第九話
悲しみの痕には


あの戦いの後、オレ達はリアナの家に戻った。
いや、戻らざるを得なかった。

村の住人達の供養をしようとしたら、
車椅子に乗ったリアナのじいちゃんが現れ、追い出されたからだ。

オレ達がよそ者だからなのか、
やはりこの村の住民達はどこかオレ達とは違う人種なのかもしれない・・・



「落ち着いたか?」

「ああ、済まぬな・・・」

「あ〜いや、オレが無神経な事言ったのが悪いんだし・・・」

「気にするな、お主のせいではないよ。
 それより・・・」

「ん?」

「儂の村を助けてくれて・・・その・・・
 ありがとう・・・」

泣いて目を真っ赤にしたリアナが
デジュンとスラップに礼を言う。

「いやいやいやいや!!
 オレ達は当然の事をしたまでよ?
 なあスラップ。」

「ああ。オレ達は奴らの親玉、ガイアを倒すために戦っている。
 しかし、残念な事に村の人達は助けられなかったがな・・・」

「お主等のせいではない・・・
 そうだ、儂をお主達の仲間にしてはくれぬか?」

突拍子もない突然のリアナの発言に二人は驚いた。

「女の子をオレ達の旅には連れて行けない!!」

「デジュンの言う通りだな。
 オレ達が相手にするのはとんでもない化け物だ。」

「儂は奴らが許せない!!
 村のみんなの仇を討ちたいのじゃ!!
 頼む!!この通りじゃ!!」

「そう言われてもな・・・」

「この村に勇者を探しに来たのじゃろ?
 勇者探しも手伝うから頼む!!」

「あ〜、そういえばそんな目的だったな確か(笑)」

「デジュン・・・オマエは本っ当にバカだな・・・」

そのとき、リアナの家にあの人物が入って来た。
そう、あの全身白タイツの男が・・・

「勇者はキミ達の目の前にいるよ。」

「変態N!!」

「・・・ドクターNだ・・・」

「なんじゃ、この変態は・・・」

「・・・ドクターNだっちゅうのに!!」

やはり初めて見る人にとっては、この全身白タイツは衝撃的なようだった。

「それで変態、勇者が目の前にいるってどういう事だ?」

「言葉通りだ。
 リアナ、キミがその勇者なのだよ。」

やはりこの人物の言う事は衝撃的な事ばかりだった・・・

「ドクター、それは本当なのか?」

「本当だ、スラップ。
 そして君は無事、精霊の加護を受けれたようだね。」

「おかげさまでな、それより詳しく教えてくれ。」

「ああ、キミ達は勇者であると同時に、お互い共鳴し合う力がある。
 デジュンとスラップの出会いは特に何も無かったと思うのだが、
 今回はキミ達二人とリアナの力の共鳴を感じたはずだ。」

「言われてみれば、儂は何か不思議なものを感じたのう・・・」

「まだ君達は勇者の力はほとんど無いに等しいので共鳴する事は出来ないが、
 近くに精霊が存在する事によって勇者の力は増幅され、力の共鳴が可能だ。
 そしてスラップ、キミは精霊の加護を受けた際に感じたはずだ。
 勇者としての力の共鳴が大きくなるのを・・・」

「今回オレは土の精霊の力を得た。
 そのとき確かにデジュンとリアナの力の共鳴を強く感じたな・・・」

「私は特別なセンサーが内臓されててな。
 そのセンサーのおかげで大まかではあるが、
 勇者の力、精霊の力を感知することが出来るのだよ。」

「それで今回、お主等はこの村に辿り着いた訳じゃな。」

「みたいだなぁ、変態Nも役に立つじゃないか(笑)」

「・・・次の目的地は決まっているので
 そこに向かって欲しいのだがいいかね?」

「わかった、次はどこに行けばいい?」

「次はカイリーン海域の底に行ってくれ。
 そこに精霊がいるはずだ。」

「いや海の底なんてどうやって行けばいいんだよ!!」

「安心したまえデジュン、ちゃんと手は打ってある。
 とりあえず明日の正午、先にユビナメ村の船の前で待っててくれないか。」

「了解だ、何か海に潜る策があるんだなドクター。」

「任せておけ諸君。
 それでは明日ユビナメ村で落ち合おうぞ!!」

ボムッ!!

