第二十話
真実はどこに


「なるほどね・・・
 道理で見付からない訳だ・・・」

ドクターNは深い森の中で気配を絶ち、様子を伺う。
その視線の先には巨大な城がそびえ立っている。

そして、その城にぞろぞろと怪しい集団が入城して行く様をドクターNは見つめる。

「ここら一帯も既に調査はしたはずだが、あのときはあんな物無かった・・・
 だが今はここに存在する以上、考えられることは絞られる。
 何らかの装置で普段は姿を隠す、というのが筋かな?
 この事を早くデジュン達に伝えなければ・・・」

ガイアの兵と思われる連中が全員入城したのを見届けると、
ドクターNは退散しようとする、がその時だった。

「が!?」

この場から立ち去ろうと踵を返した瞬間、
ドクターNは顔を何者かに掴まれたのだ。

「・・・・・」

掴まれた指の隙間から見える顔に見覚えがあった。
それはエンファイ会場で現れた二人の内の一人、エイスであった。

「エイス・・・いや、オマエはやはり・・・
 私の予想が今、確信に変わったよ!!」

バァァァン

ドクターNの顔の布は跡形もなく、一瞬で燃え尽くされた。

「く・・・」

「その緑の髪、瞳・・・
 オレも今確信に変わったよ。
 やはり貴様だったか、ネス・・・」
 
「懐かしいな、こうやって顔を合わせるのは。
 オマエは少しやつれたんじゃないか?」

「あれから1000年も経つ・・・人が変わるには十分すぎる時間だ。
 オマエは変わらないな・・・姿、声、年・・・何も変わっていない・・・」

「1000年か・・・人が腐るには十分すぎる時間だ。
 オマエはその長い時間、体が腐るより先に頭が腐ったかよ。
 オレが変わっていないなら、オレがどういう人間が分かるだろ?
 まさか忘れちゃいねぇだろうなっ!!」

