第十四話
疾風が如く


ガイアがいると言われる部屋にエイスはただ立ち尽くしていた。
エイスは気が付いていた。

勇者の生まれ変わりの一人が既に『風の精霊の加護』を得ている事を・・・

「何もかもが繰り返しか・・・」

そこへ一人の赤いバトルスーツを纏った男が現れる。

「イーフェイルか・・・
 オマエには城外の警備を任せたはずだが?」

「エイス様、失礼を承知で意見させて頂きます。
 エイス様は本気で今の状態を何とかしようという考えはあるのでしょうか?」

「何を・・・?」

「私はデスミオスや上の連中より、今はデジュン達を
 一刻も早く抹殺するべきだと思います!!」

「・・・・・・」

「我々四天王が『影』ではなく、『本体』で出向けば手っ取り早いはず!!
 何故それをなさらず、回りくどい事をなさるのですか!!」

「オマエ達四天王は精霊同様、ガイア様より生み出された存在だ。
 それは四天王本体は精霊を入れるための『器』にもなり、
 上の連中との戦での重要な戦力でもある・・・
 万が一の事も有り得る。ここでオマエ達を失う訳にはいかんのだ・・・」

「しかし・・・!!
 昨今ではデスミオスの動きが活発になりつつあります!!
 このままではここの警備も・・・」

「安心しろ、デスミオスはまだ本格的には活動しない・・・
 刻が訪れるまで待つのだ・・・」

「それは・・・ガイア様の意思なのですか・・・?」

「無論だ・・・」

しばしの沈黙の後、

「分かりました・・・
 それでしたらもはや何も言いません・・・」

そう言い残しイーフェイルは部屋を出る。

「・・・ガイア・・・様の意思、か・・・」





ドンダケのあるレストランにて・・・

「どうだい、ここの名物ドン茸は?
 ここドンダケはその名の通りドン茸の名産地でね。
 更にこのレストランはドン茸料理で特に評判なんだよ。」

「お〜なかなかイケるぞこれは!!
 変態もなかなか良い店知ってるな!!」

「ふむ、儂の村にもこんな美味なキノコはなかったのう・・・」

「いやいや、ドン茸てシャレかよ・・・
 それより真面目な話に来たんじゃねぇのか?」

料理にがっつくデジュンとリアナと別に
スラップはかなり冷静だった。

「食えるときは食っとけよスラップ〜」

「黙れ珍獣。第一オマエの体のどこにそんな食べ物が入ってくんだよ!?
 リアナもだ!!年頃の娘がはしたないだろ!!」

「お主、カッカとしすぎだのぅ・・・」

「HAHAHA!!
 じゃあそろそろ話そうか、これからの事を。」

そうドクターNが切り出すと二人は真剣な表情になった。
デジュンは相変わらず料理にがっついてたが・・・

「まず残りの精霊、『火』と『風』なんだが・・・
 両方場所は発見出来たのだが、不思議なことに
 風の精霊の反応が突然ロストした・・・」

突然の発言に二人、デジュンは食べるのを止め、
驚きを隠せなかった。

「そ、それはどういうことじゃ!?
 まさかガイアの手下が・・・?」

「いや、基本的に精霊の祭壇へは選ばれた者しか入る事が出来ない。
 それはガイアの手の物でもそうだ。精霊を殺す事など不可能。
 だからこそ基本的に奴等はキミ達が精霊の加護を得ないよう、
 先に祭壇を発見し、キミ達が来るのを待ち伏せするくらいしか出来ない。」

「じゃあなんでなんだよ!?
 精霊が一つでも欠けたら戦力ダウンじゃねぇか!!」

「落ち着けデジュン。
 ドクター、オレ達のように勇者の生まれ変わりが
 その精霊の加護を得たという可能性は?」

「その可能性が高い、いやそれしか有り得ない。
 精霊は加護を与えたら、しばらくは力が弱る傾向があるからな。」

「儂等以外の者が精霊の加護を得たという事か・・・
 ではその風の精霊の加護を得た者を探し出さねばならぬのぅ。」

「まだ確実にそうだとは言い切れないが、
 しばらく私も風の精霊に関しては調べてみる。
 キミ達は明日にでも火の精霊の探索に向かって欲しい。
 火の精霊の場所はここだ。」

