第十一話
初めてのクリスマスイブ(前編)



ピピピピピ

夏休み、冬休みと鳴ることはほとんどないはずの目覚まし時計が鳴る。

「ん、ん・・」

目覚ましを止め、時間を見る。
朝9時・・・

まだこんな時間じゃねぇか。
何でこんな朝早くに目覚ましなんか・・・
まだ眠い・・・

「・・・・・・」






!!

時計を見る。
それまでボーっとしていた頭がハッキリ冴える。

9時半じゃねぇか!!

布団から一気に抜け出す。

今日はクリスマスイブだよ!!
寝てる場合じゃねえええええええええええええええ!!

急いで歯を磨き、寝癖を直し、着替え・・・
桜井とは10時にガーデンの近くのコンビニで待ち合わせる約束だ。

9時に目覚まし鳴った時点で目覚めろよオレ!!
しかし二度寝してよく30分で起きれたと自分がすごいと思った。
まぁそんなこと言ってる場合じゃないが・・・

わずか15分で用意を終わらせ、オレは家を出る。
自転車で飛ばせば待ち合わせ場所なんかすぐ着く。
やはり10分前には着くようにしないとな。

自転車を漕ぎながら今日のデート予定を思い出す。
まず待ち合わせ場所で合流し、その後は近くの雑貨屋で小物を見たり、
ゲームセンターで遊んだり・・・
その後は昼飯を食って、カラオケ行って・・・
な感じだ。

もちろん昼飯の場所は押さえてある。
昨日ネットで調べて、それなりにおしゃれなパスタのお店を。
初めてネットをこういうことで使った・・・
改めて便利な時代になったと思う。

と、そうこう考えている間に待ち合わせ場所だ。
桜井はまだ来ていないみたいだな。
オレは上着のポケットから折りたたみの手鏡を取り出す。
桜井が来る前に髪が変じゃないかチェック・・・
この日のために百均で買ったのだ。
やはり初めてのデートとなると、少しくらい身だしなみを気にしないとな。

「ん、いいんじゃね?」

自分で言ってみる。
普段まったく気にしてないもんだから、いざ決めてみるとそれなりに見えるかも。
それなりだったら今までモテてるっちゅうの・・・

携帯で時間を見る。
9時52分、もうすぐ桜井来るかな。
辺りを見回す。ここからだとガーデンが見える。
学生は冬休みということもあって、それなりに忙しく見えた。
確か今日と明日は高野と、その彼女である天野、
山神と、その彼女である新美は休みだ。
クリスマスだからといってこれだ・・・
だからオレはああいうチャラチャラした男は嫌なんだよ。
クリスマスだから彼女と一緒に休む?ハァ?アホですか?
やる気ねぇなら辞めろっつうの。
オレを見習えよカスども。

休む人が多いため、今日の午前のフロアは合田とおばちゃんの二人だけだった。
イブにおばちゃんと一緒にお仕事ですか。お似合いだね、まったく。
客が多いからか、合田は忙しそうに客席を行ったり来たりしている。
いい気味だ。せいぜいオレ達が楽しんでいる間、頑張ってくれたまえよ。
なんか合田のあんな姿見れただけでスカっとした。
今日は楽しい日になりそうだ(笑)

「お」

前から自転車で近づいてくるのは・・・

「おっはよっ。ごめん、遅くなっちゃって。」

桜井だった。

「おはよー。いやいや全然遅くないよ、お互い時間通り。」

「そうだね、よかったぁ。」

今日の桜井チェック。
桜井は普段メイクはしないほうだが、今日は頬がほんのり赤かったり、
唇にはリップって言うんだっけ?が塗ってあり艶やかだった。
もう今すぐオレにキスして欲しいと言わんばかり色っぽい。
髪型は後ろで縛ってあり、ポニーテールみたいな感じだ。
どんな髪型も可愛いよ桜井・・・

「まずは駅前の雑貨屋、見にいこっか。
あたし、そこで見たいものあるんだ〜。」

「いいよ。自転車で行く?」

「ん・・・近いし、自転車ここら辺に置いて、歩いていこうか。」

「そうだね。じゃあ、あそこら辺に。」

コンビニからちょっと行ったところに放置自転車が何台か置いてある場所がある。
オレ達はそこに自転車を止めることにした。

「じゃあ行こ〜。」

「おう。」

オレ達は雑貨屋まで歩く。
その雑貨屋というのは、最近駅前にオープンした店だ。
アクセサリーや小物などが色々あるらしい。
いかにも女の子が行きたがるような店である。
男であるオレが興味があるかと言われれば、正直まったく無い。
しかしデートだし、こういうのは男が相手に合わせるものだしな。

「・・・・・」

いかん・・・オレ緊張してる。
何か喋らないと・・・この沈黙が辛い・・・

しかもこの前の桜井との未遂・・・
メールとかでは普通にやらしい会話は出来ても、
いざ実際に話すとなると、意識して顔を見るのも恥ずかしい・・・

「どうしたの?」

「なんでもないよ?」

「そう?」

「うん、そう」

今日はやらしいことは無い、デートなんだし、気にしないようにしよう。
桜井もそんなに気にしてないみたいだし。

そうだ。
デートなんだし、こうやって歩くときは・・・

「ん」

オレは桜井に手を差し出す。

「ん?」

「手」

恋人同士が一緒に歩くときはやっぱ手を握らないと。
そうは思ってもはっきり言えないヘタレなオレ・・・
エロゲーの中でのオレは手を握るくらい朝飯前なのに。
ていうか、この前あんなことまでやったのに、今更手を握るのが恥ずかしいとは・・・