ネスと呼ばれた男は、いつものように煙球を地面に叩き付ける、
はずだったが・・・

エイスはネスの煙球を持つ右腕を掴んだ。
掴まれた右腕は一瞬で真っ黒な灰にされる。

「ぐっ、あぁぁあ!!」

「分かっているさ・・・長い付き合いだ。
 相変わらず、下らん玩具遊びが好きなんだろ?」

「くっ・・・!!」

「貴様の右腕はオレの炎で灰にした・・・
 今この場で殺されたくなければ妙な真似はするな。」

「っ、なぁんてな。くっくっ・・・
 全てお見通し、さすが供に戦った仲間てか?」

腕を跡形もなく燃やされたはずのネスからは、
痛み、恐怖といったものがまったく見られなかった。
そればかりか、血や、肉を燃やしたときの嫌な臭いがまったくない。

「相変わらず、よく分からん男だ・・・
 まさか、自分の身体までも玩具にしたと?」

「御名答、だがそこまで分かっていながら油断したな!!
 オマエもそのスカした性格は変わってねぇよ!!」

ネスの腹部が左右に開き、光輝く。

「っ!!」

「くらえ!!
 オレの新兵器、『ビッグバン・カノン』!!」

「そんなおもちゃが私に通用すると思ったか?」

「なんだと!?」

「オマエは私の仲間だった最後の一人。
 残念だよネス・・・」

エイスの右拳に黒炎が集まり、それは漆黒の火剣となる。

「レーヴァテイン!!
 燃え尽きろ!!我が炎の剣に!!」

エイスの火剣は巨大化し、ネスに向かって伸びる。
それはネスの腹部から放たれた光を貫き、そして・・・

「くっ!!こ、こんな・・ぁっ・・
 がぁああぁぁぁぁぁああああぁああぁあああああああああぁぁ!!」





「オマエ達大丈夫かぁ?」

戦いを終えたデジュンはスラップ、リアナ、ソールに駆け寄る。

「来るの遅ぇんだよ・・・」

「ごめん・・・」

「まったくじゃ。
 ・・・じゃが、お主も精霊の力を得たのじゃな?」

「ああ、あのとき突然力が溢れて来たんだ。
 オマエ達みたいにまだ精霊には会っていないけど・・・」

「おそらくこの近くにいるのじゃな・・・
 儂等はここで休んでおる。デジュン、火の精霊に会ってくるのじゃ。」

「おう!!
 そうだ、回復魔法使えないんだろ?みんなこれ使えよ。
 ラキの母ちゃんから貰った薬だ。」

デジュンはリアナ達に傷薬を渡した。

「よし、じゃ行ってくるよ!!」

「デジュン・・・」

そこでソールが呼び止めた。

「ん?」

「ありがとう・・・
 そして・・・よ、よろ、よろしく・・・」

「無理するなよ・・・
 ま、改めてよろしくな!!」

「オレはスラップだ。
 ドンダケのときの不意打ちは貸し一つな?
 て訳でよろしく。」

「儂はリアナじゃ。
 たった一人の可愛い女子じゃからとて、襲うでないぞ?
 うむ、よろしくなのじゃ。」

「・・・よろしく・・・・」

「あはは、なんだよオマエ等のそれはぁ」

(これがお互いが手を差し伸べ、掴み合うという事、仲間という事・・・
 デジュン、オレはオマエから大事なものを教わったよ・・・
 本当に、ありがとう・・・)

