第六話
訪れる悪夢


深い森の中を歩く人間一人と珍獣一匹

「おいおい、こんな森の中に村なんてあるのかよ・・・」

珍獣は文句を言いながら歩いていた。

「ああ、確かこの森には古くから伝わる一族が・・・」

「お!?なんか村っぽいのがあるぜ!!」

そういうとデジュンは前方に見えるある村に走っていった。

「おい待て!!」

スラップの声空しく、デジュンは何かに吹き飛ばされ、
スラップの目の前に転がってきた。

「だから言っただろう・・・」

「な、なにが起こったんだ!?また衝撃の何とかか!?」

「この村には、古より古代魔法を扱う種族が住んでいるんだよ。」

デジュンに手を差し伸べ、スラップは続けた。

「ここに住む連中はな、こうやって結界を張って
 完全に外界との接触を断っているんだ。」

「なんでそんな事するんだよ。」

「滅びたはずの古代魔法、それを扱えるのはここの『ゲミル族』だけだ。
 ゲミル族はかなりプライドが高く、外界の人間との接触を嫌う。
 だからこうやって結界を張り、この土地、そしてゲミル族としての誇りを守り続けているんだよ。」

「オマエ、結構物知りなんだな・・・
 ただの格闘バカかと思ったが(笑)」

「オマエと一緒にするなよ・・・

スラップはネコフン村に向き直った。

「もし、ここに勇者や精霊がいるとしても
 中に入れないんじゃどうしようもないよな・・・」

そのとき、後ろに何者かの気配を感じた。

「誰だ!!」

二人が振り向いた先には白いワンピースの女性がいた。
肩くらいまであるブロンズの髪がとても美しく、
かなり美人である。

「お主等こそ誰じゃ」

「オレはスラップ、この丸い奴はデジュンていうんだ。」

「ほぅ・・・それで、お主等ここに何の用じゃ?」

「オレ達、旅の途中でよ。この森で迷っちまったんだ。」

今でも怪しまれてるのに
オマエが言うと更に怪しまれるだろうが!!
と、スラップは心の中で叫んだ。

「ふむ・・・」

そう女は少し考えた後

「もう日が暮れる頃じゃろう、儂の家に来んか?」

突然の言葉に二人は唖然とした。






「そういえば自己紹介が遅れたのう」

ネコフン村から割と近い所にある小さな家
スラップとデジュンはそこに招待され、
彼女から差し出されたお茶を飲んでいた。

「儂の名はリアナ=フェズリールじゃ。
 見ての通り、ただの女じゃ。」

「ではこちらも改めて自己紹介しよう、
 オレはスラップ=トーラーで
 こいつがデジュンだ。」

「よろしくな!!」

さて、とスラップは話を続けた。

「なんで初対面のオレ達にこんな親切なんだ?」

「ふむ、その前にこちらから聞いてもいいかのう?」

リアナはお茶を一口飲み、続けた。

「お主等、あそこの村に何の用じゃ?」

まさに的中でデジュンは口に含んだお茶を噴出した。
そんなデジュンをよそにスラップは冷静に答えた。

「よくわかったな・・・」

「こんな深い森の、小さな村に来ると言えば、あの村しかあるまい」

「そんなしょっちゅう誰か来るのか?」

「ゲミル族の古代魔法の技術、永年祀られている精霊、
 あそこに行くといえばそれが目的しかあるまいて。
 今までもそれを狙う奴らがしょっちゅう来てな。」

「なるほどな、やはり研究者とかが来るのか?」

「研究者もおれば、ただ純粋に魔法を力を得たいがために来る者もおる。
 しかし、ゲミル族は何人であろうと村には入れぬ。」

「そうか・・・何とか中に入れさせてはもらえないのか?」

「無理じゃな、どんな理由があるにせよ無駄じゃ。諦めるがよい。
 して、如何な用じゃ?」

「それは・・・すまない、言えないんだ」

「素直に勇者探しに来たって言えばいいじゃねぇか(笑)」

空気が読めず突拍子もない事を言い出したデジュンは
スラップに殴り飛ばされた

「バカかオマエは!?そんな事言って逆に混乱させるだろうが!!」

「オマエは回りくどいんだよ!!このロンゲがぁ!!」

そんな二人のやり取りを見たリアナは

「ぷ・・・あははははは!!」

「ん?」

突然のリアナの大爆笑に二人の喧嘩は収まった。

