第十話
オージ暗躍


「・・・以上が今の動きです。」

「ああ、ご苦労だったな。」

まったく人気のない海沿いの丘の上で
オージはシャナの報告を受ける。

「それと、やはりエイスはオージ様について怪しまれておりますが・・・」

「ふん、奴相手に怪しまれずに行動するのも無理というもの。
 怪しまれるのは初めから承知の上だ。」

「ですが、このままでは我々の計画に支障をきたす恐れが・・・」

「オレを誰だと思っている?
 オマエはただエイスに近づき、オレに情報を報告すればいい。」

「・・・はい、失礼しました・・・」

「つくづく上の老人共はオレに無理難題を言う・・・
 だが、所詮エイスも『鍵』を狙う身・・・
 この状況でオレに仕掛けるほどバカではない。」

「・・・・・・」

「ところでデジュン達はどこに向かおうとしている?」

「今日の朝、ユビナメ村に向かったようです。」

「次の目標は『水』か・・・
 オマエの報告では水と風に刺客を送ったそうだな?」

「はい、水にリヴァレ、風にヴァファムを送りました。」

「では、風の方に仕掛けてみるか・・・」

「では私が・・・」

「いや、いい。
 暇潰しにオレが直々に行くさ。
 丁度あの辺りに発見したのだよ、『適格者』をな。」

オージは不敵な笑みを浮かべシャナを見た。

「それでは・・・
 もう一人の『覚醒』が始まるのですね・・・」

「ああ。
 覚醒後、デジュン達へ近づけてみるか・・・」

「それはあまりにも軽率では・・・」

「くどいぞシャナ。
 オマエはいつからオレに指図が出来るようになった?」

「申し訳ありません・・・」

「・・・まぁいい。
 オマエはその刻が訪れるまでエイスの監視を怠るな。」

「了解しました。
 それでは失礼します・・・」

シャナは消え、丘の上でオージは一人になった。

「所詮、老人共とエイスの愛玩具か・・・」

そう呟き、オージもその場から姿を消した。





「なんだこの祠は・・・」

薄暗い祠を何者かに導かれ歩くスラップ。
そして入口から100m程歩いた先にそれはあった。

「よく来たね・・・」

そこにはうっすらと黄色く輝く少年がいた。

「あんたか、オレの頭に直接話しかけて来たのは・・・」

「久しぶりだね。
 あ、といってもキミには以前の記憶がないのか。」

「一体・・・何を言っている?」

「キミの前世・・・
 そう、ボク等精霊の加護を得てガイアを封じたとされる
 伝説の勇者の一人『リューネ』・・・
 キミはリューネ同様、大地の精霊のボクの力を得てもらう。」

