第十二話
初めてのクリスマスイブ(中編)



『はい、チーズ』
パシャ

画面にオレ達二人の姿が映る。

「このペンでね、こうやって書くの。」

「へぇ。あ、なんか派手な色だ。」

オレ達は雑貨屋を出た後、プリクラを撮っていた。
プリクラって、写真を撮った後らくがきなんて出来るんだな。
初めて知った・・・
てか、こうやって見るとオレってイケてねぇ・・・

「まだあともう一枚あるから、今度はチューしながら撮ろーよ。」

「チュー!?そんな大胆な・・・」

「イブだし良いじゃん。はい。」

桜井は目を瞑り、唇をオレに近づける。
キスしながらプリクラって、今時の子はこういうものなのか!?
目の前には桜井の唇。
唇にはリップが塗ってあり、ぷるぷるしていて柔らかそうに見える。
キスしたい、吸い付きたい、舌を入れたい・・・
こんな色っぽい唇を見たら、色々イケない欲求を駆り立てられる。

「ん!?」

オレは我慢出来なくなり、桜井を抱き寄せ勢いよく唇を付ける。
それだけでは収まらず、オレは桜井の唇を舌で無理矢理押し広げる。

「んん・・」

オレの舌は桜井の口の中に侵入する。
侵入した後は桜井の舌を探す、そしてそれをオレの舌で可愛がってやる。

「ぷぁ、ちょっと・・」

一瞬唇が離れたが、気にせずもう一回舌を侵入させる。
待ち合わせ場所に来る前にキャンディーでも舐めていたのか、
桜井の口の中は甘酸っぱい味がした。これはレモンの味・・・かな?
最初は嫌がってた桜井も、だんだん力が抜けてきたのか、オレにもたれかかるようになる。
しかしそれだけではなく、桜井は侵入したオレの舌を舐め返す。それも激しく。
なんだかんだ言って、桜井も案外嫌いじゃないんだな。こういうの。

桜井の可愛らしい反応、口の味、それだけでオレのモノが勃つには十分な要素だった。
これが若さか、キスだけで勃つとは・・・

そんなことを二人で夢中でやっているものだから、
最後の一枚はいつのまにか撮り終わってしまった。

「あはははは、何これ〜。」

「オレの体で見えねぇ!!」

二人で夢中でキスしてた姿は何とも情け無い写真として印刷されていた。
オレの体で桜井が完全に写っていない・・・
くっは、なんとも悔しい・・・

でも最初の方に撮った写真はちゃんと二人並んでいるし、
まぁいいかな、これも・・・

「もう、いきなりあんなことしないでよ。」

「我慢出来なくて・・・」

「も〜、そんなに溜まってるの?」

「いやほんとに、すまん・・・」

「いいよ。ほら、プリクラ分けよ。」

「ん」

何だかんだ言って、桜井も好きだったくせに〜。
とは言えなかった。また背中叩かれたくないし・・・

オレ達はプリクラ台から離れると、近くのテーブルでプリクラを切り分ける。
テーブルには大勢の女の子、なんかオレ浮いてる・・・
イブなのにプリクラにはカップルは一組くらいしか見ていない。
イブのプリクラなんてこんなもんなのか?
いや、もしやみんなラブホか!?ラブホなのか!?
やっぱ男と女がイブにやるといったらアレしかないよなぁ・・・

そいや、今日バイトを休んだ高野や新美達は今頃何してるんだろ。
高野や山神は自分の車持ってるし、ラブホなんて恥ずかしげもなく余裕でチェックインじゃん。
合田も確か車持ってるけど、あの野郎は彼女いないけどね。
しかし、あの年代は何故そんな自分の車を持てるんだ?
高野はフリーターだから買えるとしても、大学生である山神や合田なんかどうやって車買ったんだよ。
親の金か?親の金しか無いだろ。情け無い・・・大学生にもなって親金とは・・・
パパとママに買ってもらったお車で彼女とラブホですか。
ぷっ、ダサいったらありゃしねぇぜ。

そんなオレは免許すら持ってないけどね・・・

もう免許取れる年齢だけど、そんな金無いし。
そんな金あるならエロゲー買うし。
でもいつかは桜井を車に乗せてドライブなんて・・・良いかもしれないなぁ。

「はい、これ叶野君の分ね。」

「ん。ちなみにさ、こういうのって桜井はどうしてる?」

プリクラなんて初めてだし、撮った写真なんて何に使用するのかまったく分からない・・・

「あたしはね、これに張ってるよ。」

桜井が鞄から取り出したのは、ピンクの小さいノート、いやメモ帳か?
中身は友達の女の子と撮ったプリクラがビッシリ!!
なんかプリクラが全盛期だったころ、テレビでこんなの見たことあるな・・・
まさか実物をこの目で見ることになるとは。

