第四十話
今まで当たり前だったモノ
「叶野、次はこれを向こうまで運んでくれ。」
「あ、はい。わかりました。」
オレは優が働いている会社で、夜の荷物整理のバイトを始めた。
もちろん荷物整理だけでなく、PCにデータを打ち込んだりとかもしている。
その会社はそれなりに大きな運送会社らしく、深夜も結構忙しいし、オレのようなバイトも多い。
ここでのバイトで何が良いって、ガーデンより時給が良いし、オレの家からかなり近いって事だ。
オレは背も高いし、見た目が力ありそうだったのもあるが、
やはり家が近いってのが採用された決め手なんだろうな。
「それが終わったら休憩してきていいぞ。」
「わかりました。」
ガーデン以外のバイトは初めてなので、正直かなり不安だった。
知っている人間は一切いない、まったく初めての職場・・・
しかし、他の人も別に悪い人ではなく、親切に教えてくれる。
やっぱり、ずっと狭い世界にいるのはダメだな。
色んなバイトをして、色んな経験をしておくべきだと今更思う。
休憩室に入るが誰もいない。
ま、一人で休憩する方が気楽だし・・・
オレはタバコに火を付ける。
まだ20歳では無かったが、ガーデンでは喫煙を注意される事は無かった。
ガーデンはそこら辺が緩々なので、喫煙しまくりだ。
普通に考えたらダメに決まってるんだろうが、何で店長は注意しないんだろうな?
だがここはガーデンじゃない。喫煙しているのを見られるのはちょっと問題だよな。
なので休憩室では一人のときだけ吸う事にしている。
「〜〜〜・・・ふぅぅぅ・・・」
オレの勤務時間は基本18時から22時か0時まで。
優は朝から18時までの出勤なので、丁度入れ違いになる。
オレは未だに優とは気まずいが、優自身はオレの事を一体どう思っているんだ?
普通なら元カレと同じ職場なんて気まずいだろ・・・
それなのにオレをバイトに誘うだなんて・・・
綾音はオレが今どんなバイトをしているのかもちろん知っている。
だが元カノが働いている会社でバイトしているとは言っていない。当たり前だが。
バイトを始める前から罪悪感はあったが、バイトが始まり日が経つにつれ、ますます罪悪感が強くなる。
本当にオレは、こんな所でバイトをしていていいのだろうか・・・
綾音は・・・オレがいないガーデンで真面目に働いているだろうか・・・
オレがいないから・・・他の男と仲良くしていないだろうか・・・
不安過ぎて・・・浮気されるのが怖くて、裏切られるのが怖くて・・・
いや・・・綾音はそんな事をする子じゃないとオレが信じないでどうする。
ついこの前のオレの誕生日に、綾音は何をくれた?
綾音はジッポのライターをくれたんだぞ。
どこにでもあるような、そんなに高いライターじゃないけど。
だがこのライターはすごく大切で、価値がある物だ。
このライターにはオレの誕生日の日付、そしてオレと綾音の名前が彫ってある。
綾音から渡されて、名前が彫られているのに気付いたとき、すごく嬉しかった。涙が出るほどに・・・
男のくせに好きな女の前で泣くなんてすごく恥ずかしい事だけど、綾音は恥ずかしくないって言ってくれて、
泣いてくれるなんてすごく嬉しいってまでも言ってくれて・・・綾音までもが嬉し泣きしてしまった。
好きな女の子から誕生日を祝ってもらうのがこんなにも嬉しいだなんて思わなかった・・・
そんな子がオレを裏切る、浮気するなんて考えられるか?
ないだろ、そんな事・・・
だからオレは綾音を信じるよ。オレだけを好きでいてくれるって・・・
確か綾音の誕生日はもうすぐだ。
こんな良い物をオレはもらったんだ・・・
だったら、オレも綾音に喜んでもらえるような物をプレゼントしよう。
でも・・・
一体何をプレゼントすれば良いのか?
女の子へのプレゼントといったら、やっぱりアクセサリーか?
初めてのプレゼントでアクセサリーっていったら、指輪がセオリーか?
「・・・・・」
よし、指輪にしよう。それが良い。
値段は?2、3万くらいか?
今月はゲームやアニソンCD、コミックと出費が多いが・・・
大好きな彼女への初めての誕生日プレゼントだ。
今の給料だったら、これくらい何ともない。はず・・・
指輪を買いに行くっていっても、男一人じゃアクセサリーショップに入り辛いだろ。
だったら誰かと一緒に行けばいい。綾音以外と・・・
誰と?優と・・・?
優と一緒に行けば何の恥ずかしくもなく入れるが・・・
むしろ、色々アドバイスをしてくれるかもしれない。
・・・普通に考えてダメに決まってるじゃないか。
オレは最近どうした?一体何を考えている?
無意識に優を求めている?
