年上・・・
しかも中学二年生っていったら14歳か?
14歳が22歳と付き合う?
意味がわからない。
それって援助交際?
相手はロリコン?

今の時代、小中学生がエッチをすることなんて珍しくないだろう。
援助交際で処女を喪失させるバカな女もいるだろう。
援助交際ではなくても、歳が離れていて本気の恋愛だと勘違いする女もいるだろう。
そんな若い歳で本気も何も分かるわけないし、年上からしたら良いカモでしかない。
そんな年下の女と遊ぶ男も男だが、引っかかる女も女だ。
桜井はそんなバカな女ではないと、オレは信じていた・・・
所詮、女は年上に憧れる生き物なのか。
だったら同年代のオレは・・・
桜井の好きな年上じゃないオレは・・・

オレは、桜井が例え処女じゃなくても好きであり続けると誓った。
実際に処女じゃないと知ったとき、オレの気持ちは変わらなかった。
そりゃ知ったときショックといっちゃショックだったけど・・・
だが今回は違う。
まさかここまで酷いとは・・・
今回はオレが今まで生きてきた中で、一番衝撃を受けたかもしれない・・・
大げさかもしれないが、それだけ桜井が好きだからこそ衝撃がデカイのだ。

桜井は見た目も性格も子供ぽい。
正直、中学生といっても通じるくらいだ。
ほとんどの人が、桜井は恋愛と縁が無いと思うかもしれない。
オレもそう思った。
現実は、まったくの正反対も正反対。
かなりの経験者だったのだ。
オレのクラスの軽そうな女どもより経験豊富なのかもしれない。
大人しそうな子、恋愛に縁が無さそうな子ほど、恋愛経験豊富なものなのか?

ダメだ・・・
もう今日は桜井とメールとかいう気分じゃない・・・

『変なこと聞いてごめん。
疲れたから今日はもうメールやめとく。』

メール送信・・・
疲れたとか明らかに嘘っぽいけど、いいや・・・
メール内容考えるのもめんどくさい・・・

『わかった・・・』

桜井からの返事はそれだけだった。
向こうもオレに幻滅しただろうか?
幻滅しようがしまいが、オレに非は無いだろ。
子供のくせにそんな経験してる女が悪いんだよ。

「・・・・・」

桜井から借りた本が目に入る。
こんな恋愛小説なんか読んでるから女どもは・・・
そんな早く処女を喪失して自慢になるとでも思ってんのかよ!!
自慢なんかにゃなんねぇよ!!むしろ恥だろ!!
なんでもっと大切にしねぇんだよ!!

桜井、桜井の彼氏達、この世界の女ども・・・
その全てに対して怒りが込み上げてくる。

桜井の過去を知ってしまって、オレの気持ちは・・・
正直微妙だ。
過去を知ってしまって、こんな気持ちになるってことは・・・
オレは桜井のことが本気のようで、実は本気じゃなかったということだったのか?

わからない・・・
オレは一体どうしたいんだろう・・・

このまま桜井と続けるか?
それとも・・・


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