そう言いドクターNは地図を差し出した。

「ここって・・・?」

「さすがスラップ君だね。
 旅をしているだけ地理は詳しいみたいだ。」

「オマエてリアナの村に関しても詳しかったよな。」

「まぁ修行のために色々な所回ってたしな・・・
 ちなみにここは有名な火山、『ブリリード山』だ」

「火山て・・・Σ(゚Д゚;エーッ! 」

「火山とは・・・
 さすが火の精霊といったところかのう。」

「ドクター、さすがにこれは厳しいぞ・・・
 何か策はあるのか?」

「キミ達、リアナ君の魔法があるではないか。
 私の目算ではリアナ君の耐熱魔法の持続時間は2時間程だと思うのだが、
 どうだねリアナ君?」

「まったくその通りじゃな。
 じゃがこの魔法はかなりの魔力を消費してしまう。
 今の儂の魔力でも一日四回しか使う事が出来ぬ。」

「魔法の使用回数が限られてるてことは、
 恐らく火の精霊の適格者であろうデジュンと
 魔法を扱うリアナの二人が好ましいんだが・・・」

「ガイアの手の者がいると思われる以上、
 ここは三人で行くべきじゃろうな。」

「私もその方が安全だと思う。
 さて・・・私はそろそろ行くとするよ。」

そう言いドクターNは席を立った。
そして懐からお金を出し、デジュン達に渡す。

「ここは私の奢りだ。これを使いたまえ。」

「お〜変態気前がいいな。」

「HAHAHA!!
 キミ達には頑張ってもらっているからね。
 これくらいはお安い御用さ。」

「ふむ?儂の見間違いなのか、
 ドクターNのお金、かなり不足しているように見えるのじゃが・・・?」

「HAHAHA!!
 それでは諸君、頑張ってくれたまえ〜」

ぼふぅん!!

「ぐぅほぉえ!!
 変態めこんなレストランで煙球かましていきやがった!!」

「・・・それより、ここの料理、
 結構な額なのじゃが・・・」

「・・・ドクターの金とオレ等の金合わせて・・・
 かなりギリギリで行ける・・・か?」

「くっそーーーーーーー!!あんヤロー!!
 今度会ったらぜってぇタダじゃおかねぇ!!」





『その刻印の力は回りの者までも傷つけてしまう代物なんだぞ!?
 オマエはそれを判ってて使ったのかよ!!』

これはオレが生きているという証であり、
オレの謎を解く手掛かりでもある・・・
それを否定されるのであれば・・・

『貴様のようなガキには過ぎた代物だよ・・・』

こんな物がオレの体に無ければ・・・

『この世界のどこかに存在する  神の世界へと続く扉を探しなさい・・・
 そこに全ての答えはあるのだから・・・』

もっと普通に生きていられたのかな・・・

『キミに僕の力をあげるよ。
 そして三人の仲間を探し、キミのやるべき事を見つけるんだ。』

仲間だと?オレに仲間等いらん。
それはあの二人も同様、仲間などではない。
オレはいつだって一人だ。
それはこれからも変わらん・・・

『それがキミに定められた運命なのだから・・・』

運命・・・オレが生まれたのも運命だと・・・?
馬鹿馬鹿しい・・・オレがここにいるのは運命ではない・・・

「これはオレの意思だ!!」

ソールの視線の先にはオージから見せてもらった写真の奴等がいた。
そしてソールは背中に背負った剣を握り締め・・・

「まったくよぉ、今夜の宿どうすんだよぉ!!
 残りの金じゃロクなとこ泊まれねぇぜ?」

「お主、まったく金を持ってなかったくせに
 よくそんな事が言えるのう・・・」

「まったくだ・・・
 ちょっとそこらへんでバイトでもしてきたらどうだ?」

「大体あの大会で邪魔が入らなければ
 スラップ倒して優勝して今頃大儲けだったんだよ・・・
 あ〜なんか借金があったような気がするが時効だよね?よね?」

「オマエじゃオレには勝てんぜ?
 て借金て一体何!?」

ガキィィィィィン!!

「・・・・・・」

「いきなりなご挨拶だな・・・!!」

突然の謎の男の攻撃をスラップは何とか受け止めた。

「おうおうおうおう!!
 一体何が起きたんだよ!!」

「お主ガイアの手の者か!?」

「オレはある者に依頼され貴様等を始末しに来た・・・
 それだけの事だ・・・」

「始末て穏やかじゃねぇな・・・
 第一その依頼者てのがガイアの手の者じゃねぇのかよ!!」

「貴様等には関係の無い事だ・・・
 さぁどいつから殺されたい?
 三人まとめて来るか?」

「なめやがってぇぇぇ!!
 おいスラップ、こいつはオレにまかせろ!!」

「まかせろってオマエ、無理だろ!!」

「大丈夫だ!!こんなナメた野郎オレがやってやる!!」

「こやつはこうなったら聞かぬしな・・・
 スラップ、ここは任せてはどうだろうかのう。」

「はぁ・・・わかったよ。こいつはかなりの腕前だ。
 やばくなったらすぐ変われ、いいな?」

「ああ!!さぁ行くぜ・・・
 て、まず名前を聞こうか?」

「ハンターのソール=ゲイン・・・
 戦闘レベル、ターゲット確認・・・
 オマエを・・・殺す・・・!!」

それは一瞬だった。
ソールは瞬時にデジュンの懐へ移動し、その大きな剣で薙ぎ払う。

そして薙ぎ払うと同時に、
ソールが移動した際に生じたと思われる豪風がデジュンの頬を撫でる。

「くぅぅぅ!!」

デジュンは何とかソールの太刀は避ける事に成功するが、
ソールは巨大な剣を軽々と持ち直し、デジュン目掛け再び薙ぎ払う。

「あの野郎、ガイアの手の者の割には
 意外と汚い手は使わないな・・・」

「どういう事じゃ?」

「いや、最初の不意打ちは確かに卑怯と言えば卑怯だが、
 真正面からまずオレを狙ってきた・・・」

「よく意味がわからぬぞよ・・・」

「普通最初に狙うなら、始末しやすそうな女のリアナか弱そうなデジュンだよな。
 だが奴はそうはせず、オレから狙ってきた・・・」

「つまり弱者からではなく、敢えて強者から狙ったと?」

「ああ、それにこの感じはまさか・・・」

「やはりお主も感じたか・・・
 デジュンはまだ感じる事が出来ぬであろうが、
 精霊の加護を得た儂等には判る・・・」

「どうした・・・
 その程度の腕でオレに勝てるつもりか・・・?」

ソールの凄まじい速さの攻撃にデジュンは避けるのが精一杯であった。

「ちぃ!!
 あんなバカでかい剣を持ってこんな早く動けるのかよ!?」

ソールは大きく剣を振り落とし、デジュンはギリギリの所で避ける。
あまりの威力に剣は地面深く突き刺さったが、いとも簡単に剣は振り上げられ薙ぎ払われる。

だがその一瞬の隙をデジュンは見逃さなかった。

「チャーンス!!
 これでもくらいなぁ!!」

デジュンはソール目掛け猛烈なタックルをかます。
が、それもお見通しであり、ソールは瞬時にデジュンの背後へと回る。

「チェック・・・メイト・・・」

ソールの巨大な剣がデジュンの右頬に触れる。
その冷たい感触、ソールの殺気にデジュンは額に冷汗を流してしまう・・・

「はぁ〜・・・
 だから言わんこっちゃない、あのバカ・・・」

「どうするのじゃ?
 もちろん助けるのじゃろ?」

「それはそうだが
 何とか奴を説得するしかないのか・・・」

そんなときだった、一人の少女がデジュンとソールの間に割って入り・・・

「丸いお兄ちゃんをいじめないで!!」

「オマエは!?
 バカ!!危ないから早くどけ!!」

その子はユビナメ村でデジュンが助けた少女であった。
目に涙を溜め、だが決して流さずソールの目を睨み付ける。

「・・・・・・・・・」

ソールは剣を背中に戻し、

「ま、待ちやがれ!!
 まだ勝負はついてねぇぞ!!」

「・・・命拾いしたな・・・
 だが今度会ったときは容赦しない・・・」

そう言い残し、ソールは一瞬でその場から退散してしまう。

そこには静かに風が吹き、
まるで嵐の豪風が去って行ったかのようであった・・・