「オレはそのリューネとやらの転生した姿であるから、
 前世同様あんたの力を貰えるのか・・・」

「ああ。それにしてもキミはリューネとそっくりだね。
 格闘術が得意であるところといい、ね・・・」

そう言い精霊はスラップをジロジロ見る。
「・・・何が言いたい?」

「なんでもないよ。
 さぁ世間話はここまでだ。
 キミの仲間が今ガイアの手下と戦っているんだろう?
 手遅れにならない内にボクの手を握って。」

そう言うと大地の精霊はスラップに手を差し伸べた。

「それだけで精霊の加護とやらが受けれるのか?」

「ああ。
 でも、ボク等精霊の加護は所詮キッカケに過ぎない。
 多少パワーアップはするが、その後はキミ次第・・・」

それを聞き、スラップは精霊の手を握る。
精霊の手はとても暖かく、今まで感じたことのない虚ろな存在に感じた。

「さぁ、これで終わったよ。」

そう言われスラップは手を離し、自分の体を確かめる。

「確かに特に何も変化は無さそうだな。」

「そうだね。
 スラップ、どうかこの世界を救ってあげてくれ・・・」

「ああ。
 必ずガイアを倒し、この世界を平和にしてみせる!!」

「・・・・・・。
 キミ達は先代の勇者達のように、この世界の真相、未来を知ることになる。
 それでも決して挫けずに頑張って欲しい・・・」

「世界の真相?
 それは一体・・・うわっ!?」

精霊の姿がゆらゆらと揺らぎ、今にも消えそうであった。

「それはいずれ分かる・・・
 頼んだよ・・・」

精霊は跡形も無く消滅し、祠は元の闇に包まれた・・・





「・・・という事があったんだよ。」

三人は早朝にリアナの家を出発し、ユビナメ村に向かう中、
スラップはデジュンとリアナに自分が経験した精霊についてを話していた。

「なるほど、そんな事があったのかぁ。」

「あの村の精霊が儂等にとってそんな重要なものだったとはのぅ・・・」

「ああ、まぁオマエ達もいずれ経験すると思うが参考までにな。」

「しっかし、オマエだけずるいよなぁ。
 オレがそこに行けばオレが加護を受けれたんじゃねぇの?」

「いや、その大地の精霊はオレの前世にも加護を与えていたらしい。
 だからそいつが転生した姿のオレも、前世同様に大地の精霊の加護を受けるのが自然じゃないか?
 精霊が呼び掛けたのはオレだけだったみたいだしな。」

「そうじゃのう。
 精霊との相性もあり、誰でもいいという訳ではなさそうじゃ。」

「くっそー!!
 次はオレが精霊の加護を受けてぇなぁ!!」

「お?
 ほれ、そうこうしているうちにユビナメ村らしきものが見えたぞよ。」

リアナの指差す方向に、村が見えた。
海の近くだけあって船もたくさんあり、漁師達が忙しく作業するのが見える。

「おほー!!
 もうそろそろ昼だろ?この村で昼飯にしようぜ!!
 獲れ立ての魚とかうまそうだ!!」

「そうじゃのう。
 朝から歩きっぱなしで儂も腹が空いたわ。」

「じゃあ昼飯といくか。」

「おい!!あんたらだよ、そこの二人。」

「ん?なんじゃ?」

突然、漁師の男に声を掛けられる。

「あんたらだな、丸い珍獣連れた二人組みは。
 全身白タイツの変態からあんたらに手紙を預かっているんだが。」

「な・・・!?
 二人組みじゃなくて三人組みだ!!」

怒るデジュンを余所にスラップが答える。

「すまない、その変態からの手紙を見せてくれないか?」

「これだ。
 確かに渡したからな、そんじゃ。」

三人は渡された手紙を読んだ。

すまない、少し野暮用で私は同行出来なくなった。
船の手配は済んでいるので、港にある『シェイド丸』に乗ってカイリーン海域まで行ってくれ。
そして海底に潜る手段も船長に伝えてあるので、よろしく頼む。
ドクターNより

「土壇場で怖くなって逃げたんかあの変態は・・・」

「ふむ、あの船ではないのか?
 シェイド丸と書いてあるが・・・」

「な!?
 本気であの船なのか・・・?」

ドクターNより指定されたシェイド丸は
かなりオンボロであり、とても三人は乗りたいとは思わなかった。

「絶対沈みそうな船だよな・・・」

「オラの船が沈む訳あるか!!」

「はぶっ!!」

デジュンはヒゲをもっさり生やした体格のいい男からゲンコツをもらった。

「あんたは?」

「オラはシェイド丸の船長を務めるゴロンだ。
 話は聞いている、乗りな。
 もちろん昼飯も用意してある。」

「用意がいいな、今回のドクターは・・・」

「失礼じゃが、本当にあの船は大丈夫なのか?」

「お嬢ちゃん、船も男も見た目じゃないんだぜ?
 オラを信用しろ。必ず目的地まで連れてってやるよ。」

「まぁいいか・・・
 何か秘策があるんだろうし、乗せてもらう事にするよ。
 行くぞデジュン。」

「あ、ああ・・・」

なんでオレはいつもこんな役ばかりなんだ・・・
デジュンはつくづくそう感じずにはいられなかった。

デジュン達が船に乗る事を遠くから確認する白タイツの人間。

「すまんな・・・
 今回は別件で一緒に行く事が出来ん。
 なんとか頑張ってくれよ・・・」

そしてデジュン達は精霊を目指しカイリーン海域に向かう。
ガイア四天王の一人が待ち構えているとも知らずに・・・