「小学生くらいから結構撮ってるしね。
もうこれ何冊目か分かんないなぁ。」

「そんなにか!?」

「普通だよ?」

「そうなんだ。」

「男の子にはない遊びだしね。」

「そうだなぁ。男同士で遊ぶときなんて、家でゲームとかだもんなぁ。」

「そうなんだ。やっぱ男と女じゃ遊び方が違うね。」

まぁオレの場合は特別なんだけどね・・・
遊ぶ友達なんて圭介しかいないし、二人でエロゲーをやって朝まで萌え明かすという日も少なく無いし。

「やっぱ携帯に張るのはどうかな?それが一番一般的だよ。」

「ほう、そうなのか。じゃあ携帯に張ろ。」

オレは携帯を取り出し、裏側に張る。
うむ、なんかカップル〜って感じがするね。
良い感じだ。

「ん、もう12時近いな。
混みそうだし、先にお昼御飯食べに行こうか。」

「そうだね、場所は叶野君が探してくれたんだっけ?」

「うん、友達と結構行くとこなんだ。
ここからすぐ近くのパスタのお店。」

「あたし、パスタ好きだから楽しみ。」

くどいようだが、オレには友達なんてものは圭介だけである。
更に結構行くどころか、今日が初めてのお店である。
圭介と食べに行く店なんて牛丼だけだ。安いし早いしうまいし。
それ以外に外食に行く事なんて、母親が手抜きしたい日だけである。

オレ達はパスタの店に入る。
中はカップルが結構いた。なんか緊張するな・・・
しかし、ここでうろたえては男として情けない。
ここは堂々と・・・

「いらっしゃいませ。お客様は何名様ですか?」

「あ、ふ、二人で・・・」

どもった・・・
なかなか可愛い店員さんだ。だからか緊張したのか?
いやいや、桜井も十分可愛いよ。
て、桜井に今の情けない姿見られてないか?

「やっぱお昼は混んでるね〜。」

「そうだね。」

気にしてないみたいだ。
よかった。

オレ達は席に案内してもらい、メニューを受け取る。

「あ、今日と明日はクリスマス特別メニューがあるみたい。
あたし、コレにしようかな。」

「あ、オレも。」

ここは桜井と同じものを頼んでおく。
何故かというと・・・
二人とも違うメニューを頼んだとき、どちらかの料理が早かったり遅かったりすると、
何か気まずい空気が流れるのではないかと思ったからだ。
一人の料理が来て、もう一人の料理が出てくるまでの差があると、一人目の料理が冷めてしまう。
もちろんこれは料理が揃うまで一人目が待つからである。
一人目が先に食べ始めればいいと思うかもしれないが、
やはり二人で一緒に食べるのが大事だと思う。カップルのときだけだが。
まったく別の料理をそれぞれ出すときは多少のタイムラグがある。
そしてこれだけ店内が混んでいるとその差は大きくなる。
これはガーデン厨房リーダー経験上の勘だ。
てか深読みしすぎかオレは・・・?

桜井と楽しく会話して、頼んだ料理が来る。
混んでるのに意外と早かったな・・・
他の客もクリスマスメニューみたいだし、作り置きしてたのかな?

クリスマスメニューといっても、
スープ、サラダ、鶏肉とホウレンソウのクリームパスタと、普通だった。
まぁそんなもんだよね。

料理が二人同時に来たので一緒に食べ始める。
だが桜井、というか、女の子は食べるスピードが遅い・・・
まぁ男が早いってのもあるんだろうが。
ここでオレが早く食べ過ぎても、桜井に変なプレッシャーを与えるかもしれない。
だからオレはいつもより食べるスピードを半分くらいまで落とす。
これも彼氏としてのさり気ない優しさだ。
なんかオレって結構紳士かも。
やはり長年エロゲーで培った恋愛テクは伊達じゃない。

「ごちそーさま〜。」

「ごちそうさま。」

「あ、口」

「ん?」

桜井はおしぼりでオレの口回りを拭く。

「口、クリームが付いてた。」

「ありがと。」

なんかこれじゃオレが子供みたいだ・・・

食べ終わり、少し会話をした後オレ達はレジに向かう。
オレは財布から五千円札を取り出し、奢ると言うが・・・

「いいよ、そんなに無理しなくて・・・」

「でも・・・」

「お互い学生なんだし、無理しないで。割り勘で、ね?」

そう言うと桜井は財布の中から千円札二枚を取り出す。

「わかった・・・」

なんかカッコ悪い・・・
桜井から見て、オレが無理してるように見えたのだろう。
優しくしているつもりが、変な気を遣わせてしまったようだ。

「おいしかったね。」

「そうだね、それなりに。」

「次どこいこっか?」

「どこって、カラオケ行くんじゃないの?」

「ん、それは今度でもいいかなと思って。
せっかくのイブだし。」

「イブだし?」

「さっき叶野君にあんなキスされたじゃん。
だからそういうことじゃないの?」

やりたいかと聞かれたら、そりゃやりたいけど・・・
別にそれを狙ってやった訳じゃないんだけどね。
でも桜井がその気なら、やれるならやりたい。

「そうだね、じゃあ・・・いいの?」

「うん・・・」

どうすればいいんだろ?
今からホテル?いや、でもホテルって結構高いんじゃない?
それに二人の初めてのエッチなら、やっぱホテルより家の方が・・・
今日は親帰り遅いはずだし、家にしよう。
桜井と付き合いだしてから、部屋のマズイものは隠してあるし。

「じゃあ、オレの家に・・・来る?」

「うん。今度は大丈夫なんだよね?
また前みたいにお母さんが帰ってきたりとか。」

桜井は冗談交じりに聞く。
大丈夫だからお持ち帰りするんだよ!!

「今度は大丈夫なはず。」

「うん、そっか。」

「じゃあ、行こっか。」

クリスマスイブ、ついに今日こそは桜井との初エッチが出来そうだ・・・
嬉しくもある・・・が。
桜井が処女かどうかが分かるため不安もある・・・
でも桜井が処女じゃなくても、好きという気持ちは変わらないと誓ったんだ。
だから、今度こそはうまくいけるよう頑張ってみせる。


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