・・・そんなバカな。
もう昔の彼女なんだし、向こうだってオレの今の彼女を知っている。
ただ、優は人より面倒見が良いだけだ。オレが勘違いしているだけなんだよ・・・
優はオレの事をもう何とも思っていない。全てオレの妄想だ。
深く考えるな・・・
「で・・・それでオレかよ。」
「他に誘える相手なんていねぇんだよ。」
「オマエさぁ、女にやる指輪くらい一人で買えるようになれっつうの。」
「しょうがねぇだろよ。プレゼントなんて初めてなんだし。」
オレは結局、圭介と一緒にアクセサリーショップに来ていた。
どこのアクセサリーショップが良いかなんてオレには分からない。
だが圭介はよくこの店に来て自分用のアクセサリーを買っているらしい。
更に、つい最近出来た彼女への誕生日プレゼントまでもここで買ったという・・・
こいつは、彼女が出来る前からアクセサリーを身に付けたり、
それなりにオシャレには気を遣っている。
オレもこんな風にオシャレするべきなんだろうな、本当は・・・
圭介とは中学の頃からずっと一緒に遊んできて、
一緒にエロゲーを買いにいったり、成年コミックやゲームを貸し借りしたり・・・
そんな奴に彼女が出来て、オシャレをして、どんどんオレから離れて行く気がする。
彼女が出来たからか、最近はオレと遊ぶ事もなくなった。
いつか、オレは綾音と付き合うとき、友情と愛情のどちらを優先するかと考えたが、
圭介は愛情を優先している。言うまでもなく、もちろんオレもそうだ。
先に愛情を優先したのはオレだし、圭介を咎める事なんてオレには出来ないが・・・
何故だろう。虚しさを感じる。
オレが圭介の遊びの誘いがあっても断り、綾音を優先していたときも、
圭介はこんな思いをしていたんだろうか?だったら、オレは自業自得だな・・・
「こんなのどうだ?
オレも似たようなの自分の彼女にあげたけど結構喜んでくれたぜ。
値段も手頃だし、丁度いいんじゃね?」
「ああ、いいかもしれん。」
「てかさ。」
「ん?」
「オマエ、自分の彼女の指のサイズ知ってんの?」
「あ・・・」
全然考えて無かった・・・
盲点だ・・・
「あ〜あ、バカだなオマエ。」
「・・・・・」
「どうすんの?」
「勘でいくしか・・・大体こんくらいってサイズは分かる。」
「ホントかよ・・・オレ知らねぇぞ。」
綾音の指のサイズを調べなかった自分が悪いんだが・・・
調べるって綾音に指のサイズを聞くのか?それだとプレゼントが指輪だってバレるじゃん。
ビックリさせるためにも、指のサイズを聞かない方が良いんじゃないか?
「圭介は、彼女の誕生日に指輪プレゼントするときどうしたんだ?
彼女に指のサイズ聞いてから買ったのか?」
「まぁ・・・それとなーく指のサイズ聞いて買った。」
「それってどうなの?指輪あげるって言ってるようなもんじゃん。
何も知らない彼女に渡す方がサプライズだろ?」
「サイズ間違えて渡したら恥ずかしいだろ。
まぁサイズ直しも出来るが・・・それも情けないし。」
「そういうもんか・・・」
いや、でも最悪サイズ直しが出来るって事が聞けて良かった。
まぁピッタリのサイズが一番ベストなんだが・・・
「じゃあオレこれ買うよ。」
「ああ。後悔すんなよ?」
「大丈夫だ。オレの目に狂いは無い。」
「いつもそうやって地雷ゲー買ってんだけどな。」
「大丈夫だって。」
これで綾音への誕生日プレゼントは買った。
あとは綾音の誕生日を待つだけだ・・・
バレンタインのお返しはプレゼントに入るだろうか?
いや、あれはプレゼントとしてはノーカウントだろ。
だったら、この指輪が綾音への初めてのプレゼントになる。
一体綾音はどんな顔をするだろう?
喜んでくれるだろうか?
綾音の喜ぶ顔を思い浮かべただけでオレの顔がニヤける・・・
「なんだよオマエ・・・気持ち悪ぃ。」
「うっせぇな。
よし、買ったし帰るか。」
オレと圭介は帰り道、お互いの事について話した。
自分等が好きなエロゲーの事とか、女の子への接し方とか・・・
「マジかよ。彰、彼女にエロゲー言ったんだな。」
「ああ。いつまでも隠しておく訳にはいかんだろよ。」
「勇気あるなぁオマエ。オレはこのまま隠しておくが。」
「隠し続けて後で見つかったら、そっちのがオレは怖かったからな。」
「だからって、オレは言えんなぁ・・・
だって女って、こういうの見たら絶対キモイって言うだろ?
自分等はアイドルとか見てキャーキャー言うくせに、
男の好きな物に対してはとことんうるさいからなぁ・・・」
「それは一部のビッチだ。
オレの彼女である綾音は良い子だぞ。」
「テメェのノロケはいいってばよ。」
「オマエだって、さっきまでノロケてたじゃん。お互い様だ。
彼女が出来て浮かれすぎだぞ、最近までは童貞だったくせに。」
「うっせぇな。オマエみたいにヤリまくってねぇんだよ。」
「オレだってヤリまくってねぇっての。」
「どうだかな。」
久しぶりの圭介との会話・・・
やっぱりお互い彼女の方が大事に決まっているだろうが、
こういう友情も大切なんだな・・・
「じゃあオレ向こうだから。」
「ああ。」
「彰、一応オマエの彼女の反応教えろよ?
オレのオススメの店のアクセサリーがどんな評価か聞きたいし。」
「分かってるよ。じゃあな。」
女の子と話すのも楽しいが、やっぱり男同士で話すのも楽しいよ・・・
オレは、彼女と、彼女の回りしか見えていなくて、自分の回りの人間を蔑ろにしていた。
これからは、もう少しこういった圭介との関係も大切にしないとな・・・
今まで当たり前のようだった関係が、これからも続くとは限らない。
今のオレには、もし万が一綾音を失ったら・・・
そのときは本当に一人ぼっちになるんだから・・・