『まもなく〜○○〜、○○〜。お出口は左側になります。
お降りの際は足元にお気を付けて・・・』

・・・・・

この駅に来たのは何年ぶりだろう・・・あれから二年くらい経ったかな。

「ほら何ボーっとしてんのさ!駅着いたよ?」

「あ、うん。」

もうこの駅に来ることも無いと思っていたのにな・・・

あ、あのスーパー・・・
ホームから見える大手スーパーのジャスモの看板。
ここからじゃ見えないけどジャスモのすぐ近くに彼の家が・・・

いつまで引きずっているんだろう、私は・・・


第十話 憂鬱



「五時までまだ時間あるけど、どうする?」

「ん・・・どうしよっか。」

「なんか・・・優、元気ないの?」

「そんなことないよ?」

「そう?風邪でも引いたとか?」

「ほんとに何でもないてば。
それより美香。フルタイムの新商品、クリームモッコリカフェ飲みたいて言ってたよね?」

「ん?言ってたけど?」

「ここを真っ直ぐ行ったところにジャスモがあって、そこにフルタイムがあるよ。
時間までそこでゆっくりしない?」

「いいけど、あんたよく知ってるね。」

「ん・・ホームからジャスモの看板が見えたから。
ほら、フルタイムってジャスモの中に大体あるし。」

「そだっけ?まぁいいや。」

本当は、よく二人であそこでコーヒーを飲んでいたから・・・
もしかしたらジャスモに行く途中、ジャスモ内で会えるかもしれない。
会って何かする訳でも出来る訳でもないけど、少し期待してしまう。
会っちゃ気まずいな・・・遠くから見るだけでも、久しぶりに顔を見てみたい。
私のせいで追い詰めてしまった彼・・元気にしているのかな・・・



今日、私と美香はこの辺りの会社の説明会に行く。
私は夏に面接を受けた会社の内定をもらっていたが、美香の誘いを受けて私も受けることにした。
私達は来年の春で卒業なのに、美香はまだ一社も内定をもらっていなく、一人で行くのが心細かったんだろう。
最初はどうしようか悩んだけど、会社の住所を見て彼を思い出した・・・
それが理由かな。この会社を受けようと思ったのは。

私達はジャスモ内にあるフルタイムで時間を潰す。
美香は新商品が不味いと文句を言っている。
私は適当に相槌を打ちながらフルタイム内を見渡す。彼がいるかもしれない。
そんなことは有り得ないのに・・・
彼は外で食べたり、喫茶店に行ったりが嫌いな人だった。
・・・お金が掛かるからとも言ってたっけ。確かゲームやCDを一杯買うからとか・・・
それでも私が行きたいってわがまま言って、値段が安いここに来たんだったっけ。

「優、時間だしそろそろ行こっか。」

「ん、そうだね。」

結局彼を見ることは無かった。
一目でも見たかったな・・・

もし、もし今日行く会社の内定をもらったらどうしようか。
毎朝会社に出社するとき、いつか彼を見ることが出来るかもしれない。

・・・・・

もういい加減にしないと・・・
いつまでもこんなことを考えていたらダメだ。
こんなんじゃ受かるものも受からなくなる。

「どうしたのさ、ほんとに大丈夫?」

「大丈夫だよ。ほら早く行かないと。」

「う、うん。」

忘れなきゃ、もう・・・





オレは今、熱くなった自分のモノを静めるため、エロ度が高い俗に言う『抜きゲー』をやっている。
そしてここだと思ったシーンで自分のモノを・・・

「ふぅ・・・はぁ・・・」

虚しい・・・

桜井を家に送り、オレはついさっき家に帰って来た。
帰って来た途端、桜井の匂い、味、感触を思い出し我慢出来なくなった・・・
そりゃあんな中途半端なまま終わったんだから当然と言っちゃ当然だ。
くそぅ、良いところでお袋の奴帰ってきやがって・・・

「・・・・・」

でも、あれ以上進まなくて良かったかもという気持ちはある。
あのときは勢いみたいなものはあったが、自分のモノが静まった今、冷静に考えてみる。
もしオレがまた昔みたいに相手より早くイッてしまったら・・・
桜井が処女じゃなかったら・・・
それ等が一度に押し寄せるのが怖い・・・

しかし桜井が処女かどうか・・気になる。
あんな子供っぽい奴が既に経験済み?そんなバカな・・・
ならなんであんなに積極的、慣れているんだ?
もし処女だったら、男のモノを見てビックリとか、そういう反応だろ?
エロゲのヒロインだってそういう反応だぞ?
なのに何故いきなりフェラなんだよ?有り得ないだろ。

・・・オレが付き合っていた年上の彼女、優。
あいつは処女だった。早く経験したいみたいな事は言ってたが・・・

早く経験したい、そういうものなのか?
今時、小学生や中学生の性経験なんて珍しくない。高校生なんかは経験して当たり前の世の中だ。
経験していないと恥ずかしい、そういう考えなのか?世の中の女の考えは。
男は経験しても跡は残らない。だが女には残るんだぞ?
処女膜が破られたという経験したという跡が!!
女供は早く経験しなきゃと考えているのか?
バカが!!そんな軽々しく股開くような女、誰が好きになるか!!
女は処女というものを大切に、本当に好きな人が現れるまで残して置こうと考えはしないのかよ!!