「いやいや失敬、お主等があまりにも面白くてのう。」

「はあ」

「何故かお主等を初めて見た瞬間、今までの連中とは違うと思ってな、
 こうやって話を聞いてみたいと思ったのじゃ」

「かなり変わり者だな、あんたは」

「いやいや、お主の方が変わり者だから。丸いし。」

「まぁそれはそれで、どうしてもあの村に用があるんだが、
 何か良い方法はないか?」

「ふむ、難しいのう・・・
 先程も言った通り、ゲミル族はああいう種族だからのぅ。
 出来れば儂もお主等なら手伝ってやりたいのじゃが・・・」

そのときだった。
ネコフン村の方から凄まじい爆音が聞こえたのは。

「な、なんだ!?」

「おい!!ネコフン村が燃えているぞ!!」

「あ・・・な、なんてこと・・・」

突然の出来事にリアナは放心状態だった。

「まさかガイア・・・なのか!?」

スラップの言葉を聞いてか
リアナは家から飛び出した

「おい!!くそっ、追いかけるぞデジュン!!」

「いや、まだお茶が残ってるからしばし待て。」

「いいから早くしっろっ!!」

スラップは家の外にデジュンを蹴り飛ばした。






「ふん、こんなちんけな結界などオレに掛かれば軽いものよ。」

ゲミル族の結界はアシュラの不思議な術で
爆発と共に消え失せた。

そして突然の来訪者達にゲミル族は驚きの顔を隠せなかった。

「貴様何者だ!!この村に何か用か!?」

「さぁ?これが命令なんでな・・・殺れ」

アシュラの号令が出ると同時に多数の武装した黒服の手下達は
ゲミル族を殺すべく向かって行った

「問答無用ならこちらも容赦はしない!!」

そう言うとゲミル族は一斉にアシュラ達に向かって
呪文を唱え始めた

「む!?」

アシュラの足元から突然炎が立ち昇り、
そしてそれは大きな火柱となって黒服達も巻き込む。

「やったか!?」

「ゲミル族の同時一斉魔法だ!!これで灰にならん奴はいない!!」

しかし、その大きな火柱が一気に消し飛んだ。

「な・・・まさか!?」

そのまさかである。
アシュラは鎧に多少の焦げはあれど、身には焦げ一つなかった。

「ふん、ムシケラにしてはなかなかやるじゃないか・・・
 おかげで手下は黒焦げ、オレの鎧も黒焦げだ。」

「き、貴様は一体・・・」

「これから死ぬ奴に名乗る必要があるか?」

「く・・・みんな!!一気に仕掛けるぞ!!」

「いいぜ、来いよ。
 そちらから向かって来た方がオレも楽だぜ。」

そう言うとアシュラは6本の腕に剣を持ち構えた。







「はぁはぁ、これは・・・!?」

リアナが村に着いた直後、見にした光景は凄まじく、
誰もが目を背けるであろう惨劇であった・・・

「な、なんじゃこれは・・・」

ゲミル族が一人の男に向かう度に真っ二つにされ、
その男の足元には何人もの、両断にされたモノが転がっていた。

「や、やめろ・・・」

リアナは声を何とか出そうとする。

「やめるのじゃ・・・」

だがあの鬼神のごとき男には届かない。

「ヒャーッハッハー!!どうした!!こんなもんかよ!?
 所詮、結界の中に引き篭るしか能がねぇ種族なんか目じゃねぇんだよ!!」

「やめろーーーーーーーーーーーーー!!」

「あん?なんだあの女は?」

リアナのやっと出せた大きな声に、アシュラはその存在に気付いた。

「ふん、女だろうと容赦はしねぇぜ・・・!!」

そう言うとアシュラはリアナの元へ凄まじい勢いで走り始めた。

「く・・・」

リアナは敵わないと知りつつも構え始めた。

皮肉なものじゃな・・・
儂等を蔑んできた者達を庇う事になろうとは・・・

そう思い、覚悟した瞬間・・・

「ぐはっ!!」

アシュラの頭上にデジュンが落ちてきた。

「いってー!!あのロンゲぜってーぶっ殺す!!」

デジュンはそう呟いたあと、自分の下に倒れているモノを見た。

「ん?誰だこいつ?」

「がぁー!!」

アシュラは勢いよく立ち上がり、デジュンは転がった。

「貴様・・・貴様だけは楽には死ねんぞ・・・!!」

「お?お?一体何が??」

やはりこの緊迫した雰囲気には
この丸い生物は似合わない
この場にいる誰もがそう思った・・・