「ん、はい。」

桜井はオレの手を優しく握る。
オレもそれに優しく握り返した。

「ん」

桜井の手は冷たくて、ぷにぷにしてて、気持ち良かった。
改めて女の子の手って、良いものだと思った。

「この前あんなことしたのにね。
なんか恥ずかしいよね、手繋ぐの。」

桜井も手を繋ぐのが恥ずかしかったみたいだ。

「そうだね、順序が逆だ。」

「エロ」

「オレぇ?桜井だって・・・エロかったじゃ、痛っ!!」

桜井はオレの背中を叩く。

「そういうこと言わないでよ」

「ごめん・・・」

「・・・今度、また機会があったら、ね?」

「・・・ん」

これは、桜井もしたいということなのか?
オレはあえて何も聞かなかった。
色々気になることもあるが、今は桜井とのデートを楽しもう。

今のやりとりでお互い緊張が和らいだのか、楽しく話しながら歩いた。
学校でのこと、バイトのこと、今見てるドラマの話題など。
女の子とこんな普通に会話出来るなんて幸せだ・・・

歩く中よく辺りを見ると、クリスマスイブにも関わらず一人で歩く男の姿がちらほら・・・
そんな中オレは彼女と手を繋いで歩いている。何か自分は勝ち組になったような気になる。

「オレはモテないオマエ等とは違うのだよ。モテない男とは。」
と心の中であるキャラ風に言ってみたり・・・

「なんかニヤニヤしてる・・・」

「そう?なんでもないよ。」

いかん、顔に出てたみたいだ・・・
今更だけど、変な男だと思われたくないし気を付けないと。

「付いたよ。このお店ね。」

「へー・・・」

やはり冬休み、クリスマスイブ、オープンしたてということもあり、
店内はカップル、友達同士で来た女の子で一杯だった。
正直、女の子がたくさんいる場所に行くのは抵抗が・・・
いや、女の子は好きなんだよ?
でも実際の女の子はやはり苦手意識が・・・
あ、でも今日は彼女と二人だから大丈夫かも。

オレ達は店内に入る。
女の子がたくさんいるからか、店内は何か良い匂いが・・・
オレがいつも通うヲタショップとは全然違う匂い・・・

「おー、あれ可愛いかも。」

桜井はオレの手を離し、アクセサリーを見に行く。
あぁ、せっかくの手が・・・
桜井は色々手に取り、楽しそうだ。
こうやって眺めているオレも楽しいぞ。
高校三年、とてもオレと同い年とは思えないほど無邪気だなぁ・・・
女の子ってこういうもんなのかな?

せっかくだしオレも何か見るかな。
なるべく桜井から離れないよう、近くにあったアクセサリーを手に取る。
やっぱこういうときって、女の子にプレゼントしたほうが良いのか?
したほうが良いんだろうが、プレゼントの相場ってどのくらいだ?
付き合ったばっかだしあんまり高いのはどうかと思うし、
かといって安いのも・・・
あぁ、こんな悩むなら電車男みたいにネットで相談とかした方が良かったかのかな・・・

「ねえ叶野君、これ、おそろいでどう?」

桜井が手に取ったのはクロスのトップのシルバーネックレスだ。
こういうアクセサリーに今まで縁が無いものだから、
どうと言われても正直ピンと来ない。これってカッコイイのかな?
アニメキャラでこういうの付けてるキャラは確かにカッコイイがオレに似合うかな。
でも桜井とおそろいなら良いかも。

「おそろい良いね。じゃあこれ買おう。」

「うん。叶野君なら似合うんじゃないかな?」

「そう?」

「うん、カッコイイかも。」

うん、なんか恥ずかしくもあり、嬉しい・・・
こうカッコイイと言われると、良い気分だ。
世のイケメンはこんな気分を常時感じているんだな、と心底羨ましく思った。

「オレが出すよ。」

「悪いよ!いいじゃん、二人で払えば。」

「オレが出したい。
オレから桜井への初めてのプレゼント。」

「そこまで言うなら・・・」

男の見栄だ。
まぁブランド品て訳でもないし、二つ買ってもそう高くはなかった。
これでオレの好感度が少しは上昇したかな?と思ってみたり。

買った後は店を後にし、オレ達はさっそくネックレスをはめる。

「ネックレスありがとね。
なんか、おそろいのアクセサリーって良いね。」

「そうだな。ネックレスなんてつけたの初めてだ。」

「そうなの?叶野君、もっとオシャレしなきゃ〜」

グサッ。
ただの冗談で言ったのは分かるけど、今のは地味にダメージ・・・

確かに桜井の言う通り、これから付き合って行くのならオレはもっとオシャレをするべきか。
今度圭介にファッション雑誌でも借りるか・・・

「じゃあ次、ゲームセンターいこっか。
プリクラでも撮ろーよ。」

「あ、うん。」

プリクラとは・・・
人生初めての経験だ。しかも彼女とプリクラ・・・
こういうのが普通のデートっていうんだな、たぶん。
今までこういうことなんて無かったから正直まだ緊張はしてる・・・
でも素直に楽しい。桜井は明るくて一緒にいてすごく楽しいよ。
今日というクリスマスイブ、本当に桜井と一緒になれて良かったと思う。

まだイブも始まったばかりだし、明日も一緒に遊ぶ予定だ。
まだまだここでオレの彼氏としての株を上げるため頑張ろう。


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