「よし、あまり耐熱魔法の時間も残ってないしな。
 急いで行くよ、それじゃ!!」

デジュンを見届け、ソールは二人に聞く。

「いつもアイツはああなのか?」

「そうじゃな・・・
 あの明るさに、儂も不思議と引き付けられた。
 本当に不思議なやつじゃよ。」

「ただのバカという見方も出来るがな。
 ソールもそんなデジュンに引き付けられたんだろ?」

「・・・そうだな。
 オレはあいつ、オマエ等と供に戦うと決めた。
 もう後悔しないために・・・」





「大体ここらへんのような気がするが・・・
 あそこ・・・か?」

明らかに怪しい洞穴、今までのパターン上有り得ると呟き、
デジュンは洞穴に入っていく。

中は一切の光が無く、どこまでいっても暗闇であった。
だが、不思議と迷うことなくそこに辿り着いた。

「よぉ兄弟、オイラの力、気に入ってもらえたか?」

どこからともなく聞こえる声。

「あんたが火の精霊・・・か。」

淡く輝く少年はデジュンの問いに答える。

「正解、これでオマエ達は四人の精霊の加護を得た訳だ。
 まずはおめでとう。」

「あのとき、あんたの力が無ければオレ達はやられていた。
 えぇっと、ありがとう・・・ございます。」

「そんな無理してかしこまらなくていいぜ?
 元々助ける気なんか無かったんだしな。」

「な・・・」

「あそこでやられるなら、それも運命・・・
 それまでだった。だが・・・」

火の精霊の指先に小さな映像が表示される。

「分かるか?これがオマエの前世、勇者の一人マルスだ。」

「そいつが!?オレの・・・」

それはデジュンが夢で見た銀髪の剣士だった。

「あいつもな、仲間のためになら自分を犠牲にしてでも戦い、
 そしてどんな絶望的な状態でも決して闘志の炎を消さず戦い抜く奴だった・・・」

「・・・・・・」

「あいつをオマエに重ねて見てしまったんだよ。
 そんなわけだ。オイラが力を与えたのは。」

「なんつぅか・・・」

「精霊のくせにいいかげんだってか?
 まぁ四人の精霊の中じゃオイラが最年少だしな(笑)」

「ははは・・・」

「で、オマエさん達はこれからどうする?
 やはり先代の勇者達と同じく、星神ガイアと戦うつもりか?」

「当たり前だ!!教えてくれ!!ガイアが何故星神なのか、
 封印されたはずのガイアが何故復活したのか、この世界の真実とは何か!!」

「ん〜いくつかオイラ達精霊からは答えられないのがある。
 それでもよければ、ヒント程度なら答えることは出来るが。」

「それでもいい!!教えてくれ!!」

「まずガイアが星神、これは事実。
 ガイアはこの星の創世記から存在している、この星の防衛システムなんだ。」

「防衛、システム・・・?何のための?」

「それは"怨霊"、"クリーチャー"・・・
 色々呼び方はあるみたいだけど、正式名称は"デスミオス"。
 そのデスミオスからファルスティアを守るためだ。」

「クリーチャー・・・デスミオス・・・
 っ!!て、ことはガイアとそのデスミオスは・・・
 ガイアがデスミオスを操っている訳ではないて事か!?」

「ありゃ、てっきり知ってるものかと思ったけど。
 オマエ達はそういう認識だったんだな。」

「デスミオスて一体何なんだ!?
 奴等の目的、何故オレ達人間を狙う!!」

「オマエが人間かは別として・・・
 デスミオスはこの世界に生きとし生ける物全ての天敵とも言える存在。
 奴等の目的等は一切不明だ。無限に現れ、破壊の限りを尽くす。
 そしてそれらからこの星を守る、それが星神ガイアだ。」

「でもデスミオスはかなり前から存在しているし、それは一体?
 ガイアの防衛システムなんか機能していないじゃないか!!」

デジュンに構わず、火の精霊は続けた。

「永い間、この星を防衛していたガイアの力は徐々に弱り始め、
 それに比例して活発化するデスミオス、そしてどういう訳か突然のガイアの暴走。
 暴走したガイアは、自らの体から異形の者を作り出し、人間達に牙を剥くようになった。」

「それはまさか・・・」

「その暴走したガイアを止めるために四人の者が立ち上がった。
 それがオマエ達四人の前世、"マルス""サラ""リューネ""アデュー"だ。
 そして四人はガイアを封印し、ガイアから生み出された異形の者達も活動を停止した。
 ガイアが封印されたおかげで、更にデスミオスは活発化する結果となったけどな。」

「何が何だか分からない・・・そんなことが・・・」

「だが100年程前に何者かがガイアを復活させた。
 一体何のために復活させたのか・・・
 いや、むしろガイアの暴走こそがこの戦いの発端だ。
 一番の疑問はその暴走だろうな。」

「まさかエイスとオージが・・・?」

「・・・さぁね・・・
 オレが答えられるのはギリギリここまで。
 あとは自分の目で確かめてくれ。」

「・・・わかった。
 色々ありがとな。おかげで色々分かったよ。」

「いや、オイラもギリギリの状態・・・
 オマエ達に加護を与えるていうのはな、結構身体に負担が掛かるんだよ。
 しばらくは人間の前に姿を現すことは出来なくなる・・・
 その間にオマエに話せて良かったよ。」

「・・・何故そこまでして、自分の身を削ってまで・・・
 オレ達に力を貸してくれるんだ?」

「オイラ達精霊はガイアから生み出された身。
 だからといってガイアとは完全に独立した存在だから、ガイアの状態には影響されないけどね。」

「ガイアから生み出された存在だって!?」

「でも、例えかつては人間の敵だったとしても・・・
 オイラ達の生みの親であるガイアが何者かに利用されるというのなら、
 それを止めたいと思うのが普通だろ?」

「・・・・・」

「さぁ、もう時間だ・・・
 どうか、オイラ達の親を解放してやってくれ・・・
 この悲しい運命から・・・」

そう言い残し、火の精霊は消えてしまった。

「ガイアとデスミオスは繋がっちゃいなかった・・・
 オレはガイアが仇だと思い込んでいた・・・」

ガンッ!!
拳を思い切り壁に叩き込む。

「くそぉぉぉぉぉっ!!
 オレは今までみんなの仇じゃない奴と戦っていたってのか!!」

デジュンは更に何発も壁に叩き込む。

「オレ達は何も知らなかったんだっ!!
 くそぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」