第十七話
刻印という名の呪縛


「いっくぞぁぁぁぁ、ソール=ゲイン!!」

「来い、デジュン・・・!!」

デジュン目掛け振り下ろされる大剣、
デジュンはその剣の腹に一撃を放つ。

ソールは大剣ごと後ろへと体を持って行かれる形となり、
デジュンは更に大剣を握る腕を思い切り蹴り上げた。
そして大剣はソールの手から離れ、

「ちぃっ!!」

「やらせるかよ!!」

デジュンは更に剣を空高く蹴り上げた。
そしてその反動を利用しソールの懐へとデジュンの拳が炸裂する。

「しゃあっ!!どうだ!?」

ソールは岩壁へと吹き飛ばされた・・・

はずであったがそこにはソールの姿はなく、

「落ちろ・・・!!」

「な、テメェ!!」

デジュンは頭を掴まれ、そのまま地上へと叩き落される。



「あちゃ〜・・・途中までは良かったんだがな。」

「このままではまずいぞよ・・・」

「ん?何がだ?」

「このままでは耐熱魔法の効果が切れる。
 今はソールなぞに構わず精霊を探すべきなのかもしれぬ・・・」

「今回の精霊はデジュン、奴しか精霊の居場所はわからない。
 ならば奴を精霊探索に行かせ、オレ達がこの場を何とかするしかないんだが」

「あの調子では無理じゃのう・・・
 儂等が手助け出来る状況ではないし・・・」

上空より落下してきた大剣をソールはキャッチし、
再び大剣の先をデジュンに向ける。

「く、くそぉ・・・
 なんて素早い動きなんだ・・・」

「立て・・・
 貴様の力はこんなものではないだろう・・・」

「ったりめぇだぁぁぁ!!」

二人は再び激しい攻防を繰り広げながら上空へと上って行く。


「イーフェイル様、今がチャンスかと・・・」

「分かっている、分かっているのだ・・・」

イーフェイルは何かスイッチのような物を握り、
スイッチを押すのを躊躇っている。

「エイス様の命令とはいえ・・・
 このような汚い真似など・・・!!」

「ですが確実に仕留めるためには・・・」

「・・・えぇい!!
 このような汚い方法で殺される事、
 恨むなら私を恨めよ・・・!!」

イーフェイルは意を決し、力強くスイッチを押す。
スイッチが押された直後、上空で凄まじい爆発が起こった。

「な・・・!?
 デジュンとソールが!!」

「突然爆発・・・じゃと?」

上空で戦っていたデジュンとソールの突然の爆発、
あまりに突然すぎたためスラップとリアナは状況を飲み込めずにいた。

「マジかよ、おい・・・
 デジュン!!返事しろ!!聞こえてるんだろ!!」

スラップの声空しく、スラップの下へ返って来るのは爆発した物の残骸のみ・・・
そこにデジュンとソールの姿は無かった。
いや、この黒い焦げた残骸こそが二人なのか・・・

「こんな、こんなのってないよ・・・
 こんな・・・デジュンが・・・」

リアナはその場で泣き崩れた。
スラップも涙を流した、が静かにイーフェイルの方へと向き、

「テメェか・・・!!
 きったねぇ真似しやがって・・・
 よくも、よくもデジュンを!!」

「こちらとしても不本意・・・いや、やめておこう。
 我が名はイーフェイル、四天王が最後の一人である!!  まとめて掛かって来るがいい!!
 ここで貴様等の息の根、止めてくれる!!」