・・・しかし簡単にやりたがる男もダメだとは思うがな・・・
自分で言うのも何なんだけど・・・

いや、でも女には跡が残るからな。
処女というのは大切に残して置くべきだ。

「桜井は、どうなんだろう・・・」

もし今、桜井が処女じゃないと分かって、オレは嫌いになるのか?
ここまで好きになったのに・・・

それが悔しいんだ。
ここまで好きになったのに、もし先に他の男に汚されていたら・・・
オレ以外の誰かが桜井の処女を奪った・・・
そう考えるだけで胸が苦しい・・すげぇ悔しいんだ・・・

いつまでもこうやってウジウジ考えてても答えは出ない。
そんなのは分かっている。
じゃあそれを確かめる?
どうやって?

次回桜井と本番が出来るときに?
それとも今、メールか電話で聞いてみる?

そんなこと出来ない。
でも本番のとき、嫌でも気付いてしまう。

・・・・・・はぁ。
ダメだ・・・ずっとこんなこと考えていたら・・・

そうだ、今日桜井と話したことを思い出そう。
もうすぐクリスマスイブだ。24日、25日は二人ともバイトが入ってしまったが、
運が良いことに二人は二日間供18時出勤だ。
それまでは二人でカラオケ行ったり、ご飯食べたり・・・

いやちょっと待て・・・
さっきは何も思わなかったが・・・カラ、オケ・・・?
・・オレ歌えないぞ?

いや、たまに圭介とカラオケに行くが、歌う曲はアニソン、ゲーソンだ。
アニソンやゲーソンを彼女の前で歌う訳にはいかないし、
今時の曲、っていうか一般人が聴くような曲なんて歌えないし、知らない・・・

どうしたものか、悩みばかりだ・・・



「そうだ」

オレは圭介に電話する。

『もしもしぃ』

「よう圭介。オマエさ、よくバイト先の子とカラオケ行くって言ってたじゃん?」

『ああ、それが?』

「今時の曲とか、女の子がウケそうな曲とか教えてくれよ。
メールとか、今日来て教えてくれてもいいからさ。」

圭介はよくバイト先の女の子とカラオケやご飯に行く。
こいつもヲタであるが、ルックスはそれなりのためそういう機会が多いのだ。
しかし、どうも軽い男に見られるらしく、未だに恋愛経験無し、童貞である。
まぁそんな訳で、オレは圭介ならばカラオケで女の子にウケる曲を知ってるだろうと思い電話した訳だ。

『彼女と行くことになったのか?
いいじゃん、アニソン歌えば。』

「普通に考えて有り得ねぇだろ・・・
だから頼むよ、教えてくれ。」

『わかったわかった、んじゃ暇だし今から行くわ。
今時のCDも持ってるし、それも貸したる。』

「サンクス!!それじゃあな〜」

よし、これでカラオケ対策はなんとか・・・
イヴまでたった数日、何曲かは歌えるようにならないとな・・・



桜井のために頑張る。
昔のオレはそうしただろうか?

年上の彼女が出来、相手は処女で自分は童貞。
彼女との行為は一度もうまくいったことがない。失敗ばかりだった。
それでも気にしなくていいと、エロゲーだって全く気にしていなかった。

行為がうまくいかなかったくらいで頑張ろうともせず逃げ出して・・・
彼女と一緒に頑張る勇気が無い、心の中ではオレのことを非難しているという疑心。
自分でも被害妄想が高いのは分かっている。

でも、今までモテなくて、中学時代は女子達にキモい、暗い、ヲタ臭いとも言われていた。
もしかしたら高校になった今でも陰で言われているかもしれない。
だからオレはエロゲーやギャルゲーで恋愛をしていたんだ。
そんなオレに女を信じ、愛することが出来るのか?

優とは出来なかった・・・
でも今は後悔している。あのときオレがちゃんとしていれば・・・
だから今回は頑張る。
あのときのような失敗をしないために。
相手のために頑張り、相手を信じる・・・
もし桜井が処女じゃなくても、オレは・・・
桜井が好きという気持ちは変わらない。


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