第二十二話
雨が上がり、私の心は


オレの村、リトリーの村は本当に何の変哲のない普通の村だった。
そんな村に奴等は突如現れたんだ・・・

「クリーチャーだ!!クリーチャーが来たぞ!!」

「くそったれがっ!!今日はいつにも増して数が多いぞ!!」

「女子供は隠れろ!!男供は武器を取れ!!」

オレ達の村にクリーチャーが現れるのは日常茶飯事だった。
だから村の男達が奴等を駆除するのはいつもの事、今日もいつものように駆除出来ると思っていた。

だが、奴等はいつものクリーチャーでは無かった。
数が多いこともそうだが、奴等は何かが違った。
そう、奴等からは何か人の意思のような・・・

「おらぁぁぁぁ!!」

男は斧を振り下ろし、それはクリーチャーの腕を切り落とす。

「イタイ、イタイヨォォォ!! ・・・タスケテ・・・タスケテヨ・・・」

「なっ!?こいつ喋るってぇのか!?」

奴等はクリーチャーでありながら人間の言葉を喋るのだ。
今までのクリーチャーはただ本能の赴くまま破壊を繰り返すだけであった。
だがこいつらは人間のように言葉を発する。助けを求めている・・・

「タスケテヨ・・・コンナノハモウ、イ、ヤ・・・ダ」

「くっ・・・こいつら何を言って・・・」

「惑わされるな!!これが奴らの新しい手かもしれん!!
殺せ!!クリーチャーは全て殺すんだ!!」

「で、でもこいつら助けを求めて・・・いるんだろ!?」

「馬鹿野郎!!余所見を・・・」

男が気付いたときには既に頭を半分食われたときだった。

「あっ!!あぁぁあっ・・・かっ・・・」

「く・・・馬鹿野郎が・・・!!
みんな惑わされるな!!こいつらはオレ達を殺す気だ!!」

「アアァァァ!!イヤ、ダ、イ゙ェアアアア!!」

「モウコロシテ、グベェァバァハガァァ!!」

村人は助けを求めるクリーチャーを殺す。
殺されるクリーチャーの断末魔・・・今でも思い出す・・・
あれは間違いなく人間だった・・・

村に現れたクリーチャーを全て殺したときだ。
奴等の体は再生した。切断された手足、潰された頭が全て元通りに・・・

「な、なんて奴等だ・・・」

再生しきった奴等は一斉に牙を剥く。
奴等の攻撃は今までのクリーチャーの比では無かった・・・

「ひゃびゃがぁぁぁあああ!!」

「ぎゃぐぎゃがっ!!」

あっという間だった、村人が殺されていくのは・・・
そしてオレの父や母も・・・

「ユナ・・・あなたはここに隠れていなさい・・・」

「何があってもここからは出るんじゃないぞ・・いいか?」

オレは両親にクローゼットの中に押し込められる。

「イヤだ、イヤだよ!!パパ、ママと一緒がいい!!」

「言うことを聞いて・・・ユナ、これをあなたに渡しておくわ・・・」

それはナイフだった。

「ひっく、ひっ・・・」

「ユナ、あなたは私達が守ってみせる・・・
それはお守りよ・・・でももしものときは・・・」

そしてゆっくりクローゼットの扉は閉じられた・・・

母から渡されたナイフ・・・
今思えばクリーチャーに襲われたときのため・・・ではない。
これは自害するためのものだ。奴等に苦しめられて殺されるよりは、自分で楽に死んだ方がマシということだろう。

扉が閉じられてからしばらくして、クリーチャーの呻き声が近くなる。
奴等がすぐそこまで来たのだ。

父と母、そしてクリーチャーの叫び声が一斉に上がる。
何かを切り刻まれる音、そして断末魔・・・

その断末魔が誰のものか・・・
オレは怖くて、耳を塞ぎうずくまって震えていることしか出来なかった・・・

ガン、ガンガン!!
ガリガリガリガリガリ!!

「ひっ・・・」

これは父や母じゃない・・・!!
これは奴等だ・・・殺される!!