「ぶほぶほ!!あの変態はいいかげんにしろよ!!」

「ごほっ!!いつもこうなのか?あのドクターNとやらは・・・」

「ああ、すまないな。
 いつもああなんだドクターは・・・」

「困った奴じゃのう・・・
 ところで・・・」

「あん?」

「儂がお主等が求む勇者ということじゃな?」

「まぁそういう事だな、あの変態が言うには。」

「では儂はお主等の旅に連れて行ってもらえるのじゃな?」

「腑に落ちないが、勇者だもんな・・・
 OKだよなスラップ?」

「ああ。
 だがキミはゲミル族という事を何故隠してた?」

「そうだぜ!!これから共に戦う仲間になるからには
 教えてもらうぜ!!」

「そうじゃな・・・
 お主等にはちゃんと話すべきじゃな・・・」





「・・・ということじゃ。」

「そんな過去があったのか・・・」

「すまぬな、どうしても結界の外に住む以上、
 ゲミル族と知られると面倒な事になりかねぬ故なのじゃ。」

「それはしょうがないぜ、オレだってそんな事があったら隠すもんな。」

「オマエは見たまんま不思議な生物だろうが。」

「あ?オマエはオレに喧嘩売ってんのかロンゲ!!」

「やるか?精霊の加護を受けたこのオレと。」

「くぅ・・・オレが精霊の加護を受けたら必ず仕返しするからな!!」

「やはりおもしろいのぅお主等は・・・
 儂は純粋なゲミル族ではないので魔石が無ければ魔法は使えぬ。
 だが足手まといにならぬよう頑張る故、よろしく頼むぞ!!」

「おう!!こちらからもよろしくだぜ!!」

「ああ、またこんな悲劇が起きない様に頑張ろうな。」

「さて、出発は明日のようなので、儂は少し村に行ってくるぞよ。」

「ん?じゃあオレも・・・」

デジュンはリアナを追おうとしたが、
スラップに引き止められた。

「一人で行かせてやれ・・・」

「すまぬな・・・明日の朝までには戻る。
 それまでゆっくりこの部屋でくつろいでもらって構わんぞよ。」


そう言い残すとリアナは外に出てしまった。
その悲しさが滲み出た後ろ姿を二人の目に焼き付けて・・・


「結構無理してるんだろうなリアナは・・・」

「そうだな、まぁオレ達は明日までゆっくりしようぜ。
 てか、精霊の話、詳しく聞かせろよ。」

「構わないが、リアナも一緒のがいいだろ。
 これからのオマエ等のためにもな・・・」





母上・・・
やっとこの村に眠らせてあげる事が出来ます・・・

リアナは村の隅に小さな墓を作り、花を添えた・・・
この下には母の遺骨を埋めてある。
簡易的だがちゃんとした墓だ。

そしてリアナの背後に、車椅子に乗った祖父のジグマールが現れる。
簡易的な墓を見て・・・

「それはカレンの墓か?」

「そうじゃ・・・」

「この村はオマエがいたからこそ、
 被害はこの程度で済んだ。」

「・・・・・・」

リアナは振り向かず、背を向けたままである。
それに構わずジグマールは喋り続けた。

「だからこの村に、村を追放されたカレンの墓を作る事は構わない。
 この村を救ったオマエの母なのじゃからな。」

「・・・・・・」

「そしてオマエにはこの村に戻る権利を与える。」

「・・・」

「結界が再び破られた今、より強い結界を張らねばならん。
 ワシはもうこの体じゃ、協力してもらえんか。」

「いつまでも外の世界を拒絶し続け、誰も受け入れられないようでは
 この村はそう長くはもつまい・・・。」

「リアナ!!」

やっと言葉を出してくれたと思ったら、とんでもない事を言い出した。
この村の歴史、住民、全てを否定する言葉だ。

「オマエは自分が何を言っているのかわかっているのか!!」

「ええ。
 儂はこの村に戻る気はない。」

「オマエはカレンに似、優秀な子じゃ!!考え直せ!!」

「あなたもわかっているはずでしょう。
 今この世界では何かが起ころうとしているのを・・・
 外の世界に目も暮れずゲミル族という殻に閉じこもり続け、
 魔法という力があるのにそれを世界のために使わず、
 そんな人間に、儂はなりたくはない・・・」

「あの珍獣達にたぶらかされたのか!?」

「これは儂の意思じゃ。
 もうこんな悲劇を起こさないためにも、儂はあの者達と共に旅に出る。
 この魔法の力が人々を少しでも救えるのなら儂は戦う!!」

「もういいい、オマエには失望したわ!!
 さっさと出てゆけ!!オマエなどゲミル族ではないわ!!」

「儂はゲミル族ではありません、人間です。」

最後にそれだけを残すとリアナは行ってしまった・・・
そのときのリアナの顔は何か吹っ切れたようなそんな顔であった。





薄暗い大広間でエイスという男は佇んでいた。
何かを感じているかのようにずっと・・・

「精霊の加護・・・覚醒してしまったか・・・」

そして突然エイスの体に激痛が走った。
エイスはその場で崩れ落ち、口からは大量の血を吐き出す。

「エイス様!?大丈夫ですか!!」

そこに忍装束のような服を纏った、長い金色の髪を後ろで結った女性が現れる。

「ぐぅ・・・、シャナ・・・?」

「一度お休みになられた方がよろしいのでは・・・」

シャナと呼ばれた女性に支えられ
エイスは何とか立ち上がった。

「残りの三つの場所はわかったのか?」

「『水』と『風』はわかりました。
 『火』はまだ調査中です。」

「そうか・・・
 では『水』にリヴァレ、『風』にヴァファムを向かわせろ。
 我々は結界に護られた精霊に手出しは出来ぬが、
 奴等の手に渡らないよう見張る事は可能だからな・・・」

「ですが、四天王の二人も向かわせては
 この城の警備が薄くなってしまいますが・・・」

「心配いらん。
 この状況ではしばらくデスミオス共も大人しくしているだろう。
 『上』の連中も『鍵』が揃うまでは傍観者を続けるだろうしな・・・」

「・・・わかりました。
 ではそのように手配をしておきます。」

「それと、オージを見張って置け。
 奴等が何を企んでいるのか知るためにもな・・・」

「わかりました。
 それでは・・・」

そう大広間から出ようとしたところ、
思い出したようにエイスが呼び止めた。

「シャナ・・・いつもすまんな・・・」

「いえ・・・
 失礼します・・・」

シャナが大広間から出たのを確認した後、
エイスは再び崩れ落ちた。

「私のやっていることは間違っているのかもしれん・・・
 オマエ達が生きていたら、今の私を見て嘲笑うか?
 それとも・・・」