「うるせぇ喋るんじゃねぇ!!テメェは絶対殺す!!」

スラップはその拳をイーフェイルへと放つために、
デジュンの仇を取るために、立ち向かう。

「それでいい・・・
 プラズマァァブレイィィィク!!」

イーフェイルから放たれた雷はスラップの体を突き抜ける。

「がぁ・・・!!」

「スラップ!!
 く・・・これ以上儂の仲間を死なせはせぬ!!」

リアナは属性風を司る魔石を右手の腕輪にはめ、

「奴を切り裂け!!レベル10発動!!」

「ぬるいわ!!」

スラップがされたように、
雷は魔法とリアナ自身を突き抜いた。

「ああぁぁああっ!!」

「どうした、こんなものか!!
 これが勇者の力なのか!!」

「ちっくしょう・・・」

「儂等では無理なのか・・・」

二人は満足に立ち上がる事も出来ず、涙を流した。
勝てないのが悔しくてじゃない。デジュンが殺され、
何も出来ない無力な自分に悔しくて・・・

「違うな・・・」

スラップは何とか立ち上がり態勢を整え、続けた。

「奴は死んじゃいねぇ・・・
 オレは信じる!!あいつを!!」

「そうじゃな・・・
 今もそこらへんで倒れておるはずじゃ・・・」

「ああ・・・
 だからっ!!こいつをさっさと倒して・・・」

「デジュンを探す!!行くぞよスラップ!!」

リアナの回復魔法で二人の体は完璧とは言えないが回復した。

「その意気や良し!!
 何度でも私の雷で貫いてみせるわ!!」

(このような奴等に私は汚い手を・・・
 せめてもの情けだ、苦しまぬよう殺してやる・・・!!)

「破岩拳、くらぇぇぇぇぇ!!」

「母上、儂に力を貸して下され・・・
 風と地、レベル20、ダブル魔法発動!!行けぇぇぇ!!」

「これで決めるぞ!!
 サンダァァァァストォォォォム!!」





「ソール、オマエももうすぐ10歳になるんだろ?」

「5日後・・・ジュックが10歳になった2日後にな。」

「てことはたった一つの"刻印"、  オレが頂いちゃうことになるな〜」

「オマエには無理だ」

「オマエそんな事言う?
 見てろよ、ぜってーオレが英雄になってやるからな!!」

オレの村には男子が10歳になったとき、
刻印が刻まれた金色の眼球を右目に移植するという儀式がある。

この"刻印"を持つ者は神に選ばれし者だそうだ。
眼球を移植する前の子供達の間では、この世界を護る英雄になれると言われている。

その眼球を移植し、拒絶反応を起こさなければ
晴れてその村"限定"の英雄となれる訳だ。

だが拒絶反応を起こせば刻印付の眼球は早急に抜き取られ、
元の眼球は神への贄とされる。
そして儀式に失敗した子供は片眼で生きて行くことになるのだ。
今までこの眼球に選ばれた者は誰一人としていない。
それは即ち、この村の男は全員片眼ということになる。

そもそも、この刻印付眼球がどこから手に入れたのか、
移植する事自体が間違っているのではないか、
オレは憧れより、疑問と不信感の方が大きかった。

そしてオレの儀式の前にジュックの儀式が訪れた。
結果は言うまでもなく、駄目であった。

ジュックが失敗したとなれば次にはオレ、
オレが失敗すればまた次の子供へと、
"英雄"が見つかるまで永遠に繰り返される。

「馬鹿らしい・・・」

他の子供は英雄に憧れ、そしてその夢は当たり前に打ち砕かれる。
オレは英雄になりたいとは思わない、刻印に選ばれる訳もない、
やっても無駄ならオレの片眼を無駄にしてまで儀式などやりたくもない。

そう思っていた・・・
オレの10歳の誕生日、その"夢"は無残にも打ち砕かれる・・・

「お、おおおおお・・・
 ついにこの時が来たのじゃ・・・!!」

「ソール大丈夫?痛くは・・・無いの・・・?」

「ソール、オマエは神に選ばれたんだ・・・
 オマエの父である事が今日程誇りに思った事はない・・・」

オレは、どうやらこいつらの言う"神"とやらに選ばれたみたいだ・・・
下らない・・・だがオレが選ばれたおかげで、この儀式は今日で終わるのだ。
まったく嬉しくない・・・下らない、下らない、下らない!!
オレは横で泣いている父と母を、刻印が刻まれたこの新しい右目で睨んだ・・・





「あ〜あ、結局オレはダメで、オマエが選ばれちまったかぁ・・・」

ジュックは包帯で隠された右目を撫でながらそう言う。

あの日から金色の瞳は、オレの本来の瞳の色になり、
本来持ってた瞳と変わらない様で、とても儀式を行ったとは思えなかった。
だがこいつの右目はカラッポなんだ・・・

儀式で得たもの、ジュックは"黒い"目。
オレはこの新しい目・・・

「まったく嬉しくないさ・・・
 こいつに選ばれてからが大変なんだよ。
 村の連中には変な特訓はさせられるしな・・・」

「良いじゃねぇか。なんたってオマエは英雄だぜ?
 神に選ばれた人間なんだぜ?」

「・・・・・・」

このオレの右目にはめられた眼球に拒絶され、
片目を失ったこいつ、いや今までの男達に比べればオレはマシなのかもしれない・・・

だがこれのおかげでオレの村は崩壊する事になる・・・

「た、大変だ村長!!
 武装した集団がこの村に!!」

「何!?
 ・・・まさか目当ては"刻印"か!?」

「このタイミング・・・
 それしかありえねぇ!!
 奴等、"扉"がどうとか言ってやがった・・・」

「いかぬ!!
 長年待って現れた子・・・
 奴等に渡してはならぬ!!」

オレが刻印に選ばれてから数日後、
100人近い集団が村に攻め込んできた。

大人の男達は謎の集団と戦い、
オレ達子供や、女、老人は村長の家の地下へと隠れた。

「なんで、なんでこんな事になったんだよ・・・」

「オレの親父から聞いた話なんだけどよ、
 奴等、どうやら刻印に選ばれた者を狙っているらしいぜ・・・」

「じゃ、じゃあまさか奴等はソールを・・・?」

刻印に選ばれなかった子供達、儀式すら出来ずにいた子供達、
それらは皆オレを、この右目を見た。
そいつらの目は、オレとこの右目がこの戦いの原因だと静かに語っている。

オレか?オレがいけないのか?
オレだって好きでこんな物を得た訳じゃない!!

「みんな止めろよ!!
 今はそんな事言ってる場合じゃねぇだろ!!」

「ジュック・・・」

「安心しろソール・・・
 オマエを悪く言う奴はオレが許さねぇ!!」

「すまない・・・」

そのときだった、天井が剣や色々な刃物に貫かれ、
その隙間から光が降り注ぐ。

「ま、まさか見つかったんじゃ・・・」

「どうするんだよ!!
 こ、こ、こんな所、逃げ場も何もないぞ!?」

そして天井は見事に破壊され、一斉に集団はオレ達の所へ駆け寄る。

「おい貴様等、この中に刻印に選ばれたガキがいることは知っている。
 さっさと渡せ。」

単刀直入であった。
そして集団の何人かが剣をこちらに向ける。

「ガキ供をカタっぱしから調べてもいいんだが、
 こちらも時間が惜しいのでな・・・」

リーダー格の男が合図し、その部下が右端の子供の頭を剣で貫く。

女、子供、老人は一斉に悲鳴を上げる。
そして更に、殺された子供の左の老人も頭を貫かれた。

「騒ぐな!!
 右から順に殺してゆく・・・騒いでも殺す。
 見つかるまで殺してゆくからな、
 殺されたくなければさっさと教えろ。」

それ以降、誰も喋らなくなった。

最初に殺された子供は右目が無い。
奴らは刻印所持者を殺してしまわないように、まず右目が無い男、女、老人を殺すつもりだろう。
こちらが刻印所持者を教えなければ、右目が存在する男以外を殺せばいいのだ。
所持者かどうかは後でゆっくり調べればいい。
どちらにしても所持者はバレる。違いは犠牲者が出るか出ないかだ。
いや、教えたところでこの雰囲気では・・・

だがそんなとき、

「ソール・・・
 あなたはここから逃げなさい。」

オレの隣にいた母親が囁く。
『私が時間を稼ぐからそのスキに』と・・・

一体どうやって?
まさか命を捨てる気か?

今まであんた等は刻印、刻印で親らしい事をしなかったくせに、
こういうときだけ親気取りか?
いや違うな!!あんた等は下らない崇拝心でこの"眼球"を守りたいだけなんだ!!

だがオレはこんな所で死にたくはない。
だからあんたがそう言うなら、オレはあんたを犠牲にさせてもらう!!

そして母親が立ち、母が言うスキとやらを作ろうとしたときだった。
同じようにジュックも立ち上がり、

「なんだ貴様?
 もしや貴様が刻印付か?」

「ち、違う・・・
 でも刻印を持ってる奴なら・・・知ってる・・・」

ジュック!?
まさか・・・オレを・・?

「ほぅ・・・
 どいつか教えてもらおうか?」

「そ、それは・・・」

「それは?」

「あいつだ・・・あいつが刻印の!!」





「!!!!!!」






「ここは・・・?」

「!!」

「く、っがぷぁ・・・!!
 ぐぐ、オレは・・・生きているのか?」

口、腹部から血を流しながらソールは辺りを見回す。
下はマグマ、ソールは岩壁に突き刺さった大剣にぶら下がっている状態だ。

「そうか・・・奴のおかげで・・・
 奴は・・・?」

つま先の辺りに違和感を感じる。
目が霞んでよく見えないが、丸い生物が見える・・・
デジュンか?

「う、うう・・・」

どうやら奴のおかげで、お互い助かったみたいだな・・・