そのときだった、今度は殴られたような鈍い音が・・・
その鈍い音がしばらく続いた・・・
そして静かになった頃である。

コンコン・・・

「っ!!」

先程のクリーチャーの、扉を爪で削るような音とは違う。
誰かいるか確認するために扉を叩く音・・・
これは人・・・?

「・・・・・・」

それでもオレは怖くて扉を開けることが出来なかったのだが・・・

オレがずっと物音立てずにジッとしていると、扉は開かれた。
そしてそこには・・・

「大丈夫か!?」

人間だった。男性である。
年は五十代だろうか。鼻の下、顎に白い髭が生えていたのでオレはそう判断する。
そしてよくみると、男の服は胴着であり腕や胸はすごい筋肉でに包まれていた。

(格闘家?じゃあさっきまでの鈍い音はこのおじさんが?)

!!

オレはそんなことより、すぐに現状を確認するため、男を押しのけクローゼットから飛び出す。
嫌な予感がした。この生臭い臭い・・・

それはすぐに気付いた。
クローゼットを出てすぐにそれはあったからだ。

「ひっ・・・」

「っ、ダメだ!!見るな!!」

オレは男に抱き寄せられる。この残酷な有様を見せないように。
だが大柄な男がこんな小さな子供を抱き寄せたところで、隙間から見えてしまうのだ。

「オマエの両親なのだな・・・
二人は死してなお、クリーチャーをクローゼットに近づけようとはしなかった・・・」

その無残に切り刻まれ、食い千切られ、飛び散ったモノをオレは目に焼き付ける・・・
こいつらは絶対に何者かの意思を受けている。何故かそう思ってしまった。
こいつらが人の言葉で助けを求めたこと、
助けを求めながらも、自分の意思とは無関係に襲うような感じ・・・
それだけの理由で、いや十分な理由だ。オレはそう思った。

もちろん誰かのせいにしたかったということもある・・・
ただのクリーチャーならば、まだ諦めもつくこともある・・かもしれない。
それ程オレの村はクリーチャーの被害が酷かった。
一種の自然現象のようなものだ。

だがこれは何者かの仕業と思えてしまった以上、
オレは必ず復讐すると誓った!!
そのためには強く・・・強くならなければ・・・!!
強くなるには・・・





「ここまでがオレの村が滅ぼされた経緯だ。」

「スラップ・・・」

「悪いなデジュン。一番付き合いの長いオマエにも話してなくて・・・」

「いや・・・」

「しかしソール、オマエのはまだ聞いていないが、恐らく似たような境遇だろう。
この四人は皆、何者かに村を滅ぼされている・・・」

「オレはクリーチャー・・・」

「儂はガイアの手下じゃな。滅ぼされたといっても完全ではないが。」

「オレは謎の組織・・・」

「そしてオレはクリーチャーに似た生物・・・
これは偶然か?オレにはどうもそう思えないことがある・・・」

「確かに偶然にしては・・・
儂等にはいくつか共通点があるのう・・・」

四人はしばし考える。

「いや、すまない。
脱線してしまったな。話の続きをしようか。」

そう言い、スラップは話を続ける。





「何をしている?」

「・・・・・」

男はオレに声を掛けるが、オレは気にせず手で地面を掘り続けた。

「まさか村人全員の・・墓か?」

男の声はまったく耳に入らない。
そう、オレは考えていたんだ。これからのことを。

「ねぇ・・・」

「ん?」

「おじさん・・・強いんだよね?」

「いや、オレはまだ弱い。修行中の身だ。
この村を守ることが出来なかったしな・・・」

「でも、強かった・・・」

「そう、か・・・」

オレは土を掘るのを止め、男の目を見る。

「あたしは・・パパとママを殺した奴に復讐をしたい・・・
あのクリーチャーはいつものじゃなかった!!
あれは人間・・のようだった!!必ず誰かの仕業なんだ!!
そいつに復讐したい!!そのために強くなりたい!!」

「復讐は・・・何も生まない。
そんなことを考えるのは止せ・・・」

「それでも!!あたしは絶対許せない!!
あたしを強くして!!あいつらが倒せるように!!
おじさん格闘家なんでしょ!?だったら!!」

「しかし何者かの仕業かどうか分からないだろう。
ただ突然変異のクリーチャーであるかもしれん・・・
悪いことは言わん、復讐なんて馬鹿なことは止めろ。」

「絶対にあれはクリーチャーなんかじゃない!!
あんな苦しそうに助けを求めて・・・無理矢理戦わされて・・・
あたしの村の人達だって、あの人達だって・・・
好きで殺し合いをやった訳じゃない!!」

「・・・オマエはまだ若い、若すぎる。
今日のことを忘れろとは言わん、忘れられるはずもない。
だが普通に生きろ。それがオマエを命がけで守ってくれた父と母のためだ・・・」

「あの人達のためにも、あたしの家族のためにも・・・
このままあたしだけ生きていくなんて出来ない!!
あたしは絶対に村をこんな風にした奴に復讐をしたい!!
だからお願い!!あたしを・・強くじで、ひっく、ぐだ・・さい・・・」

男はしばし考えた。
そして・・・

「オレの名はクライス=トーラー。
オマエ、名は何て言う?」

「ひっく・・・ユナ。ユナ=ミズール・・・」

「ユナ・・・か。格闘家にしてはいまいちだな。
オマエは、そうだな・・・これからはスラップ=トーラーと名乗れ。
オレの弟子になる以上、女は捨てろ。オレもオマエを女扱いはしない。いいな?」

「わかっ、わかりました・・!!」

「修行はさっそく明日から行う。
・・・今日はみんなの墓を作ろう。オレも手伝う。」

「はい・・・」





「師匠のもとで修行すると決めたそのときにオレは女は捨てた。」
だから今まで女ということは隠して生きてきたんだ。
これからもオレのことは今まで通りに接してくれ。」

「わかったぜスラップ!!
悪いな、辛いことを話させて・・・」

「いや、辛いのはここのみんな同じだ。気にするな・・・」

「ふむ、そういう事情じゃったのじゃな・・・
しかし、今その師匠はどうなされているのじゃ?」

「あ〜、まぁ、喧嘩別れていうか・・・そんな感じだ。
別れたあとは一人で各地を旅しながら修行したり・・・」

「オレと闘ったあの格闘大会も修行のためだったのか。」

「そうだ。あんな結末になるとは思ってもなかったがな・・・」

「しかしスラップ・・・お主はどうするのじゃ?
このまま儂等と行動を供にして仇を探すつもりか?」

「ああ。オレ達のこの偶然、仇・・・
それは必ずガイアに関係すると思うんだ。
だからオレはこのままオマエ等と旅を続けるぜ。」

「お主がそう言うのなら・・・」

「ああ、改めてよろしくなスラップ!!」

「・・・・・」

ソールだけは胸の感触が忘れられずスラップの顔を見れずにいた。

「ああ、よろしくな。
おし、雨も止んだみたいだし今夜の宿を探そうぜ。」

「そうじゃな、もう日が暮れる頃じゃ。では行くかのう」

「ソール何突っ立ってんだよ、行くぞ。
あ、待てよスラップ!!」

「・・・了解。」

ソールはうつむき加減に答えた。
ソールはまだ胸の感触が忘れられず・・・

「さっきまでの雨が嘘のように綺麗な空だな・・・」

スラップは真っ赤に染まった空を見つめ考える。
師匠と墓を掘ってたときの空も、こんな綺麗な赤だったな・・・

スラップは、腰に掛けてあるナイフを握り締める。
それはあのとき母がくれたナイフ・・・

師匠・・・オレには大事な仲間がいます。
あのときは喧嘩して修行抜け出してしまったけれど・・・
この戦いが終わったら、こいつら連れて師匠に会いに行きます・・・
あのときのことを謝って、そして仲間を紹介します。
それまで待っていて下さい師匠・・・