第十六話
クリスマスデート、悩み多き叶野



12月25日、クリスマス・・・
それは子供達が親からプレゼントを貰ってケーキを食べたり、
恋人達がイチャイチャしたり・・・
そんな特別な日だ。

自分に彼女が出来るまでは、こんな日無くなればいいのにとも思った。
だが自分に彼女が出来た以上、オレにとっても特別な日でもある。
今までの、ただの冬休み中の一日とは違うんだ。

「だがねぇ・・・」

今の時間は14時ちょい過ぎ。
今日は桜井とは14時半くらいに遊ぶことになっている。
昨日は昼前から遊んでいたのに、何故今日はこんなに遅いかというと・・・

『ごめん・・・
昨日お母さんに怒られちゃって、明日遊ぶの14時半くらいになっちゃった・・・』

と昨日、桜井からメールが来たのだ。
昨日たった少し帰る時間が遅くなったからといって、今日は朝から遊びに行かせないってか?
本当に厳しいというか・・・大丈夫なのか?あのオバサンは。

まぁ女の子なんだもんな。
多少厳しくても・・・いやいや、あのオバサンのキレっぷりは異常だろ。
あれはただの暴力、八つ当たりだ。

桜井を助けてやりたいという気持ちはあるが・・・
果たして完全部外者のオレが口を出せるものか・・・
じゃあオレに一体何が出来るというのか?
・・・何も出来ない。

「はぁ・・・」

溜息が出る。
そりゃ昨日の夜からずっと考えてたらな・・・

桜井のことが好きじゃなく、付き合っていなかったら・・・
桜井の家庭の事情や、処女じゃないことだって気にならないのにな。
しかしオレは桜井と付き合っている。
直接どうこうすることは今のオレには出来ない・・・
せめて苦しみを少しでも和らげて、オレといるときは楽しくいられるよう頑張るしかない。

そのときオレの携帯が鳴る。
この着信音はNative2の主題歌だ。
オレは数あるエロゲソングの中でこれが一番好きだ。
桜井と付き合うまでは誰から来てもこの着信音だったが、今じゃ桜井専用着信音になっている。
桜井からの着信、お気に入りのエロゲソングのダブルパンチ!!
こりゃあ着信ある度にテンション上がるってもんよ!!

「もしもし」

テンション上がっても、電話で話すオレは普通だった。
そりゃテンションMAXでいきなり電話出たら、変な奴だと思われるし。

『叶野君?もうすぐ叶野君のお家着くよ〜』

「ん、わかったよ。」

今日は一回桜井が家に来て、その後カラオケに行く予定だ。
昨日は結局行けなかったしね。
桜井オススメのカラオケは、オレの家から行ったほうが近いということでここが集合場所となった。

この日のためにオレは圭介から、今時のアーティストのCDを借りたんだ。
でも歌覚えてもオレ音痴なんだよなぁ・・・
かなり憂鬱だ・・・桜井は全然気にしないとは言ってくれたが。

ピンポーン

「お、来たか。」

オレはジャケットを羽織り、玄関に向かう。
今日もお互い18時からバイトだ。
カラオケが終わると丁度そのくらいの時間だ。
そのため今日はカラオケオンリーになるだろう。

「叶野君、こんにちわ〜」

「おっす。」

「じゃあいこっか。
これから行くとこね、あたしの友達がバイトしてて少し安くしてもらえるんだ〜。」

「そうなんだ。なかなか悪やのう。」

「あたしが行くときはいつも安くしてもらってるよ〜。」

「ふぅん。」

桜井は友達がたくさんいるらしく、
暇があればよく友達同士でカラオケに行くそうだ。
オレみたいなヲタには考えられない遊びだよね・・・
圭介とはたまに行くけど、お互いそんな好きじゃないし。
圭介と行くのはもっぱらヲタショップばかりだしなぁ・・・

その桜井の言うカラオケは、オレの家からそう遠くはなかった。
二人供自転車なので、時間にして約10分程度だ。

「ここがそうだよぉ。入ろ。」

オレ達は駐輪所に自転車を止め、店内に入る。
そんな大きな店ではなく、個人経営のようなそんな感じだった。

「いらっしゃいませぇ、って綾じゃん。」

「涼子〜、今日も少し安くお願いね〜。」

「あんたが来る度安くしてたら、いつかここ潰れるよ?
その前にいつかバレて、あたしが店長に怒られるって!!」

「ごめんごめん、じゃあよろしく!!」

「も〜。」

普段の桜井はこんな感じなのか。
まぁ恋人と、友達とで接する態度が違うのは当たり前だしね。
オレも圭介と桜井とじゃ、接する態度違うし。

「で、あれ、あんたの新しい彼氏?」

「あ、うん。そうだよ。」

「ふ〜ん。」

オレは聞こえないフリをしていたが、しっかり聞き逃さなかった。

『新しい彼氏?』

この台詞が意味することは何だろう?
オレが思うに・・・
桜井は前の彼氏と、何回かはここに来ているのではないか?
でなければ、こんな台詞は出てこないだろう。
いつものオレの考えすぎか?

「じゃ行こっか。」

「あ、うん。」

オレ達は個室に向かう。
・・・やっぱり、これから桜井と付き合って行くなら、聞いておきたい。
前の彼氏のこととか、いつ処女喪失したのかとか。
じゃなきゃ、オレがいつか潰れてしまいそうだ・・・

「何歌おうかなぁ・・・」

桜井は曲を選ぶ。
オレもとりあえず曲を選ぶことにする。

「先歌うね〜。なんか叶野君の前で歌うのって、緊張するかも。」

桜井が歌う曲が流れる。
これは確か、夜の番組・・・名前は忘れたが。
何人かの素人男女が旅をしながら恋愛する番組の何期目かの曲だ。
エロゲーにハマるまでは、純粋にこんな恋愛してみたいとも思ったが、
完全ヤラセと噂されてから観なくなったなぁ・・・
まぁ今のご時世、テレビ局も視聴率取るのに必死だしね。
それに恋愛ならエロゲーが一番感動するし。

桜井が歌う。
歌声は、なんか今時の子が歌ってるって感じの声だ。
この曲はオレがリアルタイムで観ていたときの曲でもあり、案外好きなほうの曲である。
しかし桜井がこの曲歌うってことは、やっぱ女の子はああいう恋愛バラエティっていうの?
そういう系の番組好きなんだなぁ。

「ふぅ。叶野君、曲入れた?」

「あ、ごめん、まだ入れてないや。」

「じゃあ、あたし次の曲入れていい?」

「うん、いいよ。」

やべぇ、考えてばっかで曲入れるの忘れてたよ・・・
桜井は次の曲を歌いだす。知らん曲だ・・・
たぶん今時の歌なのかな?
いやいや、そんなことよりオレも曲入れないと。

圭介から借りたCDの中で、歌いやすそうな曲を思い出す。
あぁ、アニソンならこんなこと気にせず歌えるのに・・・
今更だけどやっぱカラオケって、共通の趣味持ってる奴と行ったほうが楽しいよね。
次回からのデートに、カラオケという選択肢は無いなこりゃ・・・
オレは曲を入れる。
入れ終わると同時に桜井の歌も終了した。

「あ、叶野君、曲入れたんだね。
しかも、今流行りのアーティストの曲じゃん。」

「あ、うん。だね。」

流行りって言われても知らねぇ・・・
しかし、さすが圭介だな。

「オレかなり音痴だからさ、あんま聴いてほしくないかも・・・」

「ほんとに、そんなの気にしないよ。」

「うん・・・」

オレが入れた曲が流れる。
歌う前に予め音痴だってことを言っておいたが、
やっぱ緊張するな・・・

オレは歌う。
やはりお気に入りのアニソンでもないので、
歌声にそんな力は入っていなかったが。

桜井は次の曲を選んでいるようだ。
しっかりオレの歌を聴いてないのが、逆に気が楽、歌いやすいよ・・・

「ふぅ・・・」

「叶野君、言うほど音痴じゃなかったよ。」

「え〜。そんなことないよ・・・」

「ほんとに。ささ、どんどん歌おうよ!!」

桜井は更に勧める。
あとオレが歌える曲なんかあったかなぁ・・・





「叶野君の最後の方の歌楽しかったよ〜。」

「そう?懐かしい曲があったからつい、ね。」

歌える曲のレパートリーが少ないオレは、結局アニソンを歌ったのだった・・・
しかし、誰でも知っているような、そういうアニソンだ。
それでも歌っているときは何とも思わなかったが、
カラオケが終わった今、すげぇ死ぬほど恥ずぃ・・・

「今日もバイトだね。
ここからバイト先に行けば、丁度出勤時間かな。」

「だね。」

「叶野君、今日は絶対合田さんと喋ったりしないから。」

「そうだね。でも向こうから話し掛けてきたらしょうがないよ。
しょうがなくても、仲良く話すのはやめてほしいけど。」

「うん、わかった!!ちゃんと約束は守るよ!!」

この感じ・・・
なんとも言えない優越感。
自分の言うことを従順に聞いてくれる女の子・・・
そう、オレはこういうのを望んでいたのかもしれない。

「だから今日も一緒に帰ろうね。」

一緒に帰る・・・
そう、昨日はオレと一緒に帰ったがために、
帰宅時間がほんの少し遅くなり、桜井の母親がキレたのだ。

「・・・・・」

それを知ってしまったオレはどうすればいい?
一緒に帰れないと言ったら桜井を悲しませるかもだし、
それに夜遅くに一人で帰らせるのも危ないし・・・
かと言って、一緒に帰ると桜井が母親に怒られるし・・・

一緒に帰るけど、昨日みたいにゆっくり歩くのはやめるしかないな。
帰るとき、さりげなく早く歩くとかして、早めに帰宅させてあげるか。

「いいよ。」

「うん、ありがと。」

バイト先に着く。
今日は桜井と一緒に店に入る。
今日も昨日と同じ、キッチンはオレと袴田、フロアは桜井と合田である。
もう休憩室にいんのかな、合田・・・

「おっす叶野。」

オレ達が部屋に入って、すぐ声を掛けて来たのが高野である。
高野の彼女である天野もいるし、今日は更に山神と新美のカップルもいる。
てか、こいつらホントに何なんだよ!!
テメェ等、クリスマスだからって今日休んでんだろぉが!!
なに休憩室でくつろいでんだよ!!

「おはよーす。」

とりあえず形だけの挨拶。
桜井は天野と新美と喋っている。
ビーーーーッチ!!天野、テメェのようなビッチはオレの彼女に近づくんじゃねぇ!!
新美はオレとよく喋るから、別に何とも思わないが、テメェだけは別だ!!
こういうことがあるから、段々オレは天野が嫌いになる。

「綾ちゃん、これありがとぉ。すごく面白かったよ」

「映画やドラマも良いけど、やっぱ原作だよね!!」

天野が桜井に渡したのは本だった。
そう、一時期ある携帯小説がブームになった。
それが本になり売れ、映画、ドラマ、漫画へと・・・
ネットでレビューを見る限りじゃ、かなり酷い小説って書いてあったけど。
桜井が天野にそれを貸してたってことなのか。
桜井も、そんな奴に貸す必要なんて無いのに・・・

「叶野、今日も客少ないだろうけど、頑張れよ。」

そう高野が言う。
・・・うぜぇ、一体こいつは何様だ・・・
フロアリーダーで、少しフロアの女と仲良いだけで偉そうに・・・

「そうすね。じゃあ着替えるんで、そこどいて下さい。」

「お、おう。」

オレは不機嫌な態度を前面に出し、高野を除ける。
更衣室に入って着替えている間、高野の声が聞こえた。

「あいつ、今日機嫌悪いの?」

誰に聞いたのか、ここからじゃよくわからないが。
オレが不機嫌な原因はテメェだっつうの!!

いかんね、最近オレ不機嫌になりやすいかも・・・
原因は桜井の過去、桜井の母親とあるが。

よし、今日の帰ったら、メールで聞いてみよう。
前のこととか、いつ初経験したとか・・・
前のことを気にするなんて、小さい男だと思われるだろう。
それでもオレは